ねぇ。。お父さん、11月って秋ですか?2 | ふわふわサメ風船

ねぇ。。お父さん、11月って秋ですか?2

ステンシア。

アストリア王国、ブルック。

【キィー】

扉の開く音が王宮の長い回廊に響き渡った。

扉を開けた主わ女性。

その女性わゆっくりと扉を閉め、暫くその場から動かずに立っていた。

女性の視線の先。。そこにわ少年の姿があり、ベットに腰掛け窓の外を眺めていた。

しかしその少年の目にわ美しい王宮庭園も、その先に広がるブルックの街並みも映ってわいなかった。

そう。。少年わ目が不自由なのだ。

そのせいもあり少年の心わこの世界におらず、ずっと暗闇の世界にいた。

「誰ですか?」

暫くすると少年わそう口にし、続けてこう言った。

「マリア。。様ですか?」

少年の力なき声に返って来た声わ、どこか悲しげを感じる声だった。

「そうです。」

それから少し間を置いてこう響く。

「どうですか?」

「目の具合わ。」

返事とわ違い、こちらわ優しさを感じる声。

少年もその優しさを受け止めたのか?幾分か返す声色が変わっていた。

「相変わらずのようです。」

マリアと呼ばれるその女性にわ返事が分かっていた。

それから少年の方もマリアにそう尋ねられる事が分かっていた。

お互いが分かっており、それに対して不快な感情を抱いた様子もない。

おそらくこれわ挨拶の一つ。

そしてこの後の会話も含め、日々繰り返されているものだろうと思えた。

「そうですか。。」

「それでわ教会へ行きましょう。」

「日々の祈りが必ず。。神々に届く日がやってきます。」

「その時をゆっくり待ちましょう。」

するとその呼びかけに少年わ微笑んで返した。

【ニコッ】

「はい。」










王宮の内側わ常に静かで、時折耳に響くのわ人の歩く音位のものだった。

扉やドアわ数多くあるのだが、ほとんどの者が使用していない。

だが王宮内での移動手段わ極力歩く事が義務付けられている。

それわ少年。。いや、王子であるリッツ.オイゲンのためであった。

目の不自由なリッツが人の存在を感じやすいようにとの気遣い。

もともとわ王であるゲラルト.オイゲンの頼みであったのだが、初めから皆そうするつもりであった。

それわいかに王子が愛されているのかを表していた。

「でわ。。行きましょう。」

「はい。」

コツコツと響くマリアの足音を追ってリッツわ杖を頼りに歩く。

やがて体に日の暖かさと風を感じた時、リッツわ表に出たと覚った。

教会わ王宮の傍にあり、そこまでわ通いなれた道だ。

マリアの後を行かなくとも一人で行くことわできる。

だが相手の気持ちを汲む上で、あえて王子わそうしてきた。

「今日わいい天気ですね。」

「日差しが心地いいし。。いい香りがします。」

王子がそう言いかけると、なぜか返ってきたのわ少年の声。

「やぁ、リッツ王子。」

だがその声わ良く知る声であり、同時に元気にさせてくれる声でもあった。

「その声わ。。ルシアス!」

「ああ、俺だ。」

声の主わルシアス.ルナパルコ。

今わ亡き宮廷魔術師の息子だ。

「マリア様、ご機嫌麗しく存じます。」

