改:第48話.ダンディの帰国【ニューヨーカー『ヨンジュンのオフの過ごし方』】 | 風月庵~着物でランチとワインと物語

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毎日着物で、ランチと色々なワインを楽しんでいます。イタリアワイン、サッカー、時代劇、武侠アクションが大好きです。佐藤健さんのファンで、恋はつづくよどこまでもの二次創作小説制作中。ペ・ヨンジュンさんの韓国ドラマ二次創作小説多々有り。お気軽にどうぞ。

第48話.ダンディの帰国

【ニューヨーカー『ヨンジュンのオフの過ごし方』】

不思議なことにルナは小さなスプーンを買っただけで、キッチン用品は買わなかった。その代わりにアメリカの伝統的な料理の本と、花とハーブを使った料理のイラスト集を何冊か買っていた。色々な物を詰めて、壊れないように丁寧(ていねい)にパッキングを入れて、段ボールを閉じた。

別の箱にはフェラーリやヤンキースの帽子を詰めた。これがニューヨークからソウルまで行くんだなぁ。
「これでおしまい?」
「えぇ」
何個か段ボールが山積みになって、最後にダンディが残った。テーブルの上には運送屋さんから貰った大きなビニール袋がある。これにダンディを入れて口を閉じれば梱包は終わる。明日、運送屋さんが来てトラックに積めば、お土産もダンディも皆ソウルへ届く。

だけど私もヨンジュンも、テーブルの上にある袋へ手を伸ばさなかった。
「ヨンジュン」
「うん」
「運送屋さんが来るのって、明日の午前中よね」
「あぁ」
「ダンディを入れるのは朝でもいいわよね」
「そうだな」
それから二人で何となくダンディを見ていた。私はそれ以上言えなかったし、ヨンジュンも、いつもよりとても口数が少なかった。

日が暮れる前に、ヨンジュンはダンディと一緒に写真を撮ろうと言った。テーブルの上にはさっきまで飲んでいたミネラル水のボトルがあって、空っぽなのを知ったダンディはションボリした様に見えた。

ヨンジュンはそんな姿を一枚パチリと撮った。私は白いカップにジャスミン茶を入れた。温かな湯気がフワリと上がっている。
「どうぞ、召し上がれ」
大きなダンディが身体を前のめりにした時には、良い香りにクンクンと鼻を利かせている様で、その愛くるしい仕草に二人で笑ってしまった。

夕陽を見せようと抱っこして窓辺に連れて行った時には、ダンディはまるで高所恐怖症の様にのけぞるから、ルナは小さな手で必死に押さえていた。窓の外にはビルに映るオレンジ色の夕陽があって、その中で優しく微笑む二人の姿を僕はカメラに収めた。

夕食を終えてソファーで寛(くつろ)ぐヨンジュンの横には、ダンディが座っていた。テレビを見ながら時々笑うヨンジュンは、フワフワの身体を何度も撫でていた。私はそんな二人の姿を後ろから眺めていた。

もう寝ようとベッドルームへ行くと、ルナはベッドの横にダンディを置いていた。
「ルナ」
僕はベッドへ入り、キスをしながら彼女の読みかけの本を閉じた。
「ヨンジュン、明かりを消して」
「あぁ…うん」
それでも窓からマンハッタンのネオンの光が入って、ダンディの顔がしっかりと見える。
「う~ん、ルナ」
キスをしようとすると、隣にいるダンディが何となく気にかかる。
「ちょっと後ろを向いていてくれるかな」
片手でやったから、勢い余って転がしてルナに怒られた。

Tシャツを脱いだヨンジュンは上半身を乗り出してダンディを起こすと、子供の様に口を尖らせた。
「何か見られてるみたいで恥ずかしいなぁ」
「そんなことないわよ」
「でもさぁ~」
彼は私から脱がせたTシャツを持ったまま、ポリポリと頭をかいている。
「じゃあ、こうして」
私は彼の手からTシャツを取るとダンディの顔に掛けた。
「たくさん遊んだから、もう眠いんですって」
「そうか」

楽しそうに笑うヨンジュンは、私のおでこに優しいキスをした。
「ルナ…今度はルナがキスして」
今夜の彼はとても甘えている。
「ねぇ、ルナぁ」
「分かったわ、ちょっと待って」
とても静かな夜。おやすみなさい、ダンディ。私はもう少し彼の腕の中にいるわ。

翌日、ヨンジュンはダンディを袋に入れる前に一人だけで写真を撮った。
「パスポート用の写真だ」
彼はそう言って笑っていた。

やがて運送屋さんが来て、ダンディはトラックに乗って行ってしまった。トラックが交差点の角を曲がるまで、私たちはずっと見ていた。どうしてかしら、ちょっとだけ涙が出そうになった。
「ルナ」
「ヨンジュン」
大きな手がいつの間にか私の手を握っている。ダンディはたくさんのお土産と一緒に、一足早くソウルへ向かった。

次回:第49話.恋におちて

(風月)