『良心の叫び。』が、聞こえますか。? | ーとんとん機音日記ー

ーとんとん機音日記ー

山間部の限界集落に移り住んで、
“養蚕・糸とり・機織り”

手織りの草木染め紬を織っている・・・。
染織作家の"機織り工房"の日記


●『小佐古参与が抗議の辞意 子供の被曝基準「容認できぬ」』



今回の福島第一原発災害の渦中にあって民主党管性権の内閣官房参与を務めておられた、小佐古 敏荘氏(東京大学大学院工学系研究科教授)が辞任された。


小佐古氏は、日本の放射線安全学の最高権威のうちの御一人であることは言うまでもない。

氏が指摘するのは、小学校などの校庭利用で文部科学省が採用した放射線の年間被曝(ひばく)量20ミリシーベルトという屋外活動制限基準が、「とんでもなく高い数値である。」ということであった。
加えて、「容認したら私の学者生命は終わり。自分の子どもをそんな目に遭わせるのは絶対に嫌だ。」と研究者の良心に基づく真摯な気持ちを吐露し、政府民主党が現在行っている放射線の安全基準について「誰が決めているのか、全くわからない。」との不審を表明し、国民に危険性を訴えた。

氏ほどの高名な研究者が、このような形で辞任を表明し会見まで開いた背面には、よっぽど学術的な常識を無視して、国民の健康影響に対して重大な危険性が伴う決定が、管政権の中では横行していたのであろう。


科学的な専門知識に乏しい、一般のわたしたちにとっては、単に数値データを列挙されただけでは、それが妥当なものなのかどうかを検証することもできませんが、・・・。

しかし・・・、
わたしたちには、「一人の人間が良心に基づき真摯に叫んでいる様を見て、嘘か本当かくらいは聞き分けることができる能力が備わっています。」



管政権側は、「単なる誤解が原因」だと辞任について言っていますが、
氏が指摘する「誰が決めているのか、全くわからない。」ということや、
「法律や指針を軽視し、その場限りだ」という、
菅政権の福島第一原発事故対応についての批判が、全く的外れではないという証拠が、厚労省の食品の放射線量暫定基準を決定したプロセスにも顕れています。

つまり、諮問機関である食品安全委員会が答申を出す以前に、
食品の放射線量暫定基準を厚労省が策定した数値を公表し、それを追認する形が、食品安全委員会にもとめられ、食品安全委員会側が、「放射性物質に関する緊急とりまとめ」という答申を出したということが実際に行われているのです。


その食品安全委員会の、
「放射性物質に関する緊急とりまとめ」では、・・・


・「参考文献等に基づき、本件に関する調査審議を緊急に行った。」こと
・「厚生労働省から提出された資料は、本件に関する食品健康影響評価を行うには十分なものではなかった」こと

・・・などの事情が記され、
「今回は、緊急とりまとめを行うことを決定し、現時点で入手可能であった範囲の資料に基づき検討を行ったが、時間的な制約もあって、今後検討すべき課題も多く、今後も継続的に検討を行う予定である。」と、答申を出すにあたって「厚生労働省から提出された資料不十分であった」ことへの抗議と、 「緊急性には理解を示すものの、十分な準備と検討が加えられた訳ではない答申の内容であること」が書き添えられています。

そして、「今後検討すべき課題も多く、今後も継続的に検討を行う予定である。」と記したうえ、さらに加えて・・・

最後に、「8.今後の課題」の項を設け、
以下のように書き添えています。


今回は、緊急なとりまとめを行ったものであり、
今後諮問を受けた内容範囲について継続して食品健康影響評価を行う必要がある。

放射性物質は、遺伝毒性発がん性を示すと考えられ、
発がん性に関する詳細な検討及び胎児への影響等について詳細な検討が本来必要であり、
今回の検討では、発がん性リスクについての詳細な検討は行えていない等、さまざまな検討課題が残っている。
さらに、既に評価要請がなされ、今回の緊急とりまとめの対象とはしなかった、ウラン並びにプルトニウム及び超ウラン元素のアルファ核種について、曝露状況等も把握した上での評価や、放射性ヨウ素及びセシウムも含めて遺伝毒性発がん物質としての詳細な評価、あるいは各核種の体内動態等に関する検討も必要である。
また、内部被ばくを考慮すると、放射性セシウムの食品健康影響評価に関しては、直接評価要請はなされていないが、ストロンチウムについても曝露状況等も把握した上で改めて検討する必要があると考える。(・・・以上「放射性物質に関する緊急とりまとめ」より引用)


