ちょっと失礼なこと言っちゃヤーヨ
10度にも満たない寒空の下、今日の昼は渋谷のカレー屋へ行くことにした。
オープン10分前にも関わらず、すでに10人程も列をなしている。
大半は小汚いオヤジに品のない若い男達だ。
カレー屋の開店前というより、パチンコ屋の開店前の絵だとしっくりくるな、
などと、ぼんやり考えていると、店内へ通された。
10人も入れば満席になるような小さな店だ。
一目見ただけで、それと分かる、人の良さそうな、初老の男がここの店主なのであろう。
その妻とおぼしき女性と、2人で切り盛りしているようだ。
席についてすぐ、周りでは、Aセットだ、Bセットだと、何人ものオーダーが、矢継ぎ早に飛び交っている。
おれ以外の客はほぼ常連なんだろう。周りを見渡し、壁に貼られたメニューの中から、スペシャルカレーをオーダーした。
オープンキッチンというと、お洒落なモノを想像しがちだか、ここは、田舎の食堂のようなキッチンだ。そのキッチンで初老の店主は、黙々と揚げ物を上げ、カレーをよそっている。
隣の学生とおぼしき女が、スペシャルカレーのごはん半分で頼んだかと思えば。立て続けに、その隣の線の細い若い男は、スペシャルのごはん三分の一でと、オーダーしている。
おれは内心ごはんを減らすべきだったかと、後悔の念を抱いていると、目の前のカウンターへ皿が置かれた。スペシャルカレーだ。
大きめな器に、ぎっしりと盛られたカレーライスの上に、これでもかと、惣菜などがこんもりと盛られている。圧倒的なボリューム感に、
声が漏れ出てしまいそうになるのを押さえつつ。惣菜を掻き分け、カレーライスを一口運んだ。
甘い。
ファーストインパクトはまさに、甘かった。
それから唐揚げを頂く。作り置きしておいた唐揚げ弁当を食べたあの感触だ。
ほうれん草を一口いれ、カレーをほうばる。
甘みの後に、鰹だしの風味が口の中に広がる。
次にカツを頂く。カレーにとっては恋人みたいなものだ、悪くはない。次は茄子だ。素揚げしたのだろう、時間も経って、ぬるく、そして脂を纏っているようだ。
それから、カレーには似つかわしくない、ひじきに、厚揚げが載っている。どちらも甘みがしっかりと染み込み、唐揚げ定食のお供であれば中々良いだろう。しかし載っているのはカレーライスの上だ。甘ったるい和の風味と、甘ったるいルーが相まって、そこに良い香りとはいえない、鰹だしの風味が追いかけてくるのだ。
中途半端に柔らかくなっている、スライスチーズに、これでもかと載った唐揚げ。唯一の救いは適度な火加減の目玉焼きか。出されたものを残す、そんな不遜なことは出来ないと、胃の中へ無理やり流し込む。
店主はおそらく、未来はあるが、お金がない若者に腹一杯、美味しいものを食べさせたく、この店を開いたのだろう。結果この店は繁盛している。常に客が外で列をなし、腹を空かせた若者達がワクワクしながら、待っている。
これほどまでに、客から支持され、愛されている店も稀だろう。原材料費の高騰に消費税アップにも、経営努力というなの、若者達への愛のもと、値段も上げず、若者達の胃袋と欲求を日々満たしている。この主人の精進と情熱には深い尊敬の念を禁じえない。さらなる繁盛を願ってやまない。
ただ、おれにこの店は必要ない。
ただそれだけのことだ。