ペンギンの憂鬱 | バベルの図書館

ペンギンの憂鬱

アンドレイ・クルコフ, 沼野 恭子
ペンギンの憂鬱

「物言わぬ友人なのか、冷たい第三者なのか。ペンギンの瞳は多くを語る」



私はペンギン好きなため、「売れない作家がペンギンと暮らす」という設定のこの作品に思わず飛びついてしまいました。印象的な装丁も、この不思議な浮遊感に満ちた小説に非常にマッチしていて、手に取らずにはいられなくなりました。


舞台はソ連崩壊後のウクライナ。売れない小説家の主人公ヴィクトルは、憂鬱症のペンギンと暮らしながら、まだ生きている有名人の追悼記事を書くという新しい仕事にありつきます。生活のため、割の良いこの仕事をなんとなく続けながら、やがて友人の娘を引き取る事になり3人の擬似家族としての生活が始まります。


彼らを繋ぐ確かな物は何も無いにも関わらず、不思議な調和と平穏が生活に訪れます。ですがやがて追悼記事を書いた人が本当に死んでいくという事件が発生し、物語は暗く不安定な結末へと繋がっていきます。


歴史に翻弄され続けたウクライナという土地において、社会、政治、権力というものは自分を守ってくれる物ではなく、不意に困難を強いる物と思わざるを得ないのかもしれません。この小説が不条理な背景にはこうした現実の社会情勢がある事は事実でしょう。


そして、そうした外界の変化に抗う力の無い者達は、動物園のペンギンのようにただじっと空を見つめながら時が過ぎるのを待つしか無く、確かな物など何もない、本質など幻想であると思うことが今を生きる正しいスタンスなのだとこの小説は訴えているように思います。これが読後の最初の印象でした。


ですが、それだけではどうにも釈然としませんでした。ペンギンが象徴するものは果たしてそれだけでしょうか?罪無き少年のようにも、暗い過去があるようにも見えるペンギンの黒い瞳の奥に、果たして主人公は何を見たのでしょうか?


「本当は希望を持ちたいんだ」。もし彼がそう言ってくれるなら、少し救われた気持ちになれるような気がしました。


難易度 ★★☆☆☆
インパクト ★★★☆☆
泣ける度 ★★☆☆☆