この、「8.今後の課題」という項を設けたのも、食品安全委員会に加わっていらっしゃる研究者、学識経験者の方々の良心からの行為だと思います。

しかし、政府民主党管政権は、リスクを指摘した答申のこの部分を切り捨てて、「具体的な事例や、報告例や文献上の記載がない」という記述を論拠として、「安全だと示された」という方向に最大限に読み取って行き、食品の放射線量暫定基準の安全性の裏づけとして、この答申を利用しています。


このような意図的な答申の読み取り方の操作は、「単なる、見解の違いや誤解」として見過ごせる範囲を超えているものです。

だから、この食品の放射線量暫定基準を決定したプロセスに鑑みて考えるならば、
小佐古氏が指摘する「誰が決めているのか、全くわからない。」ということや、「法律や指針を軽視し、その場限りだ」という菅政権の福島第一原発事故対応についての批判や、「専門家の良心に基づいた提言に耳をかさない」という絶望感は、全く的外れなものではないことが良くわかります。


●「審議2時間で「妥当」判断 原子力安全委、学校基準で」

わたしは、自らの良心の叫びにしたがって、国民のためにリスクについて直言くださった、小佐古 敏荘氏に、こころよりの感謝を捧げたいと思います。



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

●<内閣官房参与を辞任した小佐古氏の辞意表明全文>●

内閣官房参与の辞任にあたって

内閣官房参与
小佐古敏荘

 平成23年3月16日、私、小佐古敏荘は内閣官房参与に任ぜられ、原子力災害の収束に向けての活動を当日から開始いたしました。
 そして災害後、一ヶ月半以上が経過し、事態収束に向けての各種対策が講じられておりますので、4月30日付けで参与としての活動も一段落させて頂きたいと考え、本日、総理へ退任の報告を行ってきたところです。
 なお、この間の内閣官房参与としての活動は、報告書「福島第一発電所事故に対する対策について」にまとめました。これらは総理他、関係の皆様方にお届け致しました。

 私の任務は「総理に情報提供や助言」を行うことでありました。
政府の行っている活動と重複することを避けるため、原子力災害対策本部、原子力安全委員会、原子力安全・保安院、文部科学省他の活動を逐次レビューし、それらの活動の足りざる部分、不適当と考えられる部分があれば、それに対して情報を提供し、さらに提言という形で助言を行って参りました。
 特に、原子力災害対策は「原子力プラントに係わる部分」、「環境、放射線、住民に係わる部分」に分かれますので、私、小佐古は、主として「環境、放射線、住民に係わる部分」といった『放射線防護』を中心とした部分を中心にカバーして参りました。
 ただ、プラントの状況と環境・住民への影響は相互に関連しあっておりますので、原子炉システム工学および原子力安全工学の専門家とも連携しながら活動を続けて参りました。
 さらに、全体は官邸の判断、政治家の判断とも関連するので、福山哲郎内閣官房副長官、細野豪志総理補佐官、総理から直命を受けている空本誠喜衆議院議員とも連携して参りました。

 この間、特に対応が急を要する問題が多くあり、またプラント収束および環境影響・住民広報についての必要な対策が十分には講じられていなかったことから、3月16日、原子力災害対策本部および対策統合本部の支援のための「助言チーム(座長:空本誠喜衆議院議員)」を立ち上げていただきました。まとめた「提言」は、逐次迅速に、官邸および対策本部に提出しました。
それらの一部は現実の対策として実現されました。
 ただ、まだ対策が講じられていない提言もあります。とりわけ、次に述べる、「法と正義に則り行われるべきこと」、「国際常識とヒューマニズムに則りやっていただくべきこと」の点では考えていることがいくつもあります。今後、政府の対策の内のいくつかのものについては、迅速な見直しおよび正しい対策の実施がなされるよう望むところです。

1.原子力災害の対策は「法と正義」に則ってやっていただきたい

 この1ヶ月半、様々な「提言」をしてまいりましたが、その中でも、とりわけ思いますのは、「原子力災害対策も他の災害対策と同様に、原子力災害対策に関連する法律や原子力防災指針、原子力防災マニュアルにその手順、対策が定められており、それに則って進めるのが基本だ」ということです。

 しかしながら、今回の原子力災害に対して、官邸および行政機関は、そのことを軽視して、その場かぎりで「臨機応変な対応」を行い、事態収束を遅らせているように見えます。
 
 とりわけ原子力安全委員会は、原子力災害対策において、技術的な指導・助言の中核をなすべき組織ですが、法に基づく手順遂行、放射線防護の基本に基づく判断に随分欠けた所があるように見受けました。
 例えば、住民の放射線被ばく線量(既に被ばくしたもの、これから被曝すると予測されるもの)は、緊急時迅速放射能予測ネットワークシステム(SPEEDI)によりなされるべきものでありますが、それが法令等に定められている手順どおりに運用されていない。
法令、指針等には放射能放出の線源項の決定が困難であることを前提にした定めがあるが、この手順はとられず、その計算結果は使用できる環境下にありながらきちんと活用されなかった。
 また、公衆の被ばくの状況もSPEEDIにより迅速に評価できるようになっているが、その結果も迅速に公表されていない。

