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三寒四温な日々

Twitterに続きblogをはじめてみました。大喜利や、短めの物語を書いたりしていこうと思います。宜しくお願いします。

両手の掌に、ボクはある言葉を書いた。
それを女性の前に両方の拳にして突き出し、どちらかを選んでもらいたいというものだ。

確率は二分の一。
不安が込み上げてくるが正直、どっちを引いてもらっても構わない。その運命とやらに、従うだけだ。

それにしたって、こんな決め方をしても良いのか?
自問自答を何度も繰り返した。迷った、凄く迷ったけど、迷った挙げ句出た答えは『これしかない』というものだった。

十代最後の賭けといっても過言ではない。
ボクは朝、勇気を持って女性に声を掛け、放課後に三年生の校舎裏に来てくれないかと何度かお願いしたら、渋りながらも頷いてくれた。
お願い作戦が何とか実ったわけで、次に繋がったと思った。

そして放課後を迎え、今に至るわけだ。
校舎裏に行くと、未だ来ていない様子で何故かホッとした。

『あ~未だ来ていないんだ、緊張するなぁ』
小さく呟きながら辺りを見ると、静まり返っていた。生徒たちの声も此処からは聞こえず、余計な不安が湧いてくる。

『偉い静か、もしかして帰っちゃったのかなぁ』
と思った瞬間、角を曲がり粋なりスッと現れ此方に歩いてくる女性を見る。
間違いない、朝声を掛けた女性だ。
心拍数が一気に上がる。
女性は近づいてきて口を開いた。
『此処まで呼び出して、一体何の用ですか?』
ボクは両方の拳を突き出し、掠(かす)れた声で伝えた。
『右か左か、どちらかを選んでください、お願いします』
女性は首をかしげ、呆れた表情を見せていた。
『こんなことで、わざわざ此処へ呼んだわけ?』
ボクは頭を下げてから、もう一度伝えた。何せ十代で最高で最後の賭けだ、気持ちがこもっていた。
『はい、大事なことなのです。お願いします』
拳には、爪痕が掌に付くほど力が入っている。

女性は小さく『はぁ』と溜め息をつき、人差し指で『こっち』と言って指差した。

ボクの心臓はバックバックで、右手には何を書いたのか記憶を辿るが、余りの緊張感から思い出せない。

『選んだけど、これが何なの?』
ボクの目を見て訴えてくる女性。
『えっと…』
ゆっくりと右手を開き掌を見せると、何と汗だくで書いた文字は掠れてしまっていた。

[…て下さい]
『これ、どういうこと?』
困惑するボクの顔と掌を交互に見ながら、事の意味を知りたがる女性を見ることが出来ず、頬を掻き額には汗が浮き、この賭けには若干の無理があったことを悟り始めていた。

『…て下さいというのは、あの、えっと、、』
『時間もないから早く言って、先生この後職員会議があるんだから』

玉砕覚悟、言うしかないと思った。此処まで来て逃げるわけにはいかない。
左手の甲で浮いた汗を拭い、ボクは此処へ呼んだ理由を説明すると、先生は大きく溜め息をつき吐き捨てるように言って、長い髪を振り乱しながら此処を去って行った。

『あっきれた!すっごいあっきれた、こんなことで呼ばないで!こっちだって忙しいんだから!』

先生の姿が小さくなり、角を曲がるのを目で追いながら完全に悟った。

ボクの十代最高で最後の賭けは『玉砕』。

掌に書いていた文字、それは十代のボクにとって余りに飛躍したものであったと同時に、伝えたかった想いと理想でもあった。

右手に書いた[結婚して下さい]
左手に書いた[付き合って下さい]

儚く消えた十代のハート…玉砕した文字の欠片からは光るものがあった。