「あなたこそ、元気そうで何よりです。」

挨拶が終わるとマリアわ王子にこう言った。

「リッツ王子、私わ失礼した方がよろしいですか?」

すると王子わマリアにこう返したのだ。

「はい、教会にわルシアスと行きます。」

「ですので、マリア様のお手を煩わせることはなさそうです。」

「はい、わかりました。」

「でわ。。ルシアス、リッツ王子の事をお願いしますね?」

「承知いたしました。」

マリアわリッツ王子の事をルシアスに任せ、その場を去って行った。

ルシアスわ遠退いて行く後姿を眺めながらこう言った。

「なぁ。。姉様とわ呼んでやらないのか?」

するとリッツ王子わこう答えた。

「目の見えない僕なんか。。マリア様の弟にふさわしくないさ。」

「ふーん。。そんなもんか。」

「うん、そんなもんだよ。」

「そんな話より、教会へ向かおう。」

「ああ、仰せのままに。。王子様。」

「ぷっ。。なんだよそれ。」

教会わ裏門から出るとすぐの所にあり、マリアの居城から目と鼻の先。

二人が通りを渡ると、もうそこにわ教会の石段があった。

リッツわ目が不自由に生まれたせいもあり、塞ぎ込みがちで誰ともあまり話さなかった。

それわ両親である王や王妃、それから他の王子らに対しても言える事だった。

だが姉であるマリアにだけわ心を開く事から、マリアの居城で共に暮らすようになったのだ。

そんな中リッツわ、宮廷二大魔導の息子であるルシアスと出会った。

ルシアスわ今までリッツが会って来た者とわ少し違い、目の不自由な自分に対し対等に接してくれた。

他の者わ王子である自分に対して遠慮がちで、健全でわない事にも配慮してくれていた。

一方ルシアスの方わそんな事わ一切気にせず、最初から自分に対し友のように接してきたのだ。

平たく言うと慣れ慣れしかった。

だが目上にわちゃんと気を配る一定の礼節わわきまえていた。

そのギャップがリッツわ可笑しくも感じ、また心地よくも感じていた。

そして次第に本当の友へと進展して行ったのだ。

「礼拝が済んだら大学へ行くだろ?」

「大学かぁ。。あまり行きたくないなぁ。」

「なぜ?」

「だってこんな目じゃ、魔法なんてまともに扱えるようにならないよ。」

「なぜ?」

「だってさ。。移動させる対象を見た事ないんだから感じられないよ。」

「それに自分が移動するのだってまともにできないんだ。」

「なるほど。。」

「つまり自分わ【へたれ】だから無理と言ってるんだな?」

「なんだと。。ルシアス!それわ言いすぎだよ!」

「僕わこれでもこの国の」

その時ルシアスが声を被せて言った。

「この国のなんだ?」

「権力を振りかざすのわ好きじゃないんじゃなかったのか?」

「あれわ嘘か?」

「お前わ嘘つきなのか?」

教会の石段を一歩上った辺りで言い合う二人。

だが詰め寄るルシアスにリッツわ次第に苛立ち、思わず大声を張り上げてしまった。

「嘘つきなんかじゃないよ!!」

すると通りを歩いていた者が驚きの声を上げた。

「まぁ!?何!?」

「あの子達どうしたの!?」

「もしかして喧嘩!?」

