伸びっぱなしでカッコ悪いなと思って帽子で髪の毛をごまかしたり。

ワックスつかたけどいまいちキマらなくて「今日の俺はモテない」と落ち込んだり。


髪の毛を伸ばしていたころは、そんな瑣末なことが重要に思えて、

ときとして己の感情にまで影響を及ぼしていた。――たかが髪で。


だから、いつも格闘家やアスリートたちの潔い丸刈りに憧れていた。

ヘアスタイルなんていう、そういった余計なものごと――

まさしく「解脱」の意味するところの

「世俗的な束縛からの解放」がカッコよかった。眩しかった。


そして僕も、ようやくその位置に立つことができたような気がした。


そこで得たものは、まぎれもない「自由」だった。


そんな穏やかな気持ちに満たされながら、儀式は終わった。


そしてすぐさま、僕は上司にメールを打った。・・・やらなければならないこと。

それは、職場の仲間や部下たちへの病気のカミングアウト。

じつはこのときまで、外部や自分自身へのさまざまな影響を考え、

対外的には「肺の病気でしばらく入院」ということで情報を統一されていたのだ。

周囲へのがん告知は、まだ時期尚早に思えた。


しかし、もうこれでいわゆるがん患者的ビジュアル――脱毛した状態を、帽子でおそらくカバー

・・・になってしまったいまとなっては、もうそれも無意味だった。


会社を訪問する日取りを決め、

部内のメンバーには集合がかけられた。


さまざまな思いは胸中にあったけど、

やっぱり仲間たちに本当のことを告げることができるのは

どこかで嬉しかったのかもしれない。




いつまでもいつまでも、涙が止まらなかった。




(了)