ここまで来れば後はこのローカル線をひたすら終点まで乗るだけだ。向こうに着く頃にはすっかり夜更けになっている事だろうが自分の実家である屋敷に帰省するのだ。誰に咎められる覚えは無いのだし、寧ろ道の途中で近隣の住民に見つかる事は正直避けたかった。弁護士の話しでは一応売りに出す下準備で掃除済みだという。その折に曾祖父の遺品を見つけたらしい。2~3日は滞在するつもりだった。しかしいざ列車が出発すると私の心に不安が込み上げてきたのだった。本当にこのまま帰省して良いものだろうか…。これまで読み進めた曾祖父の日記の内容が私を不安にさせているのだろうか?特に持病も無かった父はなぜ急に心臓発作を起こして死んだのか?あの棺の中でみた恐怖に引きつる顔は何を意味するのか?何故、父はまるで別人かと見紛うほどにやつれしまったのか?ふと上着の内ポケットに入れておいた、もう一つの曾祖父の遺品である指輪の存在を思い出した。それを出してまじまじと見つめてみる。結局これまで読み進めた日記の箇所には指輪に掘られた謎の文字に関す
る記述は見受けられなかった。ただ曾祖父が誰かと交わした契約の証しとして受け取ったらしいという事だけはわかったのだが‥。列車の窓から指す夕日に指輪をかざしていると、私はその向こうから歩いてくる人物に気がついた。先程、別の列車の中で見かけたあの黒いスーツの男だ。向こうも私の事に気付いたようで、その男の方から声をかけてきた。「こんばんは。先程もご一緒でしたね。」丁寧な言葉使いと優雅な物腰だったが、どこかしら人を見下したような雰囲気を私は感じた。その男はそのまま通り過ぎると私から少し離れた席へと座った。どうやら列車には私とその男しか乗客はいないらしかった。窓からの景色もすっかり殺風景なものになっていた。私は再び日記の続きを読んでみる事にした。しかしそれは益々私の不安を煽る結果となってしまった。曾祖父の恐れは極限まで高まり書かれている内容も支離滅裂となっていた。まるで自分の死期が近付いているのがわかっているかのような。夜が来るのを非常に恐れている反面なかば逃げ道が無い事を諦めているようだった。私
にはこれ以上読み進める事は苦痛でしかなかった。そういえば私の家ではあまり曾祖父についての話しを聞いた事がなかった。そもそも曾祖父が使っていた離れの部屋というのも残ってはいたのだが、屋敷自体も広かったので自然と使われなくなったのか、時折お手伝いのものが掃除などの手入れをしていたくらいで普段は誰も寄りつかなかった。一度、女中から昼間でも不気味な感じのする部屋だったと聞いた事がある。だからこれまで日記の存在に誰も気付かなかったのだろう。私は不安から逃れたくて、もう一人の乗客である男に目を向けた。こちらに背を向けて座っている為、表情は伺いしれないが私は思い切ってこちらに来てお喋りでもしないかと男に声をかけたのだった。
る記述は見受けられなかった。ただ曾祖父が誰かと交わした契約の証しとして受け取ったらしいという事だけはわかったのだが‥。列車の窓から指す夕日に指輪をかざしていると、私はその向こうから歩いてくる人物に気がついた。先程、別の列車の中で見かけたあの黒いスーツの男だ。向こうも私の事に気付いたようで、その男の方から声をかけてきた。「こんばんは。先程もご一緒でしたね。」丁寧な言葉使いと優雅な物腰だったが、どこかしら人を見下したような雰囲気を私は感じた。その男はそのまま通り過ぎると私から少し離れた席へと座った。どうやら列車には私とその男しか乗客はいないらしかった。窓からの景色もすっかり殺風景なものになっていた。私は再び日記の続きを読んでみる事にした。しかしそれは益々私の不安を煽る結果となってしまった。曾祖父の恐れは極限まで高まり書かれている内容も支離滅裂となっていた。まるで自分の死期が近付いているのがわかっているかのような。夜が来るのを非常に恐れている反面なかば逃げ道が無い事を諦めているようだった。私
にはこれ以上読み進める事は苦痛でしかなかった。そういえば私の家ではあまり曾祖父についての話しを聞いた事がなかった。そもそも曾祖父が使っていた離れの部屋というのも残ってはいたのだが、屋敷自体も広かったので自然と使われなくなったのか、時折お手伝いのものが掃除などの手入れをしていたくらいで普段は誰も寄りつかなかった。一度、女中から昼間でも不気味な感じのする部屋だったと聞いた事がある。だからこれまで日記の存在に誰も気付かなかったのだろう。私は不安から逃れたくて、もう一人の乗客である男に目を向けた。こちらに背を向けて座っている為、表情は伺いしれないが私は思い切ってこちらに来てお喋りでもしないかと男に声をかけたのだった。