2012年8月26日を私は忘れない


この日は毎年行われるイッセー尾形の夏のクエスト公演最終日

本来ならいつものように、ワクワク楽しみに訪れるところですが

今回だけは複雑な心境で会場に到着

始まるまでの間も鼓動は早くなるし

気を抜いたら泣いてしまいそうだった


もしかしたらこれで最後かもしれない


詳しいことは何も知らないが

公演前に届いた葉書には…イッセー尾形は休養します…
そう書いてあった


何度も読み返したみたが、そう書いてあった


photo:02



会場に飾られた過去の演じた人間たち


彼の演じる人間はどうして魅力的なのか

その答えがなんとなくわかってきたのは最近のことだ


彼の演じる人間は、良い人でも悪い人でもない
それが我々ごく普通の人間であり
そこに深い共感や喜びや悲しみが存在するのだと思う


上のショットは私の大好きなアトムおじさん
ストリップ小屋の幕間に登場する、

ウクレレを抱えた漫談おじさんだ、いや、おじいさん(笑)

このネタに心掴まれて以来、20年以上舞台に足を運んでいる


子育てで数年舞台を見逃したが

ここ3年ほどはまた、東京での公演には全て足を運べていた


ずっと変わらぬひとり芝居

ずっと変わらぬスタイル

ずっと後ろを振り返らず、新作を生み出し続けてきた


多くを語ることなく

多くを私に教えてくれた


私は勝手に勇気や愛を受け取っていたんだ



photo:03



イッセー尾形を支えていたのはファンだけではない


彼をサポートする森田オフィスのスタッフの皆様


我々客を信頼し、チケットはいつでも申し込みしたら発送され

チケット代金は当日払いというスタイル

客が行かなければ席は埋まらず、料金も回収できない

そんなシステムで公演を行う所が一体どこに存在するのか


私が20年以上前に初めて彼を観た草月ホールでも

既にそのシステムだった記憶があるので

おそらく最初からの彼らの決まりごとだったのだろう
そのスタイルを長年の間、全く変えぬスタッフには頭が下がる


そして、私はいつ訪れようとも

イッセーの会場で空席を見たことがなかった

すべての座席は信頼された客で見事に埋め尽くされていたのだ


さらに素晴らしいのは

30年以上にわたる長い舞台人としてイッセーは
ただの一度たりとも舞台をキャンセルすることはなかった


彼はずっと、ずっと、約束を守り続けてくれたのだ

他ならぬ我々ファンのために



photo:01



熱のこもった、愛の溢れる
素晴らしい素晴らしい舞台だった

ネタとネタの間に数分エピソードを話した

こんなことは異例だ

何かを懐かしむように、何かを伝えるように、彼は話し続けた


私は懸命に芝居に集中したかったが
何故か半分くらいしかイッセーの声が聞こえず
時折、目の前が滲んでイッセーの姿がぼやけて霞んだ

堪えても堪えてもだめだった

面白いのに、笑っているのに、涙がこぼれた


最後の舞台挨拶で
「昨晩風呂で、最後に何を言おうか考えました

で、筑紫哲也さんの言葉を借りようと決めました

…じゃ、今日はこんなところで…」
彼は深々と頭を下げ、満面の笑顔で舞台を降りていった


終演後のサイン会はいつものように行われ

私もいつものように並んだ

あれも、これも、伝えたい言葉があとからあとから浮かぶ


ついに私の番が来て
頭が真っ白になって口をついて出た言葉は
「必ず戻ってきてください」


イッセーは

「泣かないでください、必ず戻りたくなると思いますから」
そう応えて、
固い握手を交わしてくださいました


とてもホッとしたようないい笑顔だった

これが最後じゃないんだ、そう確信して本当に嬉しかった


長いこと一人で背負ってきた重責を
一旦下ろすことができますね


ずっとずっと休まずにいらしたのですから
どうかゆっくり休んでください

そして必ず、戻ってきてくださいね

いつまでも、いつまででも、お待ちしていますから


どうもありがとう、イッセーさん




「イッセー尾形のこれからの生活2012 in 真夏のクエスト」
原宿クエストホール

楽日