そこにいたのは765プロのアイドルたち、そして小鳥であった。
それぞれが不安の表情でいっぱいで、会話すらない。

「プ、プロデューサーさん?」

一人の少女が代表したかのように口を開く。
こちらに声をかけてきたのは天海春香。
リボンをつけたショートカットの髪。それ以外はなんら普通の子と変わりはない。
ただ、何もないところで転ぶといった少しドジな一面もある女の子だ。

「みんな、どうしてここに……?」
「あんたが、何か知ってるんじゃないの!?」

すごい剣幕でこちらにまくし立ててきた少女。
彼女は水瀬伊織。
茶髪のロングの髪に、腕にはいつも大事にしているうさちゃんのぬいぐるみ。
少々高飛車なところもあるが、それは素直に言えない照れ隠しなことも多い。

「待ってくれ、俺もわからないんだ。」
「後堂さんも知らないんですか?」

小鳥が不安げに聞いてくる。
どうやら、ここにいる全員が知らないようだ。

「ん?ちょっと待てよ。」
「何がちょっと待てなのよ!」

もう訳がわからないと伊織が後堂をまくし立てる。
そんなことも気にせず後堂は落ち着いて人数を数えた。

「13人だ。」
「兄ちゃんそれがどうかしたの?」

それが何を意味するか気になって話しかけてきた少女。
双子の姉妹、双海亜美だ。
見分け方は髪を右で束ねてるのが亜美、左で束ねているのが真美。
まだまだやんちゃ盛りの時期なのか普段はとても賑やかな女の子たちだ。

「ここに来る前にアナウンスで言ってただろ。プレイヤーは13人と。」
「そんなこと言ってたっけ真美?」
「言ってたようなきもするよ?」

どうやら全員が揃ったらしい。そう思った後堂に今までだんまりしていた少女が口を開く。

「プロデューサー、まだ来てない人がいると思います。」
「どういうことだ?」

彼女は如月千早。
青のロングストレートに、すらっとしたスタイル。
とても歌が上手く、歌以外は必要ないとさえ思っている部分もある。

「プロデューサーが出てきた壁側に7つの扉、反対側の壁に7つの扉があります。」

そう言われて後堂は、扉の枚数を確認する。
確かに7つの扉が両壁に存在していた。

「あの扉だけ開いてません。」

千早が示した扉は後堂が出てきた壁とは反対の右端に位置していた。

「亜美と真美は二人で一人の計算なのか?」
「えー!兄ちゃん亜美たち別々の部屋だったんだよ!」
「そうそう!真美、もう亜美と会えないかと思ったんだから!」

そう、だからこそ誰もが理解に苦しんだ。
もし最後の扉が開いたら、それは14人目になってしまうのだから。
そして、とうとうそのときが来てしまう。

「き、君たちどうしてここに!」

最後の扉を開いて出てきたのは、765プロ社長の高木順一郎だった。
ここに集められた人間は、多かれ少なかれ関係を持っている人間ということになる。

「社長、これはどういうことですか?」

小鳥が高木に問いかける。
高木は後堂が入社してからの半年間でも、突拍子もなく無茶なことを発案することがあった。
今回もその一つではないかと思ったのであろう。

「待ちたまえ、今回ばかりは私も知らないのだよ。」

これの真偽は本人しか知りえない。ただ高木は知らないといった。
嘘だ、社長の演技だと飛び交う中で一人の少女が制止する。

「とにかく、一旦落ち着きなさい。」

彼女は秋月律子。
おさげの髪に眼鏡をかけていて、いつも冷静に物事を考えてから行動する。
こんな状況でも落ち着いて普段どおりでいられるのは流石ともいえるだろう。

「そうだ、律子の言うとおり落ち着こう。」

ひとまず落ち着きを取り戻した面々。
高木の提案でそれぞれどのような経緯でここにやってきたかをそれぞれが言い合った。
今までずっと黙り込んでいた女の子たちも少しずつ口を開く。
結果、全員が同じで突如襲われて運び込まれたということだった。