普段のリッツならここで冷静になり、非礼を詫びる行為に移ったかもしれない。

だが今日のリッツわ引き下がらなかった。

それを見たルシアスわリッツの後ろへ魔法で移動。

そこからおちょくるように声をかけた。

「何してる?」

「こっちだ。」

リッツもなぜか今日ばかりわそれにつられて振り返った。

「なにぃ!」

「ルシアス!僕を馬鹿にして。。くそっ!魔法で移動したな!」

「そうだ。」

「お前も移動したらどうだ?」

「ああ!やってやるさ!」

「絶対捕まえてやる!」

「ふっ。。どうだか。」

そう呟いてルシアスわ宙に浮いた。

それからリッツに近づいてみたり、遠ざかってみたりしていた。

「なんだ?」

「いつになったら捕まえるんだ?」

それからもリッツの事を挑発し続けるルシアス。

だがリッツの方もただ言われているだけでわない。

手を辺りに伸ばし、声のする方へしっかりと反応していた。

それでもルシアスに届いたわけでわなく空振り続き。

その様子をルシアスわ声でからかい、瞳わ真剣に見続けていた。

「はは!まるでベビーだな!王子!」

「あんよが上手!あんよが上手ってな!」

「くそっ!!ルシアス!!」

「僕を誰だと思って。。誰だと思って。。」

「はは!こっちだ赤ちゃん王子!」

「黙れ!!」

「それ以上言うと許さないぞ!!」

時折周りの人が反応を見せれば頭を下げ、手で合図を送り説明する。

大騒ぎに発展しないわけがそこにわあった。

「はぁはぁ。。くそっ。。」

「なんだ?もう降参か?」

「結局お前わマリア様のお荷物か?」

「はぁはぁ。。」

「このまま一生面倒みてもらうのか?」

【ピクッ】

「くっそーーーーっ!!」

おちょくられたリッツ渾身の叫び。

それでもルシアスを捕まえる事わできず、リッツの苛立ちわついに大爆発。

したくてもできない苛立ちと、どうにもならない悲しみが入り混じった初めての状態を作り出した。

その時だった。

体の内側が冷たくなったかと思った瞬間、石臓が大きく脈打ち、それが波紋のように全身に伝わった。

そしてその波紋わ体の先まで行くと打ち返したかのようにまた戻り、再び中心部へと向かう。

それがまた石臓の鼓動でまた外側へと言う具合に動き、次第に波紋わ力強くなっていった。

やがてそれわ体を飛び出して行く。

それわ不思議な感覚だった。

何かを吐き出したように思えるのだが。遠退いて行くそれわ失われず繋がったまま。

もし切れない蜘蛛の糸があったのなら。。こんな感覚なのだろうか?

うまく言えないが、いくつもの手が果てしなく伸びて行き辺りに触れる感じが近いか?

目わ相変わらず見えていないが、手で触れたような感触が無数に入って来る。

いつもわ二本の手で触れたものだけを感じる。

だが今わ。。辺りから数多くの【物】を感じ取れたのだ。

なんだ。。これ?

僕の周りに。。沢山の物がある。。

この感じわ。。

それわリッツにとって生まれて初めての感覚だった。

もっともこれほど苛立ったのも生まれて初めてだったかもしれない。

今リッツわ生まれて初めての体験を二つし、これから三つめもしようとしている。

どれにする?

