こんにちわ(=⌒▽⌒=)お久ぶりです!
今回のブログも立て続けに短編小説をご紹介します![]()
お楽しみ下さい
では!
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新地本通りには追い剥ぎが出る。
黒服の有名人フランケンとムルソー2の前で立ち話をしていた。
フランケンは誰が見てもフランケンシュタインだからフランケンと呼ばれ自らも名刺にフランケンの横顔の似顔絵を入れている。
追い剥ぎの樹里ママはブラックカードを遣う新地の顔であるY氏と肩を組み現れた。
そして僕の腕をするりと掴みクラブ「儘」に拉致した。
樹里は「二人上がり!」とごきげんだ。追い剥ぎは言い過ぎで本通りの一本釣りのマグロ漁師みたいだ。
僕はあざやかなお手並みと店の高級感に圧倒されておとなしくマグロになっていた。
僕は人見知りがきつくて初めての店ではすぐに怒りだすので、承知の樹里はオートマチックに事を運ぶ。
人見知りというがシリアスな言い方をすると広場恐怖症だ。旅行は行けないし知らない所や店にも行けない。
不安症状が出ると怒り攻撃的になる。
サイコだ。
ヘルプのキャストが餌食になった。
「カフカも知らない高卒と、なんで俺が酒飲まなあかんねん、高級クラブやったら大学院もってこい!」とあからさまな学歴差別を口にだす。
わざわざ高いお金で双方気分が悪くなる、吐くような遊び方だ。
それだけ言ってまだ歓待されるなら今度はいい客になる。まぁそんな店やキャストはめったにないので馴染みになると店がつぶれるまで通い、キャストにあきることもなく身内感覚を持つまでになる。
樹里ママとはもう八年の付き合いだ。
彼女は店を経営し潰しての再就職の雇われママだ。
〈山へ登ったということは、山へ登って下りたということです、、ユング〉
「おまえなんか、タバコの空き箱を指でひねってゴミ箱に捨てようと腕を振り上げた瞬間に、その腕をとって此処に連れて来た訳やなぁ、樹里えらい偶然や」と憎まれ口をたたく。
「私は雲をつかむように腕をつかんだの」とどう見ても一流の着物の着こなしの二の腕を見せて宣う。
瞬く間にボックス席は僕を監禁するように三人のキャストで埋められ何度も乾杯となる。
上品なぼったくりの始まりだ。
たいした美人などはいないし、おもしろいはずもなく成熟した所が高級クラブだ。
躾は行き届いていて暴言にも逆らう者はいない。
おもしろいこともなき世を、面白くだ。もういい客でいようなんて殊勝な気持ちなどはなく気儘我が儘の放埒。
白いグランドピアノの周囲にカウンター席をしつらえたコーナーに逃亡した。
妙齢の美人が弾き語りの演奏をしている。
席を移りボーイにリクエストを頼む「ウィアーオールアローン」とスタンダードナンバーを言った。ピアニストがにっこりうなずいた。
ボーカルに期待したがピアノ演奏だけだった。だが名曲なので細やかなタッチのピアノが詩情をかもしだした。
We are all alone
そのとおり、みんなヒトリボッチだ。
樹里が隣にやって来て愛想を言う、僕は彼女の絞りの着物の見事さの意味を考えていた。
ステータスとゴージャスと曖昧な日本の文化が具現化した「儘」という店の意味を感じていた。
僕はここに居る。
樹里が最後のリクエストをと促すので、「G線上のアリア」と言った。夜も終わろとしている、今夜の葬儀にふさわしい曲だ。別名はエアーと呼ぶ。
彼女の演奏が始まりなぜだか分からないけど、その時僕は「ローランドの哀しい目をした貴婦人」の旋律を思い出していた。
ハーモニカの名手のチャーリー・マッコイのイントロで始まるボブ.ディランのとても長い傑作曲だ。
シュールな詞とユダヤ民族の悲劇を表したような曲想。
その詞の中の一節を酩酊の混乱から引き出そうとしていた。
あなたの声はチャイムのようで顔はグラスのよう、あなたの肉は絹のよう~あなたの瞳に月光が閃く~夕闇にあなたのシルエットが浮かぶ時。あなたのカードにはジャックとエースが欠けている
誰があなたを埋葬できるのか
ローランドの哀しい目をした貴婦人よ
私は待っていていいのか?
