私は心身ともに疲れていた。文字通り仕事づくめの日々だった私は酒もギャンブルもやらず、同僚からもなかば呆れられる有り様な人間だった。そんな私だがこれでも以前は付き合っていた彼女がいた時期もあった。しかしながら当然の結果であろうが私のような面白みのない男に彼女はいつしか愛想をつかし、さっさと他に男を作って結婚してしまった。私はそれ以来、悲しみを忘れるように益々仕事に没頭するようになっていった。そんな毎日をおくる私だったが最近ひとつの趣味を見つけていた。実は私の実家は田舎ではあるが、ちょっとした旧家であり曾祖父の代に商売でかなりの財をなしたらしい。実際、私の父の代までは贅沢な暮らしをしていたのだが、私が成人する頃50代という若さで父が亡くなると、まるで後を追うようにすぐに母も亡くなった。そうして天涯孤独の身となった私は弁護士をたて田舎の屋敷や土地を処分し、都会で新たな生活を始めたのだった。とは言え正直にいえば財産の処分には少々苦労した。時間がかかった上、思ったより金にならなかったのだ。実を言
うと一代で財をなした曾祖父という人は田舎では人々から忌み嫌われていたらしい。かなり人付き合いの悪い人物だったらしく、周りの人々はありもしない噂をたてそれを鵜呑みにし、私自身も子供の頃は同級生から避けられていた。そんな幼少期を過ごした家に私は何の未練もなく処分したのだったが、多少古い屋敷とはいえ贅を尽くした造りであり、また広大な土地と合わせてどう低く見積もっても期待した金額には程遠い価格でしか売れなかった。私は幾分憤りながら弁護士に訴えたのだが、何故か弁護士の説明は歯切れが悪いものだった。どうせ陰習深い田舎の人々の妬みの性でなかなか買い手が見つからなかったというのが真相だろう。元より一刻もはやく田舎を出たかった私は二束三文の財産だけを手に都会へと出てきたのだった。