 初期のプリュームのサブマージョンに基づく甲状腺の被ばくによる等価線量、とりわけ小児の甲状腺の等価線量については、その数値を20、30km圏の近傍のみならず、福島県全域、茨城県、栃木県、群馬県、他の関東、東北の全域にわたって、隠さず迅速に公開すべきである。
 さらに、文部科学省所管の日本原子力研究開発機構によるWSPEEDIシステム(数10kmから数1000kmの広域をカバーできるシステム)のデータを隠さず開示し、福島県、茨城県、栃木県、群馬県のみならず、関東、東北全域の、公衆の甲状腺等価線量、並びに実効線量を隠さず国民に開示すべきである。

 また、文部科学省においても、放射線規制室および放射線審議会における判断と指示には法手順を軽視しているのではと思わせるものがあります。
 例えば、放射線業務従事者の緊急時被ばくの「限度」ですが、
この件は既に放射線審議会で国際放射線防護委員会(ICRP)2007年勧告の国内法令取り入れの議論が、数年間にわたり行われ、審議終了事項として本年1月末に「放射線審議会基本部会中間報告書」として取りまとめられ、500mSvあるいは1Svとすることが勧告されています。
 法の手順としては、この件につき見解を求められれば、そう答えるべきであるが、立地指針等にしか現れない40-50年前の考え方に基づく、250mSvの数値使用が妥当かとの経済産業大臣、文部科学大臣等の諮問に対する放射線審議会の答申として、「それで妥当」としている。ところが、福島現地での厳しい状況を反映して、今になり500mSvを限度へとの、再引き上げの議論も始まっている状況である。
 まさに「モグラたたき」的、場当たり的な政策決定のプロセスで官邸と行政機関がとっているように見える。放射線審議会での決定事項をふまえないこの行政上の手続き無視は、根本からただす必要があります。
 500mSvより低いからいい等の理由から極めて短時間にメールで審議、強引にものを決めるやり方には大きな疑問を感じます。
重ねて、この種の何年も議論になった重要事項をその決定事項とは違う趣旨で、「妥当」と判断するのもおかしいと思います。放射線審議会での決定事項をまったく無視したこの決定方法は、誰がそのような方法をとりそのように決定したのかを含めて、明らかにされるべきでありましょう。
この点、強く進言いたします。

2.「国際常識とヒューマニズム」に則ってやっていただきたい

 緊急時には様々な特例を設けざるを得ないし、そうすることができるわけですが、それにも国際的な常識があります。それを行政側の都合だけで国際的にも非常識な数値で強引に決めていくのはよろしくないし、そのような決定は国際的にも非難されることになります。

 今回、福島県の小学校等の校庭利用の線量基準が年間20mSvの被曝を基礎として導出、誘導され、毎時3.8μSvと決定され、文部科学省から通達が出されている。
 これらの学校では、通常の授業を行おうとしているわけで、その状態は、通常の放射線防護基準に近いもの(年間1mSv,特殊な例でも年間5mSv)で運用すべきで、警戒期ではあるにしても、緊急時(2,3日あるいはせいぜい1,2週間くらい)に運用すべき数値をこの時期に使用するのは、全くの間違いであります。
警戒期であることを周知の上、特別な措置をとれば、数カ月間は最大、年間10mSvの使用も不可能ではないが、通常は避けるべきと考えます。
年間20mSv近い被ばくをする人は、約8万4千人の原子力発電所の放射線業務従事者でも、極めて少ないのです。
 この数値を乳児、幼児、小学生に求めることは、学問上の見地からのみならず、私のヒューマニズムからしても受け入れがたいものです。年間10mSvの数値も、ウラン鉱山の残土処分場の中の覆土上でも中々見ることのできない数値で(せいぜい年間数mSvです)、この数値の使用は慎重であるべきであります。

 小学校等の校庭の利用基準に対して、この年間20mSvの数値の使用には強く抗議するとともに、再度の見直しを求めます。

 また、今回の福島の原子力災害に関して国際原子力機関(IAEA)の調査団が訪日し、4回の調査報告会等が行われているが、
そのまとめの報告会開催の情報は、外務省から官邸に連絡が入っていなかった。

まさにこれは、国際関係軽視、IAEA軽視ではなかったかと思います。
また核物質計量管理、核査察や核物質防護の観点からもIAEAと今回の事故に際して早期から、連携強化を図る必要があるが、これについて、その時点では官邸および行政機関は気付いておらず、原子力外交の機能不全ともいえる。国際常識ある原子力安全行政の復活を強く求めるものである。

以上