これわ。。駄目だ。。大きすぎる。

じゃあ。。【これだ】

手は触れてわいない。

触れたのわ意識と物の存在。

その物と自分を繋いだイメージ。

そのイメージのまま、繋いだ物をルシアスの声のする方へ向かい飛ばした。

「危ない!!」

その時響いたルシアスの声がこれ。

それからその後、鈍い音が響き。

【ドスッ】

最後にマリアの声が響いた。

「ルシアス!!」

「ルシアス、しっかり!!」

事の真相わこう。

騒ぎを聴きつけたマリアが駆け付け、二人の争いを止めに入った。

そしてリッツの飛ばしたレンガが運悪く割って入って来たマリアの元へ。

だがそれに気付いたルシアスが身を挺してマリアを守ったのだ。

「誰か医者をお願い!!」

今日。。僕わ生まれて初めての経験を四つもした。

あんな感覚わ初めてだったし。。

あんなに怒った事も初めてだった。

「医者を呼んできて!!お願い!!」

その結果、どうやら僕わ魔法を使えた。

どれも新鮮で、楽しい経験だった。

「お願い誰か医者を!!」

四つ目としてわ。。

うん、結果ルシアスに怪我を負わせてしまったけど。。それでも僕わ嬉しかったよ。

他の感情わ何もない。

ただ。。嬉しかったんだ。

魔法が使えた。。使えたんだ。

ひたすらそれしかなかった。










一週間後。

【キィー】

マリアがいつものように部屋に行くと、そこにリッツ王子の姿わなかった。

【‼】

誰もいない部屋のベッドを見るなり辺りを注意深く見回すマリア。

その後動きを止め、少しの間を置いた後で慌てて回廊へ飛び出した。

【バタンッ】

今度わ大きな音を立てて扉わしまった。

そのすぐ後だった。

マリアの声が回廊へ響いたのわ。

「誰かーー!!すぐに来てちょうだい!!」

リッツ王子失踪。

これわこの居城内に留まらず、やがてわ王城までにも伝わった。

だが一般の耳にわ触れぬよう水面下での捜索が進められた。

これわ混乱を招かぬようとする苦渋の決断だったのであろう。

本心わ心配でたまらない。

国民の手を借りてでも探し出したい。

それでも混乱を避けねば国が揺らいでしまう。

王がそんな苦渋の決断を迫られている頃、当の本人であるリッツ王子わどこにいたかと言うと。。

「はは!これわ快適だ!」

空にいた。

「自分の体も物と同じで移動できるんだな!」

それもかなりの高度にだ。

「コツさえつかめば簡単だ!」

大空を鳥のように。。

いや、それよりも明らかに速い。

例えばAからBに鳥が移動するのに1分かかるとする。

だが王子わ1秒に満たない。

恐るべきスピードだ。

だがだからといって単純計算わできない。

「うん。。?あれ。。?」

【グラッ】

「なんか。。おかしいな。。」

やばい。。落ちる。。

その時王子わ、大空で急に意識を失いかけた。

そして回復満たないまま急降下。

薄れ行く意識の中で近づいてくる存在を感じ取った。

この感じわ。。

人だ。。











それからどれくらい時が経ったかわ分からない。

気が付くと王子わベッドの上に横たわっていた。

だが慣れた感触でわなく、初めて触れる感触と香りがそこにわあった。

それから次にやって来たのわ、初めて聞く声だった。

「気が付いた?」

その一言目から、なぜか心が落ち着く感じがした。

この感じわ、遠き日に母に抱かれた感じと似ていた。

その時の記憶が薄っすら蘇ったようだった。

「あなた、あのまま落ちてたら死んでたよ?」

「でも驚いたわ。」

「散歩してたら目の前に人が落ちていくものだから。」

「さん。。ぽ。。?」

「。。。」

「空を?」

「ええ、そうよ。」

「私、ネーヴァーで空を散歩するのが好きなの。」

「ネーヴァー?」

「え?知らない?」

「うそ。。って言うか、もしかしてフラネスの人じゃなかったりする?」

「フラネス?」

「そうか。。ここわフラネス王国なのか。。」

いつの間にか国境を越えて。。

「ほんとに!?」

と。。事態を把握しかけた時、突然襲った大声に思わず王子の体わ硬直した。

【ビクッ】

そして固まった王子の手わギュっと握られ、大声わ続いた。

「信じられない!」

「だってあなた、国境を越えるまで飛んで来たって事でしょ!?」

「魔法よね!?」

「とんっっでもない才能だわ!!」

「で、なんでそんなに移動して来たの!?」

「何か目的があったんでしょ!?」

「ほら、言って!聞かせて!?」

「い。。いや。。ぁ。。」

「気分が。。良かったから?」

「え?」

「なにそれ、そんな理由であんな高くまで移動して、国境も越えたの?」

あ。。れ。。?

変だったかな?

急に声が小さくなったような。。

「あはははははははははははは!!」

「面白い!!」

【ビクッ】

またしても突然やって来た大きな笑い声に王子の体わ固まった。

「だってそうじゃない?」

「気分が良かったから高くまで移動して、それで気が付いたら別の国に来てたって!」

「あなたもしかしてタフガイ?」

「ぜんっぜん、疲れ知らずなのね!」

「私だって高いとこまで移動できるけど、面倒くさくてしないわ。」

「だって疲れるじゃない。」

つか。。れる。。?

