蚕とクワコ | ーとんとん機音日記ー

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山間部の限界集落に移り住んで、
“養蚕・糸とり・機織り”

手織りの草木染め紬を織っている・・・。
染織作家の"機織り工房"の日記



蚕とクワコについて、“atelier-yuko”さんから、
「クワコと蚕はどこが違うのですか?」
とのコメントを頂きました。

通説では、蚕は野生のクワコが家畜化(馴化)されたもの。
とされていますが、
「いったい何処がどういう感じで違うのか。?」
・・・と、いう疑問ですね。
わたしも、じっくりと観察した事がなかったので、
面白いなと思って、
いまちょうど飼っている蚕とクワコを比べてみました。


$ーとんとん機音日記ー-クワコと蚕

【蚕(左)とクワコ(右)】


蚕(左)とクワコ(右)です。
印象では、蚕は白っぽくて、
クワコは全体に模様がある感じですね。

頭部を観てみましょう。

ーとんとん機音日記ー-蚕–頭部

ーとんとん機音日記ー-クワコ–頭部

【蚕(上)とクワコ(下)】


上が蚕の頭の部分、下がクワコの頭の部分です。
両方とも目のような円形の模様がついているので、
ちょっと盛り上がった部分が頭かと思ってしまいますが、
実際の頭は、先端の丸い鼻のような部分です。

大きな目のように見える模様は、
天敵から身を守る為の擬態なのでしょうか。?
わたしたちは、「擬態」って聞くと、
「あっなるほどね。」って妙に納得してしまうのですが、
でも、擬態って、天敵の目から見て、
どのように見えているのかっていう情報がないと、
工夫できない事だよねって考えると、
そういう情報のやりとりっていうのか、
他の種の目から見た理解についての情報をどのように得ているのか?、また、そのことを、どのような仕組みで自分のからだに実現していっているのか。?とても不思議な事だらけですね。


次に、後ろの部分を比べてみます。

ーとんとん機音日記ー-蚕–尾角

ーとんとん機音日記ー-クワコ–尾角

【蚕(上)とクワコ(下)】


両方とも、からだの後部には、角のような突起がついています。

“尾角”というそうなのですが、
スズメガの幼虫にも、みられます。

クワコと蚕とで比べてみると、
野生種だけあって、クワコの方がワイルドですね。
蚕の方は小さく、退化したような感じすらしますが、・・・

ちょっと、次の写真を見てください。

ーとんとん機音日記ー-蚕–二齢

$ーとんとん機音日記ー-拡大–二齢尾角

【蚕–二齢(上)と尾角部分の拡大(下)】


これは、同じ蚕の二齢の時(小さなとき)の画像です。
からだの色も、白っぽくなくて、
よく観ると、からだ全体に模様がうっすらあるように見えます。
尾角も、クワコのようにはっきりとした状態です。

それが、今(四齢)の状態なのですが、
からだの色も白っぽく、
尾角も退化したように小さく変化して、
とても、同じ品種の蚕とは思えない感じです。

わたしは、まだ、いろんな品種の蚕を飼った事がないので、
こういう変化は、この品種の特徴なのか、
それとも、どんな品種でも、
小さい頃はクワコのような特徴が露で、
成長に応じて、それが消えてゆくのか、
その辺はなんとも言えないのですが、・・・。
少なくとも、この品種の蚕とクワコとで比較する限りに於いて、
両者の近い関係が形態から見てとれます。

“クワコ”の蚕化は、即ち、養蚕の起源を指し示す問題です。
この点に関して、『桑蚕(Bombyx mandarina L.)の繭の採集について―養蚕の起源を考える―』横山 岳, 門野 敬子, 千明 敏彦 (2008)・日本シルク学会誌, 17, p76~77 .・・・という、研究がありますが、それは、クワコが家畜化(馴化)され、蚕へと変化してゆく前の段階には、やっぱり、クワコの繭の利用が定着していないと起こり得ない事だろうという前提に立って、実験考古学の手法を用いて、実際にクワコの繭を採取し糸をとる事をやってみたという研究で、とても興味深い内容のものです。

この研究では、
“養蚕”ということが行われるようになることの、
前提となる条件に、
「クワコ(野蚕)の繭利用の定着」という点を指摘しています。
まず、こういう事が生活文化として定着していて、
つぎに、「飼うと云う技術」に発展するという、
発達の段階に対する指摘は、
示唆に富んでいます。

ーとんとん機音日記ー-クワコ–繭

【クワコの繭】


そしてまた、“飼い方”という点も考えてみると、
そこにも、諸相が現れると思うのですよね。

例えば、繭を採取するように、幼虫を集めて来て飼う飼い方。
あるいは、“縄文の栗栽培”というように話題になったように、集落周辺に桑の林を設けて、クワコがつくのを期待する飼い方。
また或は、卵がついた葉っぱを採取してきて飼う飼い方。
そして最後に、
成虫(蛾)を交尾させて、卵(種)を得て飼う飼い方。

ひと口に、飼うといっても、
大まかに、これだけの方法があり、また、飼い方の発達という点も、もちろんあるでしょうから、たとえば、飼い方が、幼虫の採取から、順次、成虫を交尾させ卵(種)を得るという、現代の養蚕のプロトタイプの形まで、ある一ヶ所の地域で発達したものかどうかという点はわかりません。

一般に、古代の中国で“養蚕のはじまり”、それによって絹の利用の始まったと捉えられていますが、・・・
クワコなどの野蚕の絹の利用は、それ以前から広く行われていたのではないかと想像します。