もう時間がない。なぜならまもなく日が暮れるからだ。夕べから一睡もせずに私がこの屋敷で使っていた二階の部屋でこれを書き残している。今までのいきさつの一部始終を。誰かがこの手記を見つけた時には私はすでにこの世にいないだろう。人々は私がノイローゼかなにかで自殺したと考えるだろうが、ここに書いた事は全て事実であり曾祖父と同じ過ちをせずに私のような不幸な人間を作らないで欲しいと願うばかりである。今の私には全てわかってしまった。この屋敷に来て父の書き残した遺書を見つけたからだ。そこには父が今の私と同じ立場と心境であった事を示す内容がしるされていた。父は私以上に曾祖父の事を調べあげていた。曾祖父の契約した相手とその内容の事まで。そして知らなかったとはいえ、私を産ませてしまった母への詫びと産まれてきてしまった私への懺悔で締め括られていた。曾祖父は自分の利益と富を得る為、禁断の書物を手に入れ私たち子孫の命までをも奴に差し出す契約をしていたのだ。あの指輪‥。刻まれた文字。ナイアーラトテップ。それが奴の名前
。列車の座席には私のものではけっしてない、あの男の読んでいた新聞が残されていた。先程からこれを書いている今も、視線を感じている。あの私を見下した目で私が苦しんでいるのを楽しむかのように、私が私の遺書を書き上げるのを待っているかのようだ。とても恐ろしくて振り向けない。視線を窓の外から感じているからだ。そう二階の窓の外から。

か 鏡に

窓が
映って

見える

奴だ あの男の目だ

ナイアーラトテップ
の目だ



目だけが

暗闇の中に