改:第1話.ピンチ【迷子のミーシャ】 | 風月庵~着物でランチとワインと物語

風月庵~着物でランチとワインと物語

毎日着物で、ランチと色々なワインを楽しんでいます。イタリアワイン、サッカー、時代劇、武侠アクションが大好きです。佐藤健さんのファンで、恋はつづくよどこまでもの二次創作小説制作中。ペ・ヨンジュンさんの韓国ドラマ二次創作小説多々有り。お気軽にどうぞ。

第1話.ピンチ

【迷子のミーシャ】

話は少々、遡(さかのぼ)る。

Xmasの週末、ミニョンの乗ったNY発ロンドン行きの便は順調に飛行を続けていた。あと一時間もすればヒースロー空港へ到着するだろう。ソフィアの住むロンドン、大学を卒業してNYタイムズへ就職した彼女がロンドン支局へ転勤になって二年が過ぎた。NYとロンドン…離れ離れになった僕たち。ミニョンは数時間前の事を思い出していた。

NYの摩天楼、浚のオフィスがある32階の窓からミニョンは空を眺めていた。約束の時刻はとうに過ぎている。それなのに呼び出した浚は現れない。

「あぁ、雪だ」
高層ビルを通り過ぎる雪は風に飛ばされて、それでも地上へ近づく頃には何事も無かったかの様に、ふわりと静かに舞い降りる。見下ろす視線の先には赤いリボンと金色のベルがついたXmasツリーが飾られている。NYがこの上なく活気づく数日、Xmasまであと少し。

「来ていたのか、早かったな」
ドアの音にミニョンは振り返った。
「何だよ、急な用って」
「ソフィアの事だ」
「珍しいな、浚が単刀直入に切り出すなんて」
「知らないのか、冗談言ってる場合じゃないぞ」
浚は二つ折りにしたタブロイド紙(大衆紙)をミニョンの顔に突き付けた。
「これ英国のじゃないか」
「いいからゴシップ記事を見てみろよ」
ミニョンはタブロイド紙を広げた。

派手なスーツを着たサッカー選手の大きな写真が載っている。
「チェルシーの選手?…彼がどうしたんだ」
「その下の記事だよ。ほらここ」
『モデルと婚約~「アメリカから来た女性記者が途中でチョッカイを出してきたけど、彼はもちろん私を選んだわ」「君にしか本気になれないよ」…』
「何だ、これ。ソフィアの事か」
「ロンドンでは少し前から噂になっていたらしい。あとは滅茶苦茶なゴシップ記事だ」

ミニョンは顔色を変えた。
「彼女、どうしてる」
「ソフィアと連絡取っていないのか」
ミニョンは小さなため息をついた。
「2,3ヶ月前からお互い忙しくてタイミングが合わなかった」
「それでか。僕の所へ昨晩電話があったよ」
「彼女、何て言ってた?」
「この事は何も言わなかったよ。ただミニョンは元気かって。週末にはXmas休暇で家にいると言っていた。たぶん相当参ってる」
浚は厳しい顔のままタブロイド紙を閉じた。
「行けよ、ロンドン」
「浚、僕は」
「恋人じゃないって言うのか」
浚はミニョンを見据えた。
「君とソフィアはお互いそれ以上のものなんだろう。僕にはそう見える」
「参ったな」
「ソフィアを助けに行けよ。それが出来るのは世界中で君だけだ」

浚はミニョンの手に航空機のチケットを握らせた。
「手回しがいいな。さすが浚だ」
「それで精一杯、早い便だ。Xmas休暇で何処も満席だ」
「無理をして誰かに貸しを作ったんじゃないよな」
浚は躊躇(ためら)いもなく言ってのけた。
「僕は動いただけだ。マダムハンナもミニョンのためなら動く」
「時間に正確な浚が遅れたのは、マダムハンナへロンドン行きのチケットを頼んでいたからか」
「ついでにロンドンの滞在先はランカスター卿へお願いしたよ」
「大それた人物に頼んだな。僕に選択の余地は無いって事か」
呆れるミニョンに浚はいつになく無愛想に答えた。
「ミニョン、いつまで意地を張っているんだ。僕はこれからエマのXmasプレゼントを受け取りに行かなきゃならない。忙しいからとっとと帰ってくれ」

そして数時間後、僕はこうして一番早いロンドン便へ乗っている。ミニョンは目を閉じると口元を綻(ほころ)ばせた。浚はエマの事になると何故あんなに素直になるんだろう。僕と彼女は…いや、考えるのはよそう。ソフィア、君に会いたい。僕は君に会いに行くよ。

次回:第2話.泣きべそベア

(雪音)