手首に巻かれたリボンのバーコードで本人確認を何度か行ってから番号の書かれたステンレスの大きな扉を通って中へ。
「髪の毛が外にでないようにこれを被ってください」
手渡されたのは彼女たちが被っている白いプラスチック帽子だ。フワフワのシャワーキャップという感じか。うまく被れずに頭全体を覆ってしまっててるてる坊主みたいになったところを優しく手伝ってかぶり直させてくれる。
「こちらです」
次の扉が開くと、そこが手術室だった。
広い。
学校の教室くらい有りそうなその手術室の真ん中には小さなベッドがひとつだけ。
もちろん、実際の手術の時には人も物もそのベッドを取り囲んでいるんだろうけれど。
頭を乗せるところにオレンジ色のドーナツ型クッションが置かれた謎の人体実験室のようにも見えた。
拉致してきた地球人を縛り付けたベッドの周りを目玉の大きな緑色の宇宙人が取り囲んで見てるシーンに使いそう。
その場から逃げ出したい衝動に駆られる。
でも、きっと自動ドアは開かないだろうな。
ベッドの上には太いアームに取り付けられた円形のライトがいくつもついている。人体実験に使う謎の光線が出てくるのか?
「ベッドに腰かけて仰向けに寝てください」
指示の通りにすると周りを取り囲んだ看護師が手術着を脱がしながら手術中にモニターする装置の端子を次々に取り付けていく。手術着はいくつかのホックで留められているだけで赤ちゃんが着せられるロンパースみたいだ。
何かの処置をする都度
「○○をします」
と伝えてくれるのが安心感に繋がる。だってこっちはこれから起こることへの知識ってほとんど持ってないんだもの。
「おはようございます。麻酔医の××です」
横から医師が顔を出した。脊椎への硬膜外麻酔の為のカテーテルを入れるそうだ。指示に従って体を横向きにして海老のように背中を丸める。何度か消毒薬が背中に塗られていく。いよいよ手術が始まるという実感が沸いてくる。
俺、今びびってる。
「何だか全力で逃げ出したい感じ」
「え?」
もう一度繰り返すと左上の視界の隅に見える看護師が微笑んで体を優しく叩いてくれた。
大事だよね、患者に安心感を与えるって
針を刺すときの微かな痛みがあってカテーテルが背骨の間に入っていく。
「痺れたりしませんか?」
麻酔医が尋ねてくる。
この時に痺れが有ると針を刺す場所を変えなきゃいけないんで全身麻酔の前に意識がある状態でやらなきゃいけないそうだ。
続く