「いったい何が目的なんでしょうか?」
「それは、わかりません。後2分ほどでルール説明とやらが始まるでしょうから待ちましょう。」

口に出した小鳥だけでなく、誰もが何の目的で連れてこられたかわからない不安でいっぱいだった。
それは、男である後堂と高木も一緒であった。

「皆さん、揃いましたね。これよりルールを説明します。」

一人で部屋にいたときと同じ不気味な機械音声のアナウンス。
部屋にいた何人かが息を飲み込んだ。

「あなた方にはそれぞれPDAを与えました。それに勝利条件が書いてありますのでまずはそれを満たしてください。」

これは先ほどの部屋でも聞いている。
あと、どれだけルールがあるのか、それが重要な部分である。

「なお、1週間後勝利条件を満たしていない方も敗者として処分されますのでご注意を。」

このアナウンスが流れた瞬間、その場が凍りついた。
処分、つまりは殺されるということだろう。
誰もが予想外のアナウンスに戸惑う。

「このゲームは、勝利条件を満たして1週間後まで生き残るだけの簡単なゲームです。」

これだけ聞けば非常に簡単である。
実際は勝利条件が絡んでくるので、そうは言えない。
後堂のように自分以外のプレイヤーの死、つまり一人生き残るなど、とてもじゃないが簡単とはいえなかった。

「他人との協力、一人で個人プレイ。各自好きなように1週間戦い抜いてください。」

戦い抜く、この一言がこの後どれだけ熾烈なものとなるか。
また、平和的に終わってくれるか。
誰もがこの時点では想像できない。

「それでは施設の説明に入ります。この施設は、3つの特殊な部屋が存在します。データルーム、トラップルーム、レストルームです。」

データルームは、このゲームで有利になる情報をPDAにダウンロードできる部屋。
トラップルームは、他人を陥れるための装置や武器が存在する部屋。
レストルームは、唯一の非戦闘区域の部屋で食料やシャワー等、日常生活が出来る部屋。

「なお、レストルームで自身が危害を加える行為を行った場合は即失格とみなし処分します。」

ルール説明の段階ですでに重たい空気。
すでに生きる希望を失った者、考えることを止めた者。
こんな状況では何もかもが絶望に変わっていくだけであった。

「ゲームスタートは1時間後、始まりと共に大扉のロックを解除します。それまで、ごゆっくりお過ごしください。」

肝心の処分の方法は一切明かさなかった。
特に厳しいルール制限もない。
現状での処分に当たる行為は、レストルームで危害を加えることと1週間後に勝利条件を満たしていないことだ。

「肝心なことをいい忘れていました。」

終わったと思ったアナウンスがまた続いた。
おそらくわざと言い忘れたに違いないだろう。
誰もがそう思った。

「プレイヤーは13名、あなた方は14名。一人だけプレイヤーじゃない人が混じっていますよ。」

これが、さっきまで少しは協力しようという流れだったのを打ち崩した。
誰もが人を信じれない。疑心暗鬼へと陥っていったのだった。



続く
今日は765プロのみんなで海にやってきた。
プライベートビーチではしゃぎ放題だってさ。
といっても、女の子たちに混じってきゃっきゃうふふ出来るわけもなくパラソルの下でのんびりしているんだが。

「君は、彼女たちと遊ばないのかね?」
「しばらくはのんびりしてようかなと思います。」

不意に社長に話しかけられたが、あの中に混じるには少し勇気がいる。
健全な男子である自分が果たして邪な気持ちにならずに遊べるか。
ピュアな心のままである自信が少しなかった。

