もう45分が経過しているとアテンドから聞かされ、僕は驚いた。

まだ20分程度しかたっていないと思っていたのに、その特殊な環境下での濃密な時間の経過は、

僕の体内時計をおおきく狂わすほどのものだった。


その場所は完全なる暗闇の中だった。そこに参加者である僕たちは身を沈ませ、

盲目の人が持つ白杖を持つ右手、そして周囲の障害物を察知する左手、

あとは己の嗅覚、匂い、感じる気配、声と音の距離――。

それらをたよりにして、僕たち7人のクルーは、45分間の「完全なる暗闇の中の旅」へと出た。

思えば1年越しの念願かなって参加となった。

もともとドイツのジャーナリストが考案したというこの「DIALOG IN THE DARK」。前回に国内で開催されたときには行きそびれてしまい、ようやく回ってきた今回の日本公演のチャンス。ヨーロッパを中心にすでに世界25カ国以上で開催されている体験型のワークショップ。


先にも軽く触れたけど、7~9人のクルーでグループを共にする。


そこには、道先案内人というべき存在の“アテンド”がいて、「どうぞこちらです」というように最低限の案内を僕たち参加者にしてくれるのだけど、じつはそのアテンドの方々は全員、盲目の方々なのだ・・・。


ふだんは気づかなかったであろう足元を踏みしめる草木の感触、匂い、川のせせらぎ。


遠くのほうでは、鳥のさえずりも聞こえる。

やがて、そっとやさしく頬をなでつける風の存在。


僕たちは、その視覚以外のすべての感覚を開放した状態で、

その暗闇の中の空間を進んでいく。ふだんほとんどを視覚に頼って生きている僕たちにとっては、

まったく新しい未知の世界――。


そして、やがてアテンドのエスコートで、森の中のあるバーに僕たちは辿り着く。

ビール、ワイン、リンゴジュース・・・など、お好みの飲み物をそれぞれがオーダー。

今度は味覚と、温度を体験することになる。


そして、そこで僕たちは暗闇の中、おたがいがいままでに感じたこと、発見したこと、

などをお互いに語りだす。顔も見えない、お互いの気配だけでここまでやってきた僕たちのチーム。

DIALOG IN THE DARK ――暗闇の中での対話。


非常に有意義で濃密な対話がそこにはありました。



いま、僕は病気のため健康だったころにはあたりまえにできていたことが、

どんどんできなくなってきています。


歩くことも、途中で何度か休憩をとり、呼吸をととのえなくてはなりません。

そして、話すことも以前にくらべてどんどん難しくなっていきています。

呼吸苦をともなうので、以前のような人との対話は難しくなってきています。


じつは、BLOGをはじめた理由として、そのことも大きいのです。


呼吸が苦しくなって、しゃべることができなくなっても、

僕には書くことができる・・・。



そして今回参加した「DIALOG IN THE DARK」。

ふだんの生活の中でほとんどの感覚を頼っているといってもよいくらいの「視覚」を完全に奪った

状態での貴重な経験は、今の自分には非常に有意義なものでした。


目が見えないことは確かに、不便です。


しかし、人間には「見る」ことだけではない、貴重な感性がたくさんあり、そこを研ぎ澄ませることで

さらに大きな自由を得られるような、そんな気がしました。


末期の肺がんを患っているという状況を説明し、それにたいして非常に真摯に対応してくださった

代表の金井さん、そして特別に僕のためにアテンドについてくださった松村さん。

このおふたりのご好意には本当に感謝しております。ありがとうございました。





当たり前のことですが、この「DIALOG IN THE DARK」は体験することでしか感じることはできません。


そして、このすばらしい体験型のイベントを、もっとより多くの人に実際に体験していただき、

新たなる自分の発見、人間の持つ五感のさらなる可能性を高めるキッカケになることを心より願います。


チケットはもちろん完売しているのですが、運がよければ、キャンセル待ちで体験ができるかも!


http://www.dialoginthedark.com/