逝きし世の面影 | バベルの図書館

逝きし世の面影

逝きし世の面影 (平凡社ライブラリー)/渡辺 京二



「人にやさしい世界とは何か」

NHKの坂の上の雲のドラマ化や大河ドラマでにわかに明治ブームですが、今回は明治の文明開化によって”滅んだ”江戸文明”についての作品を紹介します。


この本は幕末に日本を訪れた外国人の感想記のみをベースに、当時の日本の文化・情緒を綴った大作です。この時代日本を訪れた外国人の中には、江戸末期の日本の自然や生活、人々の所作に感動し、それが文明開化・資本主義によって失われていく様を哀惜をもって記した人達がいました。


彼らは日本の港や街道、農村の風景のささやかで整然とした美しさに感動し、日本人の礼儀正しさや温厚さ、日々の生活用品の一つにまで行き届いた気配りや機能美に感銘を受けたことを記しています。日本には貧乏はあるが貧困や悲惨はなく、絵のような社会に見えたとまで感じた人もいたようです。


著者はこれらの感想に対して批評や批判を加える事無く、ただ整然と紹介する事で、こうした江戸というユニークで人にやさしい文明が文明開化によって断絶され、受け継がれることなく失われていく事の意味を問いかけようと試みているようです。


一方で、この時代には飢饉、災害、差別、暴力といった暗い側面も多々あったことは事実です。そうした点から、この本は偏った内容である事も否めません。(そうした批判はよく聞きます)。ですが外国人達が見た逝きし世の日本の姿は、単純な日本礼賛・回顧主義を越え、足るを知る事、便利な事がイコール幸せではないという示唆を与えてくれます。


私は欲望を否定しませんし、むしろ消費は大好きですが、行き過ぎれば歴史が物語るように必ずはじけます。一方欲望は進歩を促しますし、進化せよというのは抑える事の出来ない人の魂の声でもあります。


仏陀に中道の悟りという言葉がありますが、結局バランスという事なのかもしれません。ですが時折この本を読み返す事で、現代に対する問いかけや、大切なものが何であるかを考えさせてくれる貴重な労作です


難易度 ★★★★☆
インパクト ★★★☆☆
泣ける度 ★★☆☆☆
笑える度 ★★☆☆☆
怖い度 ★★☆☆☆
考えさせられる度 ★★★★☆
推定読了時間 10時間