「あ。。」

この時ベッドの前の椅子に座る者の口元が大きく映った。

半開きだが小さな口。

薄紅色の艶やかな女性のものであった。

だがその口を見ていない王子わ、なぜ女性が言葉を止めたのかが分からない。

「うん?」

話す中で表情に現れる感情の変化を王子わ知らないからだ。

ゆえに彼女の【あ】と言う中断に対しての返事が疑問を含む【?】になった。

そしてその後わ彼女の出方を待った。

「え。。ちょっと待って!」

「その先わ言わないでちょうだい!」

「う。。」

待った挙句の答えがこれでわ余計に【?】になり黙るしかない。

「だってそうでしょ!?」

「そんな。。生まれたての赤ちゃんみたいな事。。」

「いえ、赤ちゃんわ言いすぎ!訂正するって言うか、まずわそう。。謝罪ね。。」

「ごめんなさい。」

「で、改めて驚くけど。。ほんとなの?」

ほんと。。って。。なにがだろう?

「え。。それわつまり?」

「そう!つまりよ!つまり!」

つまり。。?

「あれ?あなた、そう言えばさっきから視線もおかしいわね。。」

え。。こっちじゃない。。のか?

「あれ?」

「ちょっと。。私ったら、こんな。。なんで??」

「いや。。僕の方こそ。。なんかごめん。。」

気付かれた。。か。。

そう覚った瞬間、王子の顔わ暗くなってしまった。

その変化を見た女性わ慌てて否定する。

「いえ!あなたわ悪くない!」

「そう、けっして違うと思う!」

「でも。。」

「でも。。そうね。。うん。。」

「ちょっと整理しましょう。」

「落ち着くの。。ふぅー。。ふぅー。。」

「ほら?あなたもやってみて。」

「え?ああ。。うん。。」

こうして二人わ暫く深呼吸をして落ち着いたのち、再び話し始めた。

まずは女性から。

「あの。。」

そして王子わ答えた。

「え?あ。。うん。。どうぞ。」

それから女性。

「まぁ。。おおよそ。。」

「うん。。大体の経緯わ分かったと思う。」

それわ。。僕の目が見えないって事だな。。

「そうなんだ。。」

ならば。。

「なんか。。返って助かったよ。」

「ええ。。こちらこそ。」

それから二人の口数わ極端に減り、やがてわ沈黙した。

だがそれを拒むように再び相手わ話し始めたのだ。

「えっと。。私わルナフレア。」

「ルナフレアよ。」

それがいきなりの自己紹介からだった。

そうくるとわ思っていなかった王子も慌てて返そうとするのだが、緊張のあまり失敗。

「あっ。。」

「僕わアストリア王国第二王子リッツ.オイゲン。。です。」

王族と言う事を隠さず正直に名乗ってしまった。

警護もなにもないこの状態でこれわ非常に危険な事。

しかもここわ他国だ。

自国でさえ危険なのに猶更。

「はい?」

「あなた王子様なの?」

「え?あ。。はい。。そうです。」

王子もこの事にわ言ってしまった後で気付いたのだが、もはや後の祭り。

面倒な事になるなと察しわしたが、返って来た反応わ想像していたものとわ違っていた。

「あら偉いのね?」

「ならもっとシャンとしなさいな。」

「普段からそうなの?」

「優しい性格って事?」

「こっちの王族わもっと堂々としてるわよ?」

「じつわ私も王族なの。」

「え?」

「フラネス王国第二王女ルナフレア.イルフォート。」

ふふ。。冗談だけど。

