役者と仕出しの区別  | “Mind Resolve” ~ この国の人間の心が どこまでも晴れわたる空のように澄みきる日は もう訪れないのだろうか‥
    
    
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世の中には色々な職業があって、
日本の映像業界のスタッフ側(?)の一人、
自分の好きなことを堂々とやって
とても楽しく仕事をしている人もいた! ・・・・・ということを発見した瞬間がある。
俺も初めて逢った時はちょっとビックリした。
「世の中にはこんな人もいるんだ」
視野が拡がった。
ここではその人のことを仮に
“芸能ブローカー”
と呼ぶことにしよう。本人も、
「オレは芸能ブローカーだ」
と云っている。
云っているだけでなく、
やっていることも芸能ブローカーそのものだ。

   
そんな芸能ブローカーも今年、60も半ばを迎える御老体だ。
しかし決してそんな風には見えない。
むしろ、年齢不詳の“その筋の人”という風貌で、
色付きのメガネに高級ブランドのキャップ帽、
革のパンツという出で立ち、
声はガラガラ。
煙草は何年も前にやめたらしいが、
酒と女は、頼まれれば仕込から発注までギャラに応じて用意できる。
ギャンブルはやらないが、
ギャンブルより面白い芸能ブローカーの仕事に生き甲斐を持って生きている。
でも本人に云わせれば、
「別にこの仕事に生き甲斐を感じてなんかねぇよ。
ほかにやることがねぇから ここまで来ただけであって・・・
好きでやってることには変わりねぇだろうけどな」
 
と、何回か一緒に呑んだ席で訊いたこともあるが、
本心ではどうなのか、あとで確認してみたい気もする。
そんな芸能ブローカーは決して、
テレビドラマや映画の撮影現場に限っての、
時間から時間に対応した人の頭数を揃えるばかりが彼の仕事ではなく、
カネが動く確認ができれば何でもやる。
それこそ、AV女優の仕込みからロケ地の用意まで、
都内を拠点に日本全国、海外の津々浦々、
どこへでも網を張っている。だから、
次はどこで誰が何の撮りをするか 
という日本の映像業界の情報のほとんどすべてを、
その芸能ブローカーは知っている。
そして必要に応じて人を集め、
必要に応じて仕事を獲る。
芸能ブローカーの営業能力、そのセンスと技量は、
その辺のちょっとした企業の営業マンとは訳が違う。
かといって、いつどんな時でも、
何もかもが旨く行くとは限らない。
そんな時は、
「南ぃ、こんなヤクザ家業からは速くアシ洗って、
ちゃんとした堅気の仕事 見つけた方がいいぞ。
奥さんを大切にな・・・」

と云っていた。
過去に三船敏郎 さんが映画『007』に出演されたロケ現場から、
日活RPと当時の仁侠映画のほとんどを、テレビでは
『西部警察』全篇、優作さんの『探偵物語』全篇、『あぶない刑事』シリーズ全篇など、
そうした現場がどんなに過酷なものであろうと、
必ず挨拶は欠かさず、
仕出しの責任者、兼出演者として常に待機し、
必要あらば全裸でも出演する。
はたまた、NHKの教育番組の司会やメインキャスト、
声優の用意を手がけることなどもしばしばあり、
あらゆる現場に精通し、
色々な製作スタッフに顔が広く、
ある時は、その人達のプライベートな悩み事まで請負、解消にこぎつける。…具体的には続編にて。 
そんな芸能ブローカーを
「あの人が目線にいると邪魔、芝居にならないから退けて!」
など言ってしまう底意地の悪い女優さんもいたが、
ある夏の日、芸能ブローカーの携帯電話へ、
「どうしても今日ここに人が足りないから何人か連れてきてくれ。スグ必要、頼む!」
というホットな情報も珍しくはないらしいが、
そういう依頼があった。
    
我らの(?)芸能ブローカーは すぐさま人を手配し、
その任侠モノの映画撮影の現場へ顔を出した。
白昼のロケ現場には、
渡哲也さんと松方さんが次のシーンの準備待ちで日陰に待機していた。
ある意味で緊迫感漂う、その久しぶりの修羅の顔合わせに、
突然に借り出された仕出し の一同はギョっとする。
芸能ブローカーはといえば、
いつもと変わりない清々しい(?)趣で、
「おはようございます」と明るく挨拶。
すると、それまで黙ってじっと椅子に坐っていた役者、渡さんが、
スッと立ち上がり深々と頭を下げ、
「おはようございます」
と、芸能ブローカーに挨拶を返す。
それを横で見ていた若いスタッフの幾人かは
「この人、誰?」 
という顔だったらしいが、しばらくして、
松方さんが芸能ブローカーの側へ来て、こう云った。
「…おたく、渡さんのマブダチですか?」
と。
本人は、
「いいえ、滅相もない。
昔いろいろとお世話になったのはこっちの方で、
私は タダのエキストラ の責任者です」
と、この話も正直者の本人から直接に訊いたこと(2001年)なので疑いようもない事実だが、
芸能ブローカーの存在をそれほど大事に思ってくれていた役者さんがいたことは、
その話を訊いた時、俺はどこか嬉しく感じた。
   
                                つづく 。