日本のと畜場においてもHACCP(危害分析重要管理点)システムの義務化が施行されました。このシステムの導入は、食品の安全性を高め、消費者に安全な食肉を提供するための重要なステップです。この記事では、HACCPの基本的な概念やと畜場での具体的な導入方法、そしてその効果について詳しく解説します。

 

 

  HACCPとは?

 

  HACCPは、「Hazard Analysis and Critical Control Points」の略で、食品の製造過程における危害を分析し、それを防止するための重要な管理点を設定するシステムです。

 

 HACCPの歴史と背景

 

1960年代にNASAが宇宙食の安全性を確保するために開発したシステムであり、現在では世界中の食品業界で広く採用されています。

 

 と畜場でのHACCP義務化

 

食品安全への意識が高まり、消費者の信頼を得るために日本政府はHACCPの義務化を決定しました。

HACCPによる衛生管理は、事業規模に関わらず、食品の製造、加工、調理、販売を行うすべての事業者に義務付けられています。

ただし、事業規模によって義務化の程度は異なります。従業員が50名以下の小規模事業者の場合、HACCPの一部を取り入れた簡略化された衛生管理を行うことで法令を遵守することができます。

と畜場においてもHACCPシステムを導入し、継続的に運用することが義務付けられています。

 

 HACCPの導入手順

 

1. 危害分析の実施

   と畜場の全プロセスを洗い出し、潜在的な危害を特定します。例えば、細菌の繁殖や異物混入などが考えられます。

2. 重要管理点の設定

   危害を防止するために重要な管理点を設定します。例として、冷却温度の管理や清掃・消毒の頻度が挙げられます。

3. 管理基準の設定

   重要管理点に対して具体的な基準を設けます。例えば、冷蔵庫の温度は5度以下に保つなど。

4. モニタリングの実施

   管理基準が守られているかを定期的に確認します。温度計の設置や定期的なサンプル採取などが行われます。

5. 是正措置の計画

   基準を逸脱した場合の対応策を計画します。例えば、温度が上がりすぎた場合はすぐに冷却する措置を講じるなど。

6. 文書化と記録の保管

   全ての手順や監視結果を記録し、トレーサビリティを確保します。

 

  と畜場でのHACCP導入の具体例

 

と畜場では、肉の冷却工程が非常に重要です。HACCPの導入により、冷却システムの定期点検とメンテナンスが義務付けられ、肉の品質を確保できます。

 

 冷却・冷蔵保管工程の管理基準

と畜場法施行規則において、「枝肉及び食用に供する内臓が10℃以下になるよう管理する」ことが定められています。

この10℃の温度基準は、冷却・冷蔵保管工程における重要管理点(CCP)となり得ます。適切な温度管理を行うことで、肉の安全性と品質を維持し、消費者に安心して提供できる製品を確保します。

 

  HACCP導入の効果と課題

 

HACCPシステムの導入は、食品の安全性向上に大きな効果をもたらしますが、一方でその実施にはいくつかの課題も伴います。ここでは、HACCP導入がもたらす具体的なメリットと、それに伴うチャレンジについて詳しく見ていきます。

 

 HACCP導入の効果

 

HACCPの導入により、食品の安全性が向上します。各工程で潜在的な危害を分析し、それを防止するための管理点を設定することで、食中毒や異物混入といったリスクを大幅に減少させることができます。この結果、消費者の信頼を得ることができ、食品業界全体の信頼性も向上します。さらに、HACCPを導入している企業は、国際的な市場において競争力が高まります。多くの国ではHACCPの実施が輸入食品の基準となっているため、HACCPを導入することで海外市場への参入が容易になります。

 

 課題

 

一方で、HACCPの導入にはいくつかの課題があります。まず、初期導入コストがかかる点が挙げられます。HACCPシステムを導入するためには、設備の改修や新しい機器の導入が必要になることが多く、そのための費用が発生します。また、従業員に対する教育やトレーニングも必要であり、そのための時間と労力も負担となります。

さらに、HACCPは一度導入すればそれで終わりというわけではありません。継続的な管理が必要であり、定期的な見直しや更新が求められます。新しい危害が発生した場合や、法規制が変更された場合には、それに対応するための対策を講じる必要があります。これらの継続的な努力が必要となるため、組織全体での協力とコミットメントが不可欠です。

 

  よくある質問

 

よくある質問にお答えします。

 

Q.  HACCPとは何ですか?と畜場において具体的にどのように導入されるのですか?

A. HACCP(Hazard Analysis and Critical Control Points)は、食品の製造過程における危害を分析し、それを防止するための重要な管理点を設定するシステムです。と畜場では、各工程で潜在的な危害を特定し、それを管理するための基準を設定します。例えば、冷却・冷蔵保管工程では保管温度を10℃以下に保つことが重要管理点(CCP)となります。これにより、細菌の繁殖を防ぎ、肉の品質を保つことができます。

 

Q.  小規模事業者でもHACCPを導入する必要がありますか?

A. はい、小規模事業者でもHACCPの導入は義務付けられています。ただし、従業員が50名以下の小規模事業者の場合は、HACCPのすべての手順を導入する必要はなく、HACCPの考え方の一部を取り入れた簡略化された衛生管理を行えば法令を遵守することができます。これにより、小規模事業者でも負担を軽減しながら食品の安全性を確保することができます。

 

Q.  HACCPの導入にはどのような費用がかかりますか?また、どのような準備が必要ですか?  

A. HACCPの導入には初期コストがかかります。これには設備の改修、新しい機器の導入、従業員の教育やトレーニングなどが含まれます。また、HACCPシステムの設計と実施には専門知識が必要であり、専門家の支援を受けることが推奨されます。さらに、HACCPは継続的な管理が必要であり、定期的な点検や見直し、記録の保持が求められます。これらの準備と維持管理が、食品の安全性を確保するための重要なステップとなります。

 

 

HACCPの義務化により、日本のと畜場は食品の安全性を一層高めることが求められています。このシステムの導入は、消費者の信頼を得るだけでなく、国際競争力を高めるためにも不可欠です。各と畜場が積極的にHACCPを導入し、継続的に改善を行うことで、より安全で高品質な食肉を提供することが期待されます。