黒死館殺人事件 | バベルの図書館

黒死館殺人事件

黒死館殺人事件 (河出文庫)/小栗 虫太郎

「知識の奈落に落ちていく、文学界のレジェンド 」

「ボスフォラス以東に唯一つしかない豪壮を極めたケルト・ルネサンス様式の城館(シャトウ)」


出だしから読者を圧倒する怪しさで迫るこの小説は、”ドグラ・マグラ”、”虚無への供物”と共に「日本三大奇書」の一つに数えられる金字塔的作品です。


怪しい洋館、怪しい住人、怪しいからくり人形、怪しい探偵と、最初から最後の一文字まで怪しさのみで埋め尽くされており昭和初期ミステリーの雰囲気十分な内容ですが、この小説を伝説たらしめたのは、読者を完全に無視しているともいえるペダントリー(衒学趣味)とエンサイクロペディックな知識の洪水です。


とにかく単語がわかりません。私も知識には多少自負を持っているつもりでしたが、この作品の前では赤子も同然でした。前後の脈絡、整合性も関係なく突然主人公が語り出す長台詞は、あらすじがどうなっていたのか、今何が起こっているのかも見失わせます。何故殺人と天王星の周期が関係あるのか未だに良くわかりません。


占星術・宗教学・物理学・医学・薬学・紋章学・心理学と全方位から虚実入り混じった単語が機関銃のように浴びせられ、殴られすぎると気持ちよくなってくるボクサーではないですが、何か幻惑されて変にうっとりした気分にすらなってきます。


冷静に読めば途中で犯人が分かることや、状況や動機の必然性・整合性の無さから、ミステリーとして破綻しているという批判を良く聞きますが、この本はそうした事を超越してしまっているように思います。


私はあえて、推理小説界やミステリー界ではなく、「文学界の」レジェンドと評してました。なぜならこの本はどのジャンルの枠もはみ出した「黒死館」というジャンルを生み出したと言えるためです。そして後にも先にもこのジャンルには1冊しか存在し得ない、そうした意味でも伝説の奇書と呼ぶに相応しい作品です。


難易度 ★★★★★
インパクト ★★★★☆
泣ける度 ★★☆☆☆
笑える度 ★★☆☆☆
怖い度 ★★★☆☆
考えさせられる度 ★★★★☆
推定読了時間 12時間