日曜日は政治ネタではありません。
大学時代、僕は演劇に没頭していた。
演出、役者、舞台監督、照明、音響、などすべてを4年間で経験した。
最後の卒業公演のとき、僕は主役を命じられ、女性の役が少なかったこともあり、Tさんという同じ卒業生の女性が演出をすることになった。
演出は映画の監督と同じで、僕も何回かやったが、統率する力も必要だし、重圧も激しい。
だから、ほとんど慣例みたいに男性がやる場合が多かった。
だが彼女は、悩みながらもその大変な仕事を引き受けた。
2ヶ月間の練習や準備が始まったが、案の定解釈をめぐって、それぞれがぶつかった。
その中心は常に彼女で、それは仕方のないことだった。
僕とも何度も激しい議論をした。
彼女の友達から伝え聞いて、少し弱音を吐いてることも知った。
でも僕は敢えて優しいことは言わなかった。
だから、傍目からは僕とTさんは仲が悪いだとか、このままでいいのかと心配する後輩もいた。
実際、僕も悩んでいたが、彼女は日増しに強く明るくなってるのも感じていた。
反面、そのように振舞ってるのかもしれないとも思っていた。
公演前日、最終リハで、僕はそれまで練習では「泣かないといけない場面」で泣けなかったが、初めて自然に泣けた。
その瞬間にこの劇が完成したのだと、自分の中で思った。
最終日の公演が終わり、都心近郊の安旅館で打ち上げになった。
卒業生も手伝った後輩や先輩も集まって、すべてを吐き出して宴会は盛り上がった。
それまでのことや劇への批評やこれで演劇とお別れするという想いなど、様々な感情がその喧騒の中にあった。
卒業生の一人でもあり、前年部長でもあったので、僕も集中的に飲まされ、発言させられた。
途中、したたか飲んでいたので、宿泊する部屋の一つに逃げ込んだ。
薄明かりのその部屋にTさんがいた。
びっくりしたので「あ、ごめん」と言った気がする。
その後、次の言葉が出なかった。
「よく頑張ったな」とかねぎらいの言葉を言おうかと思ったが、言えなかった。
Tさんの顔は僕のすぐ前あった。
あれほど毎日練習していたお互いが、このように間近でいるのは初めてだった。
見つめ合ってるうちに、互いに涙が流れてるのが判った。
沈黙が怖くなって、確認するように「うまくいったよな」とだけ言った。
「うん」
小さい言葉が返ってきた。
「嫌ってるのだと思ってた。」と彼女は続けて言った。
そのまま二人の目が互いの姿を写すのが見えるほどに迫ったとき、口吻を交わしていた。
彼女の実力は認めていたが、恋愛感情は互いにはなかったと思う。
それは、目標を達成した同志が、互いを讃えあう握手のようなものだったのかもしれない。
今ではそれがどのくらいの時間か、どのような感触だったかも曖昧だ。
後輩のO君が「せんぱ~い、こんなところでなにしてんですか。主役がいないと駄目ですよ。」と部屋に入ってきて、緊張感のある濃密な時間は終わった。
その後は、Tさんと話す機会はなかった。
卒業後も会うことも、話すこともなかった。
互いに言い足りないことを持ったまま、何年も過ぎて行った。
一度だけ、10年位あとの同窓会で会った事がある。
懐かしさに、笑いながら仲間と一緒に冗談を言って言葉を少し交わしただけだった。
男女の間でも、友情のような、共感し合う感情を持ち合うことはあるのだと思う。
あの瞬間で、互いは理解し、和解も出来たのだと思う。
あくまでも僕の勝手な解釈だが。
大学時代、僕は演劇に没頭していた。
演出、役者、舞台監督、照明、音響、などすべてを4年間で経験した。
最後の卒業公演のとき、僕は主役を命じられ、女性の役が少なかったこともあり、Tさんという同じ卒業生の女性が演出をすることになった。
演出は映画の監督と同じで、僕も何回かやったが、統率する力も必要だし、重圧も激しい。
だから、ほとんど慣例みたいに男性がやる場合が多かった。
だが彼女は、悩みながらもその大変な仕事を引き受けた。
2ヶ月間の練習や準備が始まったが、案の定解釈をめぐって、それぞれがぶつかった。
その中心は常に彼女で、それは仕方のないことだった。
僕とも何度も激しい議論をした。
彼女の友達から伝え聞いて、少し弱音を吐いてることも知った。
でも僕は敢えて優しいことは言わなかった。
だから、傍目からは僕とTさんは仲が悪いだとか、このままでいいのかと心配する後輩もいた。
実際、僕も悩んでいたが、彼女は日増しに強く明るくなってるのも感じていた。
反面、そのように振舞ってるのかもしれないとも思っていた。
公演前日、最終リハで、僕はそれまで練習では「泣かないといけない場面」で泣けなかったが、初めて自然に泣けた。
その瞬間にこの劇が完成したのだと、自分の中で思った。
最終日の公演が終わり、都心近郊の安旅館で打ち上げになった。
卒業生も手伝った後輩や先輩も集まって、すべてを吐き出して宴会は盛り上がった。
それまでのことや劇への批評やこれで演劇とお別れするという想いなど、様々な感情がその喧騒の中にあった。
卒業生の一人でもあり、前年部長でもあったので、僕も集中的に飲まされ、発言させられた。
途中、したたか飲んでいたので、宿泊する部屋の一つに逃げ込んだ。
薄明かりのその部屋にTさんがいた。
びっくりしたので「あ、ごめん」と言った気がする。
その後、次の言葉が出なかった。
「よく頑張ったな」とかねぎらいの言葉を言おうかと思ったが、言えなかった。
Tさんの顔は僕のすぐ前あった。
あれほど毎日練習していたお互いが、このように間近でいるのは初めてだった。
見つめ合ってるうちに、互いに涙が流れてるのが判った。
沈黙が怖くなって、確認するように「うまくいったよな」とだけ言った。
「うん」
小さい言葉が返ってきた。
「嫌ってるのだと思ってた。」と彼女は続けて言った。
そのまま二人の目が互いの姿を写すのが見えるほどに迫ったとき、口吻を交わしていた。
彼女の実力は認めていたが、恋愛感情は互いにはなかったと思う。
それは、目標を達成した同志が、互いを讃えあう握手のようなものだったのかもしれない。
今ではそれがどのくらいの時間か、どのような感触だったかも曖昧だ。
後輩のO君が「せんぱ~い、こんなところでなにしてんですか。主役がいないと駄目ですよ。」と部屋に入ってきて、緊張感のある濃密な時間は終わった。
その後は、Tさんと話す機会はなかった。
卒業後も会うことも、話すこともなかった。
互いに言い足りないことを持ったまま、何年も過ぎて行った。
一度だけ、10年位あとの同窓会で会った事がある。
懐かしさに、笑いながら仲間と一緒に冗談を言って言葉を少し交わしただけだった。
男女の間でも、友情のような、共感し合う感情を持ち合うことはあるのだと思う。
あの瞬間で、互いは理解し、和解も出来たのだと思う。
あくまでも僕の勝手な解釈だが。