#01 Just in the spring time | “Mind Resolve” ~ この国の人間の心が どこまでも晴れわたる空のように澄みきる日は もう訪れないのだろうか‥

   
     Just in the spring time  
   
                                        85'march ~
   
   
 煙草を咥えたハンスの口元にライターの火が灯った。
 彼を見おろして私は云った。
「あんたがハンスかい? そのライター何処で手に入れたんだ?」
「誰だぁ、こいつ?」
仲間との会話を遮られた彼は、首を傾げ、周囲の男達に訊いていた。
「…確か、ニッキーじゃなかったか」
ハンスの隣にいた男が応えた。彼は警官だった。
「そうか、お前がニッキーか。コリーと連るんでたっていう…」
「そうだ、俺はニックだ。それと、今お前さんが持っている そのライターの持ち主、
死んだコリーは俺の友達だ」                        
「おいおい、ちょっと待ってくれよ、人聞き悪いぜ。

このライターが誰のだってぇ?
これは先週、この刑事さんに貰ったモンだが…。
そーかい、そいつの形見だったとは知らなかったぜ。んなら返しとくよ」
指で摘んでいたライターを眺めていたハンスは、「もう見納めた」という素振りで
私が立っていた方へ真っ直ぐ、それをテーブルの上に滑らせてみせた。
そして、受け取った私を見上げ、ニヤけた目つきでこう云った。
「ところでニック、ジミーの奴は元気かい?」                
ふてぶてしい態度で吐かれたその台詞に、込みあげてくる怒りを一旦は抑えようとしたが、
彼等が寛いでいたはずのテーブルをひっくり返し、私はそのまま店を出た。 
 駐車場へ停めておいた車に乗り込もうとしたとき、背後から三人の男が襲いかかってきた。
 私は予想通りの彼等の不意打ちを待ち構えていたかのように、身を交わした。
「俺はコリーやジミーの時のようにはいかないぜ」
ハンスの手下 三人と殴り合いになると、駐車場にはあっという間に見物人が集まってきた。
「・・Fuck! 殺っちまえ!」
私が一人を立ちあがれないまでに倒した所で、残りの二人は怯んでいた。    
「つっ、兄貴ぃ、こいつ ちょっと手強いぜ」
「よし、俺に任せろっ!」    
そのうちの一人がナイフを光らせ、迫ってきた。私は隙を狙い、

半分開いていた車のドアをナイフの男に撥ねつけた。

すると今度は、もう一人が銃を持ち出した。
「よせ! こんな所でブッ放すな!」
外へ出てきたハンスの怒鳴り声が横に聞こえた。
しかし銃を持った男は聞き入れなかった。
躊いがちに引金を弾いた男の殺意は一発の弾に込められ、
それは私の右腕を掠め、車のフロント硝子を打ち砕いた。

その感触に慄いた男は二発目を撃った。

   
★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★ つづく  ←