私は将来、白馬に乗った王子様が迎えに来てお姫様抱っこをされながら、白馬に乗られて幸せになるのが夢なの。
そんな夢のようなお話が、、、。
私が帰宅する途中、路肩でタンポポのお花の匂いを嗅いでいると、遠くから『パカラッパカラッ…』とお馬さんが近づいてくるではありませんか。その音は、徐々に近づいてきて、私の前で止まったわ。
それは、私はしゃがんでタンポポのお花を摘んだりして、近付いてくる白馬を見ていた時のことよ。
白馬には男が乗っていたわ。頭にどう見ても安物にしか見えない王の冠と、赤いマントを纏(まと)い水色のセーターに緑色のタイツを履き、茶色の靴を履いていたわ。
私はこの出で立ちを見ただけで『これは違う、何かの間違い、何処の国の王なのか何なのか知らないけど、こればかりは違うのよ!』と心の中で叫んでたわ。
目が合ったとき、100パー違うと確信したわ。口の周りは髭を生やし、汗で光ってもいて、私の顔を見てニヤッて笑ったとき、もう気絶しそうになったわ。この人の歯、真っ黄っ黄!
『きゃ~!』
目を大きくして、ヨダレまで垂らして叫んだわよ。
王のような人は、白馬から手を差し伸べて私を乗せようとしたから、手を引っ張って無理やり降ろしたの。
『イッ』て言ったのが聞こえたわ。
その勢いでもって、何故か私はバックにペンチを持っていたから『この真っ黄っ黄、この真っ黄っ黄』と、連呼しながらペンチでこの人の歯を一本一本抜いたのよ。
そしたら『イッ』て何度も言ったのが聞こえたのよ。
酷い話。
ここで目が覚めたの。憂鬱な朝。
朝食はパンと紅茶。パンにはバターとピーナッツを付けた。
テレビは昨日の事件の続きをやってる。難航しそうな殺人事件。
パンを半分食べた頃に父親が会社へ行き、食べ終わる頃には弟も中学校へと自転車で家を出た。
そうして朝食をゆっくり食べ終わり、母親に促されるようにして私も家を出る。
あの夢は何なの?
朝からずっと考えているよ。
空を見ると曇天の空模様。私の心境に似ている。今にも降りそうな、でも降らない。
曖昧な気持ち。
黄色い花…。
路肩に咲く、タンポポの花を二つ摘んだ。
匂いを嗅ぐ。夢では臭わなかった微香が鼻を霞める。
そして、ポツリポツリと雨が降り出した。
急いで学校へと向かう。走っていると、一台の車が私を追い越し、少し走った所で停車した。
『乗っていきなさい』
音楽の先生だった。ドアを開け、挨拶とお礼を言った後、乗車させてもらった。
音楽のN長先生。二人いる音楽の先生のうちの一人で、私はこの先生の授業を受けたことはない。ベテランで、残り二年位で退職と同じクラスで吹奏楽部のY江から聞いたことがある。
『いつも、こんなにギリギリなのかね』
『いえ、今日は偶々(たまたま)です』
先生は前を向きながら、私に話し掛けてきた。
『何年生?』
『えっと、二年です。二年二組のK谷S未です』
話をしているうちに、ポツリポツリと降り出した雨が本格的に降ってきて、フロントガラスがパラバラと濡れる。ワイパーが雨をどかし、戻る度にキィと小さくなる音が聞こえてくる。時折先生を見ると、頭には白髪が目立ち、寝癖で髪が羽上がっていた。
『傘は持ってきてるの?』
『いえ、ないです。あっ大丈夫です。少し位濡れても』
車は学校に着き、校門を過ぎた所で止まった。
先生は後ろの座席から一本の傘を取り、私に渡してくれた。
『差していきなさい』
先生と、初めて向き合い『あっ』というものが目に入った。
『ありがとう御座います』
見入っていた。
黄色い歯だった。
そこから感じたものは、優しかった。
車に揺られているうちに、憂鬱な朝を抜け出した私は、バックから朝摘んだタンポポの花を取り出した。
『先生、これ良かったら…』
『先生にくれるのかい?』
『はい…』
『ありがとう』
私は小さく返事をし、先生は笑顔で二つのタンポポの花を受け取った。
降車し、緑色の傘を差す。
自転車置き場から、濡れた制服を着た生徒が足早に校舎内へ入って行くのが見え、あのまま歩いて登校していたら、私もずぶ濡れだったと、改めて先生に感謝と心中思わずにいられなかった。
教室に入り、Y江にこの事を話すと『先生、多分寝坊ね』と窓際で、雨に濡れる花壇を見ながら言った。
花壇の片隅には、二つのタンポポが咲いていて、雨に打たれていた。
朝摘んだタンポポの微香が思い出されて、優しい気持ちに包まれる気がした。