「たまにはのんびりしたいということかね。」
「本音を言うとピュアでいられる自信がないからですよ。」
「なるほどね。では、私は波にでも乗ってくるよ。」

社長はサーフボードを抱え、海に向かっていった。

「社長も元気だなー。」
「プロデューサー。」

遠くから俺を呼ぶ声がする。社長と話してる間にそれぞれ自由に行動し始めたみたいだ。

「どうした真ー。」

手を振りながら向かってくる真を呼び返す。

「みんな、やりたいことやり始めたんで一緒に遊びませんか?」
「そうだな。少しくらい体を動かすか。」

一人くらいの相手なら俺の心もピュアでいられるだろう。
体を起こして伸びをした。

「あ、プロデューサー!見てください。蟹が歩いてますよ!」
「ん?どれどれ。」

たまたま近くに蟹が歩いてたようで、真が嬉しそうに見ている。
そこまで大きくはないが、確かに蟹がそばを歩いていた。

「可愛いですね。」

しゃがみこんで見ている真が、普段と違って見えてドキっとしてしまった。
真にもこういう可愛い一面があるんだな。

「プロデューサー?ぼーっとしてどうしたんですか?」
「おぉ悪い悪い。あまりにも嬉しそうに見てたから。」
「から?」

んー真に見惚れてたなんて言うのも恥ずかしいしな。

「なんでもないよ。ほら、遊びに行くぞ。」
「はい、プロデューサー。」

そのうちちゃんと伝えてあげるよ。そのうちな。


~Fin~
がやがやがや……

街中を歩く人々。彼らまたは彼女らは普段通りの生活をしていた。
仕事、趣味、休息。それぞれが自身の意思で動いている。



「ふふっ……ついに完成したわ。」

卑しい笑みを浮かべる少女。
黒いゴシックパンクの衣装に身を包み、全てを見下ろすかのような瞳をしている。

「これで、みんな私に跪くの。」

手にはどこにでもありそうな白いマスク。
少し違うといえば口に当てる部分が厚く、中に機械のようなものがある。
そして、耳にかける部分にコードが延びておりスイッチのようなものがついている。
彼女はそのマスクをつけて、部屋を出て行った。




「うーん、春香のやつ遅いな。」

春香の担当プロデューサーが時間になっても現れない春香を心配している。
今日はラジオの生放送だ。早めの待ち合わせにしてはいるが、心配である。

「ごめんなさい。プロデューサー。」
「遅かったじゃないか。ん、マスクなんかつけて喉でも痛めたのか?!」

到着した春香がマスクをつけていることは一目瞭然。
ラジオは声の仕事であるから、支障があるのではと心配した矢先のことだった。

「プロデューサー。私に跪きなさい……」

春香が発した突然の言葉。
しかし、無意識のうちにプロデューサーは跪いていた。

「そう、それでいいの。私のことは閣下と呼びなさい。」
「はい……閣下。」
「ふふっ……さあ、スタジオに行くわよ。」

春香の言葉に何かしらの力が宿っている。
命令に逆らえない、プロデューサーは自分がどうしてしまったのか。
考えることは出来ても自分の意思で行動することが出来なくなってしまった。
しかし、その考えも徐々に薄れていき最後には自我すら消えていた。



「本日のゲストは、765プロダクションで活躍中のアイドル天海春香ちゃんです。」
「皆さんこんにちは。天海春香です。」

普段通りに進んでいる。そう見えるがすでに春香の手中に収められているスタッフたち。
春香の計画は順調に進んでいた。
そして、今このラジオを聴いている全ての人間が春香を崇める瞬間が来る。

「このラジオを聴いてるみんな。私のことを閣下と呼びなさい。」
「リスナーの皆さんも、閣下のありがたいお言葉を聴きましょう。」
「世界を平和にするには、私のような人間がふさわしい。」

ラジオを通して、春香を崇める愚民が増加していく。
愚民たちは決して逆らうことが出来ない。
いや、そもそも逆らおうとしない。
そう、それが天海春香を崇拝する『愚民』であるということだから……