改:第87話.縁は異なもの【連枝の行方.第二部①】 | 風月庵~着物でランチとワインと物語

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毎日着物で、ランチと色々なワインを楽しんでいます。イタリアワイン、サッカー、時代劇、武侠アクションが大好きです。佐藤健さんのファンで、恋はつづくよどこまでもの二次創作小説制作中。ペ・ヨンジュンさんの韓国ドラマ二次創作小説多々有り。お気軽にどうぞ。

第87話.縁は異なもの

【連枝の行方.第二部『世界は愛に満ちている』①】

船着き場から小さな船に乗り、幾らも経たぬうちに4人は南怡島へ到着した。別荘までは少し距離がある。雪が溶けたばかりの固いデコボコ道を抜けると、両側に背の高いメタセコイヤの並木道が現れた。
「いい所ですね」
「えぇ、風も光もとても気持ちいい。あの時のままだ」
「来た事があるんですか」
男は笑いながら答えた。
「ここで妻にプロポーズしたんです」
「そうですか。僕らは今日、結婚式を挙げました。南怡島へは仕事を兼ねた新婚旅行です」
「それはおめでとうございます」
「ありがとうございます」
新婚の二人は嬉しそうに仲良く頭を下げた。

南怡島の別荘は静かな森の奥にひっそりと建っていた。
「手前の広場にあるのが管理人の家です。赤レンガの煙突が目印ですよ」
暖炉があるのか煙突から芳(かぐわ)しい煙が燻(くすぶ)っている。
「何かしら、いい香りね」
ヒョンスはチラリとギョンヒを見ると、クンクンと鼻を鳴らした。
「本当に旨そうな匂いだなぁ」
「兄さんったら、おかしい」

その言葉はある意味、当たっていた。香りの元に住む管理人は、別荘の鍵と段ボールいっぱいの食材を用意していた。
「わぁ、凄い。どれも新鮮で美味しそう」
「ほら、俺が言った通りだろう」
「今日の朝、近くの農家で収穫したものばかりです。たっぷり入れてありますが、もし足りなかったら言って下さい。いつでも追加出来ますよ」
そう言われて持ち上げてみると、殊(こと)の外重く、男はバランスを崩しヨロリと蹌踉(よろ)めいた。
「わぁ~お父しゃん、危ないよ」
「大丈夫ですか。私が持ちましょう」
「花嫁さんに持って貰うなんて」
「無理をするとまた転びますよ。ねぇ、ダへちゃん」
「そうだよ、お父しゃん」
「私は平気です。実家の荷物もよく運んでいましたから、慣れているんです」
「すみません」
「コツがありますから大丈夫ですよ」
「コイツは賢いんです。任せて下さい」
「ありがとうございます」
恐縮する男は娘と共にペコリと頭を下げた。

4人は揃って管理人の家を出た。
「申し遅れました。僕はクォン・ジョングクと言います。春川で獣医をしています」
「僕はチョン・ヒョンス、これは妻のイ・ギョンヒです」
初めて妻と言われ、ギョンヒは恥じらう様に頭を下げた。
「普段はソウルの設計事務所にいますが、二人とも実家は春川なんです」
「そうでしたか。そりゃ、奇遇だ」
「お父しゃん、キグウって何?」
「ええと家が同じ春川にあるのに、遠くで会えて不思議だってことだよ」
「ふうん、よく分かんない」
可愛い仕草に二人は顔を綻(ほころ)ばせた。
「ありがとうございました。本当に助かりました」
礼を述べたジョングクは思い出した様に言った。
「そうだ、管理人の焼くパンはなかなか美味しいですよ。朝早く行くと焼き立てのパンが食べられます」
「それはいいですね。ギョンヒ、明日の朝早起きして行ってみよう」
そんな事を話しながら二組は各々の別荘へ向かった。

部屋へ入ったジョングクは娘と二人で大きな窓を開け放った。森の空気は町の中とは違い、格別な美味しさだ。ベランダへ出た父と娘は同じ仕草で大きく背伸びをした。
「あぁ、気持ちがいいなぁ」
「気持ちいいなぁ」
ベランダの向こうへ視線を向けると、大きな袋にいっぱいのパンを抱えた若い男が、目の前の小道を縺(もつ)れるように走って行く。
「お父しゃんみたい」
「えっ?」
「転びそうだよ」
ダヘが言った途端、男は落ちていた小枝に躓(つまず)いた。その拍子に一番上にあったミルクパンがポーンと袋から飛び出した。
「わっ!」
綺麗な放物線を描いたパンは、見事にジョングクの手の中へ収まった。
「おぉ~」
「お父しゃん、パンが降ってきたよ」
こちらを見た男はダへの可愛い仕草に顔を綻(ほころ)ばせた。
「そのパンあげるよ」
「ありがとうごじゃいます」
ペコリと頭を下げた仕草があまりにも可愛らしかったのか、男は満面の笑みのまま、草むらを越えてベランダまでやって来た。
「焼きたてのパンだから美味しいよ」
「あれ?管理人さんがパンを焼くのは朝だけなんじゃ…」
「管理人は僕の兄なんです」
「あぁ、それは失礼しました」
男は照れた様に頭をかいた。
「実は妻が妊娠しまして、何か食べたいものはあるかと聞いたら兄が焼くパンが食べたいと」
「それはおめでとうございます。私の所もこの前、二人目が出来まして」
「私、お姉しゃんになるのよ」
男はまた嬉しそうに表情を崩した。
「可愛いなぁ。もう一個あげよう」
ダへはニッコリ笑うと大きなパンを受け取った。
「僕はコン・ナミル(孔南一)と言います。春川でメガネ屋を営んでいます」
「お父ちゃん、奇遇だね」
「ホントだ」
父娘は顔を見合わせ笑い出した。
「実は僕も春川で獣医をしているんです。それから隣の別荘の新婚さんも、春川出身だそうですよ」
「こりゃ、奇遇だ」
「ハハハ~」

一頻(しき)り笑うとナミルはパンの袋を抱え直した。
「ではまた。さようなら、ダへちゃん」
「おじさん、さようなら」
「さようなら、女の子は可愛いなぁ」
「春川でまた会えるよ」
「ハハハ~そうだね」
「赤ちゃん、見に行くね」
「あぁ、いいよ。いつでもおいで」

ジョングクは走り行く背中を眺めながら呟(つぶや)いた。
「何となく女の子が生まれそうだ」
「うちの赤ちゃんは?」
「あ…男の子かな」
「うちの赤ちゃんも生まれたら連れていこうよ。一緒に遊べるよ」
「そうか、同級生か」
ジョングクの息子ヨングクと、ナミルの娘ジンスクが出会うのは、もう少し後のことになる。

次回:第88話.新婚の部屋

(風月)