遠い遠いどこかの話。そこに住んでる男は、どこに行くのも「あれ」を持っていた。
それはとても重要で、その男には欠かせないものだった。
ある時、ふとした時に
「あれ」をどこかになくしてしまった。
その男は、あわててあたりを探し、どこにもないことが分かると
ここじゃない所にあるのだと思い、遠く遠く、あてのないまま歩き出した。
店先に立っている女は手招きして
「あれ」はあそこにあるはずだと指さしていた。
男はそれを嘘だと分かっていたから、そっちの方へは行かず、
そこに座っている老人に、
「あれ」はどこにあるのか聞いてみた。
老人は、
私はこう見えても女だと言い、「あれ」はここにはないことだけを告げ、
椅子にすわったまま、その老人は眠りについた。
屋根にとまっている二羽の鳥は
そういえば、昨日「あれ」をあそこまで運んだと、その男に言った。
男は下ばかりむいて歩いていたから、その二羽の鳥に気づかず、そこを通り過ぎた。
寒くなる前に早くあそこに行かなくてはと、その二羽の鳥は思い、男の頭の上を飛び去った。
もし、再び「あれ」を見つけることが出来たなら、きっと幸せになれるだろう。
もし、「あれ」を手に入れることが出来るのなら、どんなことも耐えられるだろう。
男は、まだ「あれ」を見つけられないでいる。
早足で歩いている中年の男に
「あれ」はどこにあるのか聞いてみたが、
その中年の少し太った男は、「あれ」が何かすら分からない様子だった。
それを見ていた都会に住むアリは
「あれ」を見つけたけれど、大きすぎて運べないから
あのままにしておいたと、下から言った。
男は、下ばかり向いて歩いていたから、その言葉に気づき、
ありがとう
と言って、そのアリを踏まないように気をつけて、そこから去った。
「あれ」はどこにあるんだろうか。
男は、遠い遠い所を見てる。
遠くに光って見えたのは
地上の降りる日の光だった。
そして
春が過ぎ、夏が過ぎ、秋がきて、そして木の葉が落ちはじめて、
細かな雪が舞い落ちる頃
男は、ある時
つまずき転んだ。
その時
その男のポケットから
「あれ」が落ちた。
「あれ」は、少しの間光っていて
そして雪にまじって分からなくなってしまった。
男は
あぁ、ここにあったんだ、これでゆっくりできると言い
眠りについた。
あれがあれば幸せになれる
あれがなくてもきっと。。
遠い遠いどこかの話
何もない話。