改:第7話.ココティエ広場【南回帰線】 | 風月庵~着物でランチとワインと物語

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毎日着物で、ランチと色々なワインを楽しんでいます。イタリアワイン、サッカー、時代劇、武侠アクションが大好きです。佐藤健さんのファンで、恋はつづくよどこまでもの二次創作小説制作中。ペ・ヨンジュンさんの韓国ドラマ二次創作小説多々有り。お気軽にどうぞ。

第7話.ココティエ広場【南回帰線】

二人はメトル島を後にした。
「バイバイ」
ルナは長い桟橋に手を振った。
「ヨンジュン、楽しかったね」
「あぁ」
頷(うなず)く彼はルナを愛しげに抱き寄せた。
「たくさん泳いで、たくさん遊んだね」
「今度は何処へ行くの?」
「イル・デ・パンへ」

ボートは20分程で本島のヌメアへ到着した。彼らは待っていたタクシーへ乗り込んだ。
「マジェンタ空港まで」
10分も行くと青空の下に白い屋根の小さな空港が見えてくる。ヨンジュンはスーツケースを降ろすと足早に構内を進んだ。ベージュにブラウンの幾何学模様のフロアーを背の高い男と可愛い彼女が歩いて行く。一つに結んだ長い髪が白いジャケットの背中で揺れている。

お揃いのキャップを被ったルナは足早にヨンジュンの後を着いて行った。
「ヨンジュン、待って」
「あぁ、ごめん。早く歩きすぎた?」
スーツケースを押しながら、ヨンジュンは後ろのルナへ手を伸ばした。
「遅れそうなの?」
手を取った彼女は彼を見上げた。
「ううん」
クスリと笑い、彼は『チェックイン・カウンター』(搭乗手続き)を通り過ぎた。

「ヨンジュン、ここじゃないの?」
彼はルナの手を取ると別のカウンターの前に立った。
「手荷物一時預りカウンター?」
スーツケースを預けると、身軽になったヨンジュンは上機嫌な笑顔を見せた。
「フライトは午後の便。それまでヌメアで過そう」

二人はヌメアの中心街、ココティエ(ココ椰子=やし)広場でタクシーを降りた。高い木々の向こうに、お洒落な店が並んでいる。
「お店、もう開いているのね」
10時前の早い時間にも関わらず、たくさんの店が開店している。
「ヨンジュン、オープンは8時30分って書いてる」
「ああ、ただし閉まるのも5時半だ」

手を繋いだ二人は仲良く『クランドィーユ』へ入った。
「ルナ、好きな物を選んで。ここはフランスと同じ物が置いてある」
「好きな物…」
「懐かしいものもあるだろう」
「私、フランスでは仕事ばかりで、ほとんど買い物も出来なかったの。だからあまり分からない」
戸惑うルナの肩に、ヨンジュンは優しく手を置いた。
「一つじゃなくていい。ルナが着たいと思う物、気に入ったものを幾つか選んでおいで」
「ヨンジュン」
「フランスで頑張った分、遅くなったけど僕からのプレゼントだ」
彼女は嬉しそうに頷(うなず)くと小さく『ありがとう』と呟(つぶや)いた。

広々とした店内はたくさんのコーナーに分かれている。
「あそこ、いい?」
ルナはランジェリー・コーナーを指差した。
「いいよ、行ってきて」
向こうでルナは楽しそうにコーナーを見て回っている。ヨンジュンはカフェで寛(くつろ)ぎながら、ゆっくりとルナを待っていた。

「決まった?」
「うん、カウンターに置いて貰ってる」
「ドレスは決めた?」
「ううん」
「ディナーに着ていく物を探そう」

ヨンジュンはルナを連れてドレスを選んだ。
「ルナはどれがいい?」
「ええと…」
彼女はワンピースを手に取った。白地に小さな赤い花の刺繍(ししゅう)が裾(すそ)と胸元を飾っている。
「私、こういうの着たことがないから、一度着てみたかったんだけど」
彼女は躊躇(ためら)いがちに赤いリボンの付いたストラップを手に取った。
「いいね、着てごらんよ」
試着したルナはヨンジュンの前に立った。

「変じゃない?」
「ううん、とっても可愛いよ」
見つめる彼の視線にルナは恥ずかしそうに下を向いた。ヨンジュンはドレスに合わせてバッグとサンダルを指差した。
「じゃあ、それも一緒に」

ヨンジュンとルナは手を繋ぎアナトール・フランス通りを歩いた。
「気持ちいい風」
「ホントだ」
歩道に掛かる木々が二人の頬に優しい影を作る。
「広場があるわ」
「ココティエ広場だよ」
入り口にはパリを思わせる三つの丸い水銀灯があり、柔らかな色の石畳が広場の奥まで続いている。緑を湛(たた)えたフランボワイヤン(火焔樹=かえんじゅ,赤い花咲く木)と背の高いココティエ(椰子の木)が、優しく人々を迎えてくれる。恋人たちは太陽を逃れてその木の元へ身を隠した。さらりと乾いた風が木々の間をすり抜ける。ヨンジュンは時計に目をやった。
「少し早いけどランチにしよう」

彼はガイドブックを取り出した。
「何処がいいかな。ルナは何を食べたい?」
クレマソン通りにあるベトナム・カフェが目に止まった。
「ここはどう?」
ルナはメニューを読み上げた。
「ネム(揚げ春巻き)に蒸し餃子に…あっ、チャオメンがあるわ」
「チャオメン?」
「ベトナムの焼きそば。海老入りもあるみたい」
二人は顔を見合わせた。
「行こう!」

ココティエ広場を横切り、二人はお目当ての『スナック・セントラルマ』へ入った。
「美味しい」
「春巻き追加しようか」
パリパリ麺の海老入りチャオメンと香ばしいネムが瞬く間に無くなっていく。
「パリでもベトナム料理のお店があったわ。でも、こっちの方が美味しい」
「確かにこれは旨い」
美味しいアジアが二人のお腹に収まった。

ランチを終えると、ヨンジュンとルナはココティエ広場へ戻ってきた。大きなフランボワイヤンの木に別れを告げ、マジェンタ空港へ直行だ。

「忘れ物ない?」
「うん」
「ドレスと…それ何だっけ」
「ランジェリー」
「あぁ」
『ココティエ広場の前にある素敵なお店で見つけた、とっても気に入った物』

青空の下に50人乗りのエアカレドニア機がスタンバイしている。二人の前には小さなお客様が並んでいる。
「先に子供から乗せるんだね」
「可愛い。お人形みたい」
愛らしい子供たちは窓際に座ると目を輝かせた。
「出発するよ~」
ヨンジュンとルナを乗せた飛行機は、イル・デ・パンへ向けて飛び立った。

次回:第8話.クニエ(海の宝石)

(風月)