HACCP(Hazard Analysis and Critical Control Points)は、食品の安全を確保するための国際的な管理手法です。特に、発酵食品である味噌の製造においては、衛生管理が非常に重要です。この記事では、味噌製造の各工程での衛生管理とHACCPの導入について詳しく説明します。

 

 

  味噌製造工程

 

味噌製造の各工程には、それぞれ特有の衛生管理が求められます。ここでは、原材料の選定から最終製品のパッケージングまでの各工程における衛生管理のポイントを詳しく見ていきます。

 

 原材料の選定と受け入れ

 

味噌の品質は、使用する原材料に大きく依存します。大豆、塩、麹の品質を確認するためには、受け入れ時に厳密なチェックが必要です。品質の低い原材料を使用すると、最終製品の味や安全性に影響を及ぼす可能性があります。

 

 洗浄と浸漬

 

大豆を洗浄する際には、表面の汚れや農薬をしっかりと除去することが重要です。また、浸漬の時間も適切に管理する必要があります。これにより、大豆が均一に膨潤し、次の工程での蒸煮が効率的に行われます。

 

 蒸煮

 

蒸煮は、大豆の中までしっかりと火を通すための重要な工程です。この過程での温度と時間の管理は、衛生面で特に重要です。適切な温度で蒸煮することで、病原菌の繁殖を防ぎます。

 

 発酵と熟成

 

発酵は味噌の風味を決定する重要な工程です。発酵中は温度と湿度を適切に管理することで、良好な微生物の活動を促進し、品質を維持します。また、熟成期間中の環境管理も欠かせません。

 

 パッケージング

 

最終工程であるパッケージングでは、異物混入を防ぐための厳重な管理が求められます。パッケージング前には、最終製品の品質チェックを行い、異物や微生物の混入を防止します。

 

  HACCP導入の重要性

 

HACCPの導入は、食品製造における安全性を確保するために欠かせません。味噌製造におけるHACCPの具体的な導入手順と、その重要性について詳しく説明します。

 

 危害要因の分析

 

HACCP導入の第一歩は、製造工程での危害要因を分析することです。微生物的危害要因としては、食中毒菌が挙げられます。物理的危害要因には、製造工程で混入する異物が含まれます。また、化学的危害要因としては、原材料中の農薬残留などがあります。

 

 重要管理点(CCP)の設定

 

各工程での危害要因を特定した後、それを防ぐための重要管理点(CCP)を設定します。例えば、蒸煮工程での温度管理は重要なCCPの一つです。

 

 モニタリング手順

 

設定したCCPを適切に管理するためには、モニタリングが不可欠です。各CCPのモニタリング方法を定め、定期的に記録を保持することで、衛生管理を徹底します。

 

 是正措置

 

異常が発生した場合には、迅速かつ適切な是正措置を講じることが重要です。例えば、蒸煮温度が適切でなかった場合は、再度蒸煮を行うなどの対応が必要です。

 

 検証手順

 

HACCPシステムが効果的に機能しているかを確認するためには、定期的な検証が必要です。検証手順を定め、定期的にシステムの評価を行います。

 

 文書管理

 

HACCPの効果的な運用には、詳細な文書管理が不可欠です。各工程の記録を保存し、必要に応じて見直すことで、常に最適な衛生管理を維持します。

 

  ### 食中毒と異物混入の事例

 

これまで,味噌を原因食品とする食中毒事例は発生した例はありません。国内で販売される味噌に食中毒原因菌が含まれる可能性は低いと言えるでしょう。しかし食中毒だけが消費者の危害となるわけではありません。

 

 異物混入の事例

 

2024年3月、みそ大手の「マルコメ」は、自社が製造販売する「プラス 糀こうじ 生みそ 糀美人」にゴキブリとみられる虫の一部が混入していたとして、全国のスーパーなどに出荷した約10万点を自主回収しました。現時点で健康被害の報告はないようですが、消費者にとって非常に不快な出来事ですし、自主回収は多大なコストも発生します。

 

異物混入の例としては他にも、製造過程での不注意から、金属片やプラスチック片が混入した事例があります。これらは、パッケージング工程での管理不備が原因で発生しました。

 

  異物混入を防ぐために

 

味噌製造における異物混入を防ぐためには、製造工程の各段階で厳密な管理とチェックを行うことが重要です。以下に、具体的な防止策を詳しく説明します。

 

 原材料の選定と受け入れ

 