「ああ、そうだったんだ。。」

「その。。こんな体だから。。その。。ずっと城の中にいたし。。」

「だから。。」

どう答えていいかわからず取り乱す王子だったが、急に近づく気配を感じて口を閉じた。

すると顔のすぐそばで声がしたのだ。

「だから?」

そして両肩に置かれた手の感触を感じた。

「そんなんじゃ国民が不安になるわよ?王子様。」

「私わ目の前にいる。」

「あなたもこっちを見てる。」

「落ち着いて。。話せるでしょ?」

「ん?」

自分よりも小さく軽い手。

でもその手が触れているだけで力が湧きだす感じがした。

なんだ。。これわ。。

さっきわ母のような感じがして。。今度わ。。

これわ。。この感じわ。。

大地に寝そべっているような。。安心感。。

そうか。。これわ。。

「ああ、もう平気だ。」

【君とわ生まれた時から一緒にいたような気がする】

「ならよし!」

「さて、これからどうしますか?王子様。」

「そうだな。。まずわ王宮へ案内して欲しい。」

「経緯わどうであれ、勝手に国境を越えてしまった事をこちらの王様に謝罪したい。」

「ですが。。国際問題になりますよ?」

「そうなっても仕方がないよ。」

「僕わ、魔法が使えるようになって浮かれていたとわいえ、罪を犯してしまったのだから。」

「え?」

「ちょっと王子様?」

「なんだい?」

「あなた。。魔法覚えたてなの?」

「そうだけど?」

「言ってなかったかな?」

ここで少しの間があいた後、大雨。

否、台風。

「わぁおっ!」

【ビクッ】

「え?わぁお??」

王子わまたしても暴風雨に飲まれて行った。

「ちょっとすごいじゃない!!」

「訂正する!!」

「あなたタフガイなんかじゃなくて天才ね!!」

「天才魔法使い第二王子!!」

「まるで私みたいね!!」

「すごいわ!天才魔法使い第二王子!!」

「ほ。。褒めてくれて嬉しいけど、呼び名が長すぎないかな?」

「そんな事ないわ!自信をもちましょ!」

「天才魔法使い第二王子!ここにあり!!」

「じゃ。。じゃあそれで。。」

「うーーん!素直でいいわね!天才魔法使い第二王子!」

「顔もいいし、スタイルもまずまず。」

「まさに天才魔法使い第二王子ね!」

「僕わ。。いや、僕の顔わ。。」

「そんなに悪くないって事かい?」

「うん、いい男よ。」

「そうか。。そうなのか。。」

「見たい?」

え。。

「いや。。無理だよ。。それわ。。」

「少しの間ならできるわよ?」

そんな事。。できるわけ。。

「目わ光を取り込んで、それを信号として脳へ伝える。」

王子が疑う中、少女の手わ置いていた肩から上へ移動。

首の筋を滑りながら頬を通り、こめかみを挟むように移動した。

「まぁ、それが医学的な説明なんだけど。。」

「医術に魔法が使われているのわ知ってるでしょう?」

「いや、そんな話わ聞いた事がないよ。」

「だって魔法で他人を移動する事わできないじゃないか。」

「だから癌だって魔法で取り除けないし。。」

「ノンノンノンノンノン。。」

「取り除くだけが医術じゃない。」

「確かに【他の場所】へわ移動できない。」

「でも実験により、【例外となる一部】のものわ移動できる事が分かった。」

「【本人の体の中】ならばね。」

「え?それわ。。つまり?」

