黄昏の芸能ブローカー / action 001  | “Mind Resolve” ~ この国の人間の心が どこまでも晴れわたる空のように澄みきる日は もう訪れないのだろうか‥

 
 
       action 001 
 

世の中には色々な職業があって、
日本の映像業界のスタッフ側(?)の一人、
自分の好きなことを堂々とやって
とても楽しく仕事をしている人もいた! 
・・・・・ということを発見した瞬間がある。
俺も初めて逢った時はちょっとビックリした。
「世の中にはこんな人もいるんだ」
視野が拡がった。
ここではその人のことを仮に
“芸能ブローカー”
と呼ぶことにしよう。
本人も、
「オレは芸能ブローカーだ」
と云っている。
云っているだけでなく、
やっていることも芸能ブローカーそのものだ。

 
村上ナントカという若手俳優の主演映画の撮影で、
近未来社会の設定、仕出しは男が20人。女が10人。
すべて紺のスーツで青いネクタイをして、
胸には小道具の認識プレートを付けていた。
そのロケ現場で、会ってまだ三回目
撮影現場以外の場所で芸能ブローカーに会ったことがないの、
待機時間のことだった。
場所は使われていないボーリング場だったか・・・。
「南ぃ、お前、エルやるか?」
と、いきなり話しかける言葉がそれである。
「・・・いや、俺はそういうのは全然やらないです。折角ですけど」
応える方も応える方だけどな。
「そうか」
「・・・今、持ってるんですか?」
「ああ、バッグの中に、ちょっとな。・・・あ、南、チョコレート食べるか?」
「いや、いいです」
「・・・あっれぇ、確かにオレ、ここにチョコレート入れておいたはずなんだけどなぁ。どぉこやったかなぁ」
などと、芸能ブローカーは自分のセカンドバッグの中をガサゴソと掻き回していた。
すると、まだネクタイもマトモに結べないような格好の、横にいた若い奴が、
さっきのその話を聞いていたのか、
「すいません、“エル”ってなんですか?」
「(なんだお前という趣で)ああ?、LSDだよ」
芸能ブローカーははっきりと応えた。
「え、それって、麻薬ですか?」
「別に珍しくはねぇだろ」
「・・・どういう時にやるんですか?」
「ええ、どういう時にやるかってぇ・・・」
「それやると、やっぱり何か違うもんなんですか?」
「ああ? そんな余分なことは考えねぇよ。
・・・何か嫌な事があったり、ムシャクシャした時にやるのぉ!」
と、芸能ブローカーは、「何か文句あっか!」と云わんばかりの調子で、
興味津々の若者をあしらっていた。それでも若者は食い下がらず、
「芸能人の人って、みんなそういうのやってるんですか?」
「・・・ああ。だいたいなぁ・・・」
「どこで手に入れるんですか?」
「どこでって、ちゃんとそれなりにルートがあるんだよっ、
うるせぇな! いちいち さっきから、おめぇは。
ネクタイ曲ってるぞ! ちゃんと絞めとけ!」
そこで助監督が召集をかけた。まとめ役の芸能ブローカーは、
「よぉし、じゃぁ始めるぞ! イチロォ、お前そんなとこで何やってるんだよ、こっちに来い!」
と、我々をその一角に集合させて助監督の支持を仰ぐ。
帰りのロケバスの中では、
「南、お前、東京に出てくる前はどこにいた?」
「高崎です」
「ああタカサキかぁ。あの競馬場のあるところなぁ」
しばらく間を置いて、
「南ぃ、お前、前橋の“赤レンガ”って知ってるよなぁ・・・」
「・・・ああ、はい。俺の元親戚のおじさんが世話になってたこともあります」
「ふ~ん。実はオレもあそこに居たことがあるんだ。
・・・あの塀の向こう側になぁ。そっかぁ高崎か・・・」
“赤レンガ”とは、明治時代だったかの旧い造りの刑務所のことである。
    
面識あってもまだ三回目という、
普通の人なら初対面と ほとんど変わらないような状況下、
芸能ブローカーは決して、
他のみんなにも同じようにそんな話かけをするわけではない。
“変なクスリ”を進めてきたのも
俺という人間に対する挨拶代わりのようなもので、
本人はそうやって
「どんな奴なのか?」 
を探っていた。
・・・いま想うとそんな気がする。
   
                     つづく。