味噌の品質は使用する原材料に大きく依存します。信頼できる供給元から高品質な原材料を調達することが基本です。原材料供給者の製造工程や品質管理体制を確認し、定期的に監査することで、品質を確保します。受け入れ時には、原材料の品質と状態をチェックします。異物混入を防ぐために専用の検査装置(メタルディテクターやX線検査機)を使用し、搬入する際のコンテナや袋の状態も確認します。

 

 製造環境の整備

 

製造エリアは定期的に清掃し、衛生的な環境を維持します。作業員は作業前に手洗いを徹底し、清潔な作業着や帽子、手袋を着用します。防虫対策として、製造エリアや倉庫の窓やドアには防虫ネットを設置し、定期的に防虫処理を行います。製造エリアの周囲に防虫トラップを設置し、昆虫の発生を監視します。

 

 製造工程の管理

 

製造機械や設備の定期的な点検とメンテナンスを行い、機械の可動部分には異物が混入しないよう、カバーやガードを設置します。原材料や製品のラインには異物除去装置(メタルディテクター、X線検査機、ふるい機)を導入し、各工程での検査結果を記録し、異常があれば速やかに対処します。

 

 パッケージングと最終検査

 

包装材の受け入れ時には品質と異物混入の有無を確認し、包装材の保管エリアも清潔に保ち、異物が混入しないよう管理します。パッケージング後には最終製品の検査を行い、異物が混入していないか確認します。異物検査装置を使用し、全ての製品をチェックし、最終検査で異物が発見された場合、そのロットを隔離し、原因を究明します。

 

 作業員の教育と訓練

 

作業員に対して、衛生管理や異物混入防止の重要性について定期的に教育を行い、具体的な対策や手順を徹底的に理解させます。異物混入が発生した場合の対応手順を作業員に周知徹底し、定期的に訓練を行い、異物発見時の迅速な対応ができるようにします。

 

 定期的な監査と改善

 

製造工程や管理体制の内部監査を定期的に実施し、異物混入防止策が適切に実行されているか確認します。監査結果を基に改善点を見つけ出し、対策を講じます。第三者機関による外部監査も受け、客観的な視点での評価を受け、外部監査の結果を基に、製造工程や管理体制の改善を図ります。

 

これらの対策を徹底することで、味噌製造における異物混入のリスクを最小限に抑えることができます。消費者に安全で安心な製品を提供するために、日々の衛生管理を怠らず、継続的な改善を心がけましょう。

 

  よくある質問

 

よくある質問にお答えします。

 

Q. 味噌の製造過程でHACCPを導入するメリットは何ですか?

A. HACCPを導入することで、味噌の製造過程における衛生管理が体系的かつ効果的に行われます。これにより、製品の安全性が向上し、食中毒や異物混入のリスクを最小限に抑えることができます。また、HACCPは国際的に認められた食品安全管理手法であり、その導入により消費者からの信頼を得ることができます。さらに、HACCPの導入は法的要件を満たすことにも繋がり、製品の市場競争力を高めるメリットがあります。

 

Q. 異物混入防止のためにどのような具体的な対策を講じていますか?

A. 異物混入防止のために、以下の具体的な対策を講じています。まず、原材料の選定と受け入れ時に品質チェックを徹底し、異物検査装置(メタルディテクターやX線検査機)を使用しています。製造環境の整備では、防虫ネットの設置や定期的な防虫処理を行い、清潔な作業環境を維持しています。製造工程では、機械の定期的な点検とメンテナンスを行い、異物除去装置を導入しています。パッケージングと最終検査では、包装材の品質確認と最終製品の異物検査を徹底しています。さらに、作業員の教育と訓練を通じて、異物混入防止の意識向上を図っています。

 

Q. 味噌は本当に食中毒菌に汚染されないの?

A. 味噌自体を原因とする食中毒の例は過去にありません。しかし、味噌を使用した加工品による食中毒事例は発生しています。例えば、野菜をもろみで漬け込むことで製造される金山寺味噌などが挙げられます。製造過程での衛生管理が不十分な場合には、他の食材と同様に食中毒菌が繁殖することがあります。したがって、味噌が入っているからといって必ずしも安全とは言えず、加工品の製造においても厳密な衛生管理が必要です。

 

 

HACCPの導入により、味噌製造における衛生管理が徹底され、安全で高品質な製品が提供されるようになります。特に、異物混入のリスクを低減するためには、各工程での厳密な管理が必要です。安全な味噌製造のために、HACCPシステムを活用しましょう。