記憶はおぼろでエーテルのように立ち上り消えていく。
ピアニストの彼女の白い顔もおぼろに自ら輝く月のように見えた。
お前の目が見えるから月が見えるのではなく、月が自ら輝くから見えるのだ。
記憶が飛びだし気がつくとピアニストと僕と樹里の三人で織田バーのカウンターに居た。
僕はマッカランロック、樹里は水割りピアニストはカクテルを。
厚焼き玉子とマッシュルームピザを分け合っておいしく食べた。
神童の墓場と言われる音楽の世界に居る彼女に森カフカが話しかける。
「MJQ、モダンジャズカルテットのG線上のアリアが大好きです」
「MJQ!そんなお話ができるなんて~」
「鉄琴、ビブラフォンのあの音は煌めきです」
「そう、絶対零度の世界から聞こえくるようですね」と彼女は僕の重心をつらぬくセリフを言った。「重度の鬱病になった時、体も頭もフリーズした状態にあの曲を繰り返し聞いて、インディアンティーを沸かし飲みました~溶けましたね」と僕は告白した。
「そうですか、私は音楽で生きていますから嬉しいです、劇的に楽曲が効いた奇跡ですね」
「今日も効きました荒れた記憶にすりこむハンドクリームみたいに」
「We are all aloneリクエストなさいましたが、静寂がテーマですか」と彼女は月光を目の中でおよがせて言った。
「みんなひとりぼっち、と訳するけど違うと思います」と僕はロックグラスをカラカラさせた。樹里はマスターと話し込んでいる。若手のバーテンダー中川君はハンサムなのでお一人様のお嬢さんのお相手をしている。
「WEが誰をさすのかですね、みんなか我々か、二人か、たぶん二人だと思います」とピアニストは僕が言いたかったことを要約してくれた。
「僕にはこの名曲はこんなふうに聞こえます」と酩酊のなかはるかな記憶をたどり暗唱した。
“WE ARE ALL ALONE”
不思議なアメリカンコーヒーの透明さの液体になって
僕と君との体とか自我とかいうフレームから
あふれ出よう
そして、この静まった、6車線道路やインターチェンジが交差した
雨できらめくナイトレーンから拡がる
我々、二人の風景に溶け込もう
あの大観覧車のテッペン
ジェットコースターの背骨のスリル
四方の青い山のシルエット
道路の涯でUターンして来る白いくーぺ
水しぶきを跳ね上げ突進し、過ぎ去る怪物のようなトレーラートラック
通り過ぎて行くヘッドライトの光線で朽ち果てた道路標識のドラマ
歩道橋の上にたたずみ車の流れをぼんやり眺めているだけのシナリオライター
…君と僕が、そんなシーン達の主役、いや主題なんだ…
(だから、キスしよう、キスしよう)
(いつかのような溶けてしまうキスが必要なんだ)
恥ずかしさと酔いと眠気が襲ってきた。カウンターの上に右手をパッと開いて彼女に差し出した。
「まぁきれいな指ですね、ピアニストみたい」と言って彼女は僕の手を取ってくれた。その彼女の手は輝いていた。まるで映画「戦場のピアニスト」の最後のシーンの大ポロネーズを弾き始める瞬間みたいだった。
僕の物語はいつも、これから始まる時で終わる。
夜の寿命も尽き樹里とピアニストの見送りでタクシーに乗り街を去った。
部屋のベッドで携帯にメールが入った。ピアニストからで件名は御礼で折り目正しい文だった。
だが、名前が、
サイコ緑、だった。
そして最後の一文字の(で)が(て”)になっていた。
奇妙な名前に謎の文字。残った。
パスワードを探せというメッセージかと思った。彼女の心の扉を開くパスワードのキーワードを推理してみた。分からなかったが心にとめておくと、ある時ポンと答えが出てくるものだ。それが時間の効用力だ。
△△△
サイコ緑は自室の防音室のシングルベッドに居た。
ピアニストなのにピアノのない防音室でクラッシックギターがハードケースの中に収められ鎮座している。
彼女は絶対音感を持つゆえのサイコだった。
この防音室も音の侵入を防ぐために入念に作られたものだ。彼女の耳に入る音は全てどの音階だと情報処理される。
自動車のエンジン音からクラクションの音、水滴の音から雨音までオートマチックに頭の中の楽譜に記される。
