黄昏の芸能ブローカー / action 002  | “Mind Resolve” ~ この国の人間の心が どこまでも晴れわたる空のように澄みきる日は もう訪れないのだろうか‥

 
       action 002 

世の中には色々な職業があって、
日本の映像業界のスタッフ側(?)の一人、
自分の好きなことを堂々とやって
とても楽しく仕事をしている人もいた! 
・・・・・ということを発見した瞬間がある。
俺も初めて逢った時はちょっとビックリした。
「世の中にはこんな人もいるんだ」
視野が拡がった。
ここではその人のことを仮に
“芸能ブローカー”
と呼ぶことにしよう。
本人も、
「オレは芸能ブローカーだ」
と云っている。
云っているだけでなく、
やっていることも芸能ブローカーそのものだ。

 
 
  
そんな芸能ブローカーも、
冬場になると持病の心臓病を気にし、
寒いロケ地での待ち時間などは常に自分の身体を労わっている。
「・・・うっ、心臓がイテェ」
と、胸を押さえながら、
「もうオレも年には適わねぇな。こう寒いと体の節々に堪えるぜ・・・。そろそろ潮時かなぁ」
などとボヤキながら、
「おい、南。スタッフのケータリングの黄色いカゴから使い捨てカイロ持って来てくれ」
「ああ、はい」
「ワリィな。場所、判るだろ。ロケバスの後ろの方、頼むな。
・・・オレ、クスリ飲まなきゃなんだよ(ブツブツ)」
“クスリ”というのは医者から処方されたニトログリセリンである。
「はい。お茶も持ってきたよ」
俺は、使用期限切れの使い捨てカイロと、
ケータリングの温かいお茶を芸能ブローカーに差し出した。
「ああ、サンキュウ。
・・・お前らも寒かったら、あそこ行ってなんか呑んで来い。まだ時間あっからなぁ」
「えぇっ!? 勝手にいいんですか?」
と、”夜の街頭に立つ野次馬達”というシーンの設定で、
その何カットかのためにパジャマ姿にされた女性が、
寒さに凍えながら言った。
すると芸能ブローカーは、
「勝手にも何も、寒いんだからしょーがねぇだろ。
・・・オレが”イイ”って云ってるんだからいいんだよ。
やならいいんだよ。
別に何もオレは頼んで云ってるわけじゃねえんだから。
お前たちが寒いだろうと思って親切にそう云っただけで・・・。
見てみろ、南だって自分で持って来てるじゃねぇか。
つまんねぇこと気にすんじゃねぇ」
と、芸能ブローカーのその言葉に、
他のエキストラ陣がゾロゾロと列をなして、ロケバスの方へ歩いて行く。
俺は、芸能ブローカーの横に坐ってケータリングの珈琲を飲んでいた。
 
   
という具合に、芸能ブローカーの持ってくる仕事の現場は、
それなりに人間らしい扱いで過せることが多かった。
   
 
                               つづく。