改:第46話.それぞれの事情【ニューヨーカー『ヨンジュンのオフの過ごし方』】 | 風月庵~着物でランチとワインと物語

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毎日着物で、ランチと色々なワインを楽しんでいます。イタリアワイン、サッカー、時代劇、武侠アクションが大好きです。佐藤健さんのファンで、恋はつづくよどこまでもの二次創作小説制作中。ペ・ヨンジュンさんの韓国ドラマ二次創作小説多々有り。お気軽にどうぞ。

第46話.それぞれの事情

【ニューヨーカー『ヨンジュンのオフの過ごし方』】

濡れた髪をドライヤーでしっかり乾かすと、僕らはベッドに横になった。
「少し眠ろう」
「うん」
ブランケットを胸まで引き上げ、私たちは手を繋いで眠った。

目を覚ましたのはそれから一時間以上経ってからだった。
「あぁ、よく寝た」
緊張が解(ほぐ)れ、身体が軽くなっている。それはいいんだけど。
「あっ…」
グーグーと派手に鳴る僕のお腹の音に、目をつぶっていたルナはとうとう吹き出した。
「うふふ~おかしい」
「何だルナ、起きてたのか」
「我慢してたのに」
「うん?」
「私もお腹空いた」
耳を澄ませば確かに僕ではないお腹の音が聞こえる。
「アハハ~」
僕らは顔を見合わせて笑い出した。どんな時でも人はお顔が空くんだね。空き過ぎて痛いくらいだよ。
「起きようか」
「うん」
ルナの肩を抱いて僕はベッドの上に起き上がった。置かれた手がそっと私の肩を擦(さす)っている。
「おっ…少し柔らかくなってるな」
「そう?」
「さっきよりだいぶいいよ」
そう言って彼は私の肩を揉(も)んでくれた。
「あぁ、気持ちいいわ」
ヨンジュンの大きな手で揉まれると、本当に気持ちがいいの。
「ヨンジュンは?」
「うん?」
「交代して」
「もういいの?」
「ありがとう」
後ろへ回って膝を付いたルナは僕の肩を揉み始めた。
「ヨンジュン」
「うん」
「分かる?柔らかくなってる」
「あぁ、分かるよ」
小さな手が一生懸命、肩を行き来している。子供が揉んでいる様で、可愛くてその上とても気持ちがいい。
「もういいよ、おいで」
「まだ…」
「大丈夫だよ、ありがとう」
彼女を少しだけ強引に引き寄せて、レースのカーテンを開けて外を見れば、 高層ビルの一室で誰かが思いっきり背伸びをしている。両手を上げ過ぎたのか、彼女はバランスを失い、 後ろへひっくり返りそうになった。それで一人で必死に暴れている。面白いなぁ。
『あっ!』
「あっ…」
視線が合う程ではないけれど、互いの存在に気づいたのか、窓の向こうの彼女は慌ててオフィスの中へ姿を消した。 それから僕は自分の姿に気づいた。こんな時間からベッドの上にいた僕らは、Tシャツは着ていたけれど、 二人とも下はパンツのままだった。
「まぁ、それぞれ事情があるからね」
「えっ?」
「ううん…今、何時?」
「もうお昼過ぎてるわ」
「そうだよね」
ベビーショップはとっくに開いている。窓の向こうの彼女も午後の仕事を始めただろう。
「ご飯、食べに行こうか」
「うん」

僕らは近くにある『オーボンパン』で遅いランチを取った。 オーボンパンはマンハッタンで何件か見掛けるチェーン店のカフェだが、コーヒーだけではなく、 サンドイッチやサラダバー、スープバーとサイドメニューが充実している。 ちなみに『オーボンパン』とはフランス語で『美味しいパン』という意味らしい。 だから遅いランチの時間でも、まだまだ混雑していた。

その中に紛れて、僕は山盛りのサラダとマッシュルームスープを取り、パストラミ(牛肉の燻製)サンドをオーダーした。 ルナはスモークチキン・クラブサンドと野菜サラダ、スープはパンプキンスープにした。
「ルナ、そっちのスープも飲ませてよ」
「いいわよ」
トロトロのカボチャの甘みがとても美味しい。もちろん具もいっぱい入っている。
「じゃあ、これも」
ルナは自分のサンドイッチを半分に分けた。実はこのスモークチキン・サンド、あまりにも大きかったので、 半分は僕が食べるという事でオーダーしたんだ。 厚めのトーストにトロリと溶けたチェダーチーズが乗って、その上にスモークチキンと、カリカリに焼いたベーコンと、 真っ赤なトマトに新鮮なグリーンレタスが重なって、かなりのボリュームだ。それにとても美味しい。 ルナが言うにはどうも隠し味に、フランス料理でよく使うベアルネーズ・ソースを使っているらしい。
「マヨネーズに少し似ているかしら。グリルした肉や魚によく合うのよ」
「ふうん」
また一つ、ルナから美味しい物を教えて貰った。

食べながら僕はこれからのスケジュールを聞いてみた。
「ベビーショップなんだけど」
「うん」
「ミッドタウンのヤンキース・ショップにね、ベビー用がたくさんあるみたいなの」
「あっ、それいいね。そこにしよう」
可愛い二人のプレイヤー姿が頭に浮かんだ。

次回:第47話.ショッピングに付き合う事

(風月)