だから気の休まる時がない。まったくの静寂でも時には残響が響く。
サイコだ。
リハビリのためクラブの弾き語りを始めた。雑音に慣れるためだ。
だが、調律の狂ったピアノほど手に負えないものはない。
その音源が自分になるのだからたまらない。いくら頼んでもサイコ緑の耳にかなう調律などできるはずもなかった。自室のグラウンドピアノも完璧なチューニングを求めるあまり満足できず処分したくらいだ。
自分の手でチューニングできるギターを始めたのはもう十年も前の話だ。
世界が狂っているのら、そこに生きようとする自分も狂うしかないと確信した。音楽は詩情などとかたるあの男はおめでたいサイコだ。
私はGの単音だけで十分だ、そこには全てがあると思った。
△△△
男は持てあましたものを酒場に捨てにやって来る。
人によりそれは欲情であり愚痴であり時間でありロマンであるが清算すると全てお金に換算される。つまるところお金を捨てに来ているのだ。
欲しがっているのではないので与えるキャストは売れない。うまく捨てさせてやるのが水商売のコツだ。
腕のいい漁師の樹里は、撒き餌のメールと電話であたりを得た。魚場にマグロがいる。店で待っているのでは効率が悪い。お迎えは確実だ。
電話を取って五分もしないうちに樹里は現れた。
ホームにしているレディースバーのベビグラは新地の入口のビルの六階にあり見晴らしがいい。
この店には少し似つかわしくないほど着物をビシッと決めて樹里はビールを飲んだ。
「さぁ行こうか」と樹里が促した。威勢が戻っている。この街では弱みなど売り物にならずつけこまれるだけだ。客の俺までつけ込まれるので弱気は要注意だ。
「儘」は本通りの二階にあり階段で息が切れる。
白のピアノカウンターに座った。
サイコ緑は「カサブランカ」のテーマを演奏していた。コードの鳴りが良くなっていたので調律したなと思った。
彼女はかるく会釈し微笑んだ。白い日傘を開いたように表情が明るくなった。
女は豹変する。
クラプトンのレイラをリクエストした。この曲はロックなので無理かと思ったががサイコ緑の可能性を聞いてみたかった。彼女は目を伏せ頷いた。
驚いた。
ピアノバージョンだけをアレンジして弾くのかと思っていたらジャズアレンジでいきなり歌い始めた。
まるでポロネーズのようなピアノ伴奏が追いかける。
「レイラ~♪」のリフの時彼女の喉からかすかに木枯らしの音が聴こえた。
何かに取り付かれたような見事なプレイだった。
僕の世界が変容した‥Suddenly♪
妙齢のサイコ緑と飲んでいると時間が伸縮性を持ち、彼女はどんどん若くなり甘い匂いを振りまいた。
サイコ緑が変容した。
ピアニストサイコ緑に恋した僕は来る日も来る日もクラブ「儘」に通い詰めた。彼女の演奏を夢見るように鑑賞して
「あなたは世界です」と言い募った。
サディズムでもマゾヒズムでもない全てを超越した情欲、超越融合の恍惚だ。
Suddenly♪
ある深夜突然、サイコ緑は防音室の自室に森カフカをいざないギターでショパンのポロネーズを弾いた。
完璧な変則チューニングででの完璧なその演奏を聞いた森カフカは感激のあまり涙を流しサイコ緑の前にひれ伏した。
そして彼女の絹のような体を抱いた。
超越融合の情欲を満たした。
思いをとげた二人は樹海で心中しようと決め準備を始めた。
Suddenly♪その時突然、樹里が鬼人の形相で防音室に現れ雷のように喚き、森カフカの腕をつかみ拉致した。
彼はぼう然自失でおとなしく樹里のマンションに連れられた。
六匹の生まれたてのシーズ犬と一緒の部屋で丸くなって眠り時も世も忘れた。
そうなるよりしかたがなかった。
サイコ緑は強くなった。飛躍した演奏技術が認められ「ブルーノート」でレギュラーでライブを開き瞬く間にジャズシーンの世界で君臨するピアニストサイコに変容した。
樹里はカフカをチーフにして新地で店を再建し繁盛させた。 終。
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