三寒四温な日々

三寒四温な日々

Twitterに続きblogをはじめてみました。大喜利や、短めの物語を書いたりしていこうと思います。宜しくお願いします。

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同じ美術部のS美が、放課後の美術室でパレットを出している時、ふとこう言った。

『私ダイエットしようかなぁ』

見た感じとしてS美は、ダイエットをするほどでもないように見えた。彼女がダイエットするなら私はどうなるのと、自分の腕を触り幾分太くなった気がして、現実を受け入れるのに精一杯な気分になった。

『私、重軽いのよね』

重軽いって、結局どっちなの?
赤、黒、白、緑と絵の具を出して、S美の身体の輪郭を目で追うと、細くはない。でも、私ほどではないと思った。

多少の見栄。

腕を少しだけ捲って、太い指から出される朱色の絵の具を出す彼女の爪が、薄ピンクになって表れる。

私は眼鏡を取り、レンズを吹いていると妙なことを言ってきた。

『私とどっちが重いんだろうね』

レンズを吹いている手が止まった。
S美は下を向いて、バケツに入った水に筆を入れくるくる回している。

私は黙って見て回している彼女の横顔を見て、応えた。
『最近量ってないから、見た目だと私の方が重そうだけど』

今度はS美の筆が止まった。
その横顔がニヤけながら、私の顔を見た。
私は眼鏡を掛け直し今日使う筆を選び、此れから使う一本をバケツの水に浸した。

幾ら友達でも、嫌悪したくなる笑みだった。私は作業に取り掛かろうと、準備を進めていく。
それを見ていたS美も、倣うように準備を進めていく。

準備が終わり、塗ろうとした時だった。

『あなたより痩せてたら、今はダイエット止めようかな』

筆がプルプルと震え出す。
目だけで横を見ると、パレットで朱色と白を混ぜ、肌色を作っている。
彼女の描いている人物画は、本人とは掛け離れた美人画で、肌の色は露出の多いポーズから重要な色だと思った。

震える手を一端下ろし、描いた絵を見ながら気を落ち着ける。パレットに筆を戻し、緑と僅かな黒を筆に付ける。

『私より軽い重いでダイエットするとかしないとか、関係ないと思うけど。』

彼女は描きながら口を開く。
『あなたより一つくらい、マシなのがあっても良いでしょ?』
筆をバケツに入れ、ウェスで筆の水分を取り話を繋げる。
『勉強も絵も敵わないし、何かないかと思っていたの』


私は森林を描いていた。黙々と、彼女の言葉に今は返答をせずに黙々と、只黙々と。

周りの部員たちも黙々と描いている。近々コンクールもあるし、一年生にとっては初めての事で、先生や先輩からのアドバイスを参考に絵と向き合っている姿があった。

コンクールに向けては、私も必死でどうにか賞を取りたいと、此れまで試行錯誤をしてきた。二年生の時に、一度入賞を果たし今回は更なる高みを目指して描いている。

時間が過ぎ今日の作業が終わる頃、私は隣で描いているS美に声を掛けた。
『ねぇ、さっきの話だけど終わったら保健室で量らない?』

彼女は描き続けている。私はその姿をずっと見ていた。鼻に汗をかいていた。彼女も今回のコンクールは、賞を取りたい筈。
目は凄く集中している。

『いいよ、保健室。終わったら行こ』
『うん』

部活が終わり廊下へ出ると、他の部活も今終わったらしく、それぞれ帰りの支度をしていたり、廊下の隅で話をしていたりと生徒たちが廊下や教室にいるのが目につく。

二人は帰りの支度をして、保健室へと向かうと既に真っ暗だった。
『不在中って札が掛かっているよ』
鍵も掛かっていて、中には入れない。
S美は残念そうに腰に手をやり、小さなため息をついてから私を誘ってきた。
『公園に行かない?実は、描いている時考えていたことがあったから』

公園?
校舎を出て、下校途中の公園へと向かう。
S美に理由を聞いても教えてくれない。
『着いたら教えてあげるから』と言っただけで、この話題については、これ以上教えてはくれなかった。


公園に着くと、街灯が煌々と辺りを照らし、人気も無く静まり返っていて、鉄棒やブランコが照らされいた。
S美は、ある遊具に向かって歩いて行く。私はその後を追う。

『着いたよ』
『シーソー?』
S美は鞄を置き、シーソーに跨がった。
『どういうこと?』
私は直ぐに乗らず、此処へ来た訳をS美から聞きたかった。

S美は、何も言わない。此処へ来る時と、同じ態度を未だ貫いている。
沈黙の中、見つめ合う二人。
『乗れば分かるよ』

その言葉を聞いたとき、理解が出来た。
何て滑稽な事をしようとしているのでしょう。
私は鞄を、彼女の鞄の隣に置いた。

もう体重が軽いとか重いとか、どうでもよくなっていた。彼女がこれで満足するなら、それでいいと。

彼女がこれを、思い付いたのだから。

シーソーに歩み寄る私。
公園の側を、何名かの生徒が歩いている。

『ギイィィィーーーッ』
二人同時に座った瞬間、シーソーは私の方に傾いた。
やはり、私の方が重かったのだろう。
上に傾いたS美は、笑顔で私を見ていた。
笑っているのなら満足したのだろうと、私は予想通りの結果を受け止めた。

『よかったね?』
S美に聞くと、見下ろす形で何度も万歳をし出した。

遠くで笑い声が聞こえる。

『ふぅ…』小さく深呼吸をした。
私はこの時決意した。
シーソーから速やかに離れると、S美の身体は一瞬浮いて『ダダン!』と急にシーソーが下に傾き、目を大きく見開いて、きょとんとしているS美。

私は両足のアキレス腱を順に伸ばす。
軽く屈伸をして、鞄を手に取った。
S美と目が合い、頷く私。

『結構辛いわ~!』
私はそう叫び、走って家路へと向かった。

今日も明日も明後日も、走ろうと思った。
そして、コンクールが終わったらS美を、また此処へ呼ぼうと決めた。

今度は私が万歳するんだから。