今日は雪歩のダンスレッスンの日だな。
内気であまり自分を出し切れていない雪歩。
それでも元々の力があった分、春香より伸び始めるのは早かった。
しかし、担当プロデューサーの力不足が露見し始め伸び悩む。

「プロデューサー。おはようございます。」
「雪歩、おはよう。」

挨拶はコミュニケーションに欠かせない重要なものだ。
まずは挨拶、基本をしっかりとすることが大事だからな。

「よし、今日のダンスレッスンは自分を表現してみよう。」
「自分を表現……ですか?」
「難しく考えなくていい。自分らしさを出してみようってことだからな。」

普段は教えてもらったとおりに振り付けを踊っていたのかもしれない。
どことなく機械的な踊りを踊っているように見えた。

「わ、わかりました。やってみます。」

曲に合わせて雪歩が踊る。
やはり、どことなく踊らされている感じがする。

「雪歩、このダンスを踊るとき何を考えている?」
「えっと、とにかく失敗しないようにって。」
「そうか、それじゃ次からは失敗してもいい。その代わり無心で踊ってみてくれ。」
「よ、よくわからないですけどやってみます。」

雪歩には常に不安がつきまとっている。
それが踊らされているように感じる原因だったようだ。
失敗してもいい、伸び伸び踊ることが自信に繋がってくれるはず。

「ど、どうでしたか?」
「うん、さっきよりいいよ。雪歩はもっと自信を持とう。」
「で、でも……」
「誰にでも失敗はある。どんなに上手い人でもミスはする。」

そうさ、この世に最初から完璧な人間などいない。
誰もがミスをして、それでも繰り返し練習して上手くなるんだ。

「プロデューサー……」
「春香はそうやってあそこまで登っていったんだ。」
「わ、私頑張ります!」

春香、この単語を出すと雪歩のやる気が上がり始める。
ライバルとして意識しているのか、はたまた別の考えがあるのか。
それは雪歩しかわからない。



「お疲れ様。少しは自信が出てきたんじゃないか?」
「はい、プロデューサーのおかげです。」
「そんなことないさ、雪歩が頑張ったからだよ。」
「そ、それですね……プロデューサーあれを……」

練習した後だというのに、疲れ知らずか雪歩。

「よし、じゃあいつものところ行こうか。」
「は、はい。」

元々男性恐怖症だった雪歩はどこに行ってしまったのか。
今ではそんな面影は影も形も残されていない。
俺はそんな雪歩とも関係を持ってしまっていた。
そう、スキャンダルと同じさ。
バレなければいい。



「い、いつものしますね。」
「雪歩はいい子だね。」

春香とはまた違う刺激。
どことなくたどたどしい感じがより一層俺の気持ちを掻き立てる。
秘密の関係、これがどれだけ素晴らしいものか。
経験しなければわからなかっただろう。

「雪歩。」
「プロデューサー。」

見つめ合い二人はそのまま落ちていく。
深い深い終わりのない世界へ……



「それじゃ、気をつけてな。」
「はい、明日もよろしくお願いします。」
「ああ、雪歩も必ずトップアイドルになれる。だから頑張ろうな。」



俺はばれない。俺なら上手くやれる。
浮気じゃない。両方本気なんだ。
このときの俺は、後に身を滅ぼすことになろうとは微塵にも思っていたなかった。


with雪歩 Fin