「ええ、癌細胞わ摘出しやすい場所に移動できるし。。」

「なによりの発見が、神経を通る信号。」

「これも移動できるの。」

「それ。。本当!?」

「ええ。。本当ですわよ、天才魔法使い第二王子。」

「う。。なんかその呼び名わ。。まだ慣れないな。」

「すぐ慣れますわよ、天才魔法使い第二王子?」

「察しがついたのなら少しだけお黙りくださいな。」

「集中したいので。」

「あ。。あ、はい。。わかったよ。」

「そうよ。。少しだけ黙っててね。。」

「医術に魔法が活かせるといっても、まだ誰もがってわけじゃないの。」

「こんな事できるのわ何人もいないはずよ。」

不思議と落ち着いた。

疑う気持ちわ晴れ、彼女の言葉を素直に信じる事ができた。

彼女の言葉。。

少しの間なら自分の顔を見せてあげると言う彼女の言葉。

でも僕わ自分の顔よりも。。

「どう?」

「何が見える?」

ああ。。毎日教会に通っていて良かったな。

教会に安置されている遺骸が語った事わ本当だったんだ。

つまりこれわ僕の物語。

「ああ。。天使が見えるよ。」

孤独だけど、幸福に満ちた僕の物語のはずだ。

【この瞬間僕わ恋に落ちた】

初めて見た君に恋をしたんだ。

次の瞬間王子の笑顔わ光に包まれ、やがて薄くなり消えて行った。

それから再び世界が表れだすと、対象わルナフレアでなくキム.ジアに代わっていた。

だが今よりもずっと若く見える。

「なぁ、ウネ?」

「この子、目をパッチリ開けて僕の事を見て笑ってるよ。」

「あん?馬鹿か、てめぇ?」

「生まれて間もないのに見えるわけねぇだろうが!」

「お前、賢いくせにそんな事も知らねぇのか。。たくよ。。」

「だよなぁ。。」

「でもさ。。ほんとに見えてないかな?」

「しつけーぞ!てめえ!」

「こっちわ産後でヘトヘトなんだから、あんまイラつかせんな!」

「ああ。。ごめんごめん。」

【ジアさん】

【私の愛する人】

【キム.ジアさん】

「ちゃんと見えてたんだよねー。。私。」

気が付くとまた場面わ変わり、キャンディーとユギョンが並んで歩く姿が映っていた。

「あん?何の話だ?」

「うううん、何でもない。」

「それより再放送見た?」

「ああ、ステンシアか?」

「うん!」

「私、リッツ王子のあの時の顔すっごい好きなんだ!」

「その話わもう何遍も聞いたよ。」

「そうだっけ?」

「ああ、聞いた聞いた。」

「初めて見た女に恋するんだったよな?」

「けっ。。ひよこみたいなやつな。」

「あたしわ断然ルシアス派だ。」

「えー。。リッツ王子だっていいじゃーん。」

本当のところ。。私わジアさん派。

リッツ王子の事わ別に好きじゃない。

ただ。。あの時の顔がなんか忘れられないだけ。

親近感がわくと言うか。。

自分の事と言うか。。

上手く言えないけど、ほんの少し恥ずかしい。

ふふ。。笑っちゃう。

「だってよ、あいつわ。。」

下校途中だろうか?

仲良く並んで歩く二人だが、そこへ近づく影がもう一つ。。いや二つ見えた。

「ユギョン様、お連れしました。」

スラッとしたスリム体系に黒髪をきちっとセットした眼鏡をかけた女の子が一人。

「おお、ユル!わりぃな!」

「いえ、お役に立てて何よりです。」

この女の子の名わソ.ユル。

ユギョンに対する態度から察して使用人なのだろうか?

「おう、大喰らい!今日も屋台行くぞ!」

それからユルのすぐ後を来た女の子だが、こちらわと言うと。。

「うるさいなぁ。。おっぱいお化け。」

「ああ!?てめぇ喧嘩売ってんのか!?」

「ジョンウィさん、口が過ぎますよ。」

「ちっ。。はいはい、私が言い過ぎました。」

「わかればよろしいのです。」

シン.ジョンウィ。

ピンクのパーカーに猫耳付きのフードを被った小柄な女の子。

「しっかしよ、ユル。。」

「はい、なんでしょう?」

「タメなんだからタメ口でいかねぇかよ?そろそろ。」

「それにそれじゃ、あたしの使用人みたいに見られるだろ?」

「いえ!とんでもないです!!」

「使用人に見られても私わ構いません!!」

「ふーん。。変わってんな。。ユルわ。」

そこへ口を挟むキャンディ。

「ユルわユギョンが好きなんだもんねー?」

するとユルわ照れながら俯き、上目遣いでユギョンの方を見た。

「えっ。。えっ。。はい!!」

「いけま。。せんか?」

そしてユギョンわと言うと。。

【ニッ】

笑顔でユルの首に手を回しながらこう答えたのだ。

「そっか、そっか、ユルわあたしが好きか!」

「あたしもユルの事わ好きだぞ?」

「キャンディーも好きだし、そこの大喰らいの事もな!」

「だからずっと一緒にいような!」

夏の日の。。太陽のような笑顔がそこにわあった。

すると言われた側の三人わ、照れるわけでもなく穏やかな顔で返事をしたのだ。

「うん。。ずっと一緒っていいね。」

「はい。。私もそう思います。」

「まぁ。。いいんじゃない?」

【ニカッ】

「だろ!?」

「だってこんなへんちくりんなやつらがつるんでるんだぞ!?」

「ある意味。。すげぇ【縁】を感じるよな!」

「ユルわあたしが好きで、あたしわお母ちゃんが好きだし。。」

「ジョンウィわ清水先生だし、ユギョンなんて自分の親父だもんな!」

「まともじゃねぇよ!あたしらわさ!」

「うっ。。変かな?やっぱし。。」

「変だ!変だ!」

「あたしもお前らも、みんな変だ!」

「でもいいじゃねぇか!好きなもんわ好きでよ!」

「悪い事か?」

「悪い事じゃありません!!」

「なっ?ユルもこう言ってんよ。」

「でもこの中で一番可能性があるのわ私です。」

「かーーーっ!教師と生徒の愛で、そう言うかよ!」

「まぁいい!とりあえず続きわ屋台でしようか!」

「ケランパンが食いたくなってきた!」

「私わ大判焼きを。。」

「じゃあ私10円焼き!」

「私わユギョン様と同じものを頂きます。」

「よし!そうと決まればGO!GO!だ!」

こうして仲良し四人組わ屋台へと向かった。

「冬子さん、あたしケランパンハム入り!」

「あ、私も同じものを。」

「私わね!10円焼き!」

「私わ大判焼き、小倉で。」

「はーい!」

日韓夫婦が営むケランパンの店ノムチョア。

日本人の妻である木島冬子(きじまとうこ)のアイデアにより他の焼き物も取り入れた。

可愛さと食べやすさから若者を中心に人気となった店の一つで、ここが4人の行きつけの店。

他にわハットグやトッポギ、カルグクスやトルネードポテト。

オデンやキンパなどおなじみの屋台が立ち並んでいる。

4人わ注文したものを受け取ると、屋台にしてわお洒落な椅子に腰かけお喋りの続きを楽しんだ。

「でよ。。おめぇ、マジで先生かよ?」

「あ。。だから。。大判焼きなんですか?」

「いや。。そうでもあるけど、まぁ。。餡子好きだし?」

「大判焼きって持ちやすいし、丸くて可愛いじゃん?」

「それ!わかる!」

「丸いし、可愛い!」

「と。。言いつつ10円焼き食うかよ。。ったく。」

「いいじゃん!これも斬新なデザインで気に入ってるんだから!」

「日本ラブだな、おめぇらわ。」

「うん!ジアさんも日本好きだし!」

「うわっ。。また始まったよ、キャンディーのおやぢ病。」

「少しわお母ちゃんの事も労われよ?」

「それわユギョンに任せる!」

「おう!任された!」

「ユギョン様、私もお手伝いします!」

「馬鹿だなー、ユル。」

「こういうのわ手伝うとか、そんなんじゃなくてよ。。」

「愛だろ!?」

「あ。。愛。。ですか。。」

ユギョンにそう言われ顔を赤くするユルだが、それを見た二人が茶々を入れる。

「告れ!告れ!告れ!告れ!告れ!」

手拍子しながら二人が声を合わせ、それに答えるようにユギョンわポーズを決めた。

そして口を開き、こう言いだした。

「ふっ。。ソ.ユル。。」

「ずっとあたしについてきてくれるか?」

ユギョンの手がゆっくりとユルに向かって伸びて行く。

それをユルわ瞳を潤ませながら取ろうとした。

その時だった。

【ドガッ】

ガシャガシャガシャガシャガシャガシャ。。ガッシャーーーンッ!!

突然の轟音が襲い、その後悲鳴が響き渡っていたが真っ暗になり何も見えなくなった。

最後に見た景色と言えば酷く揺れた世界だけだった。

それから世界わ赤く染まり、やがてわ暗闇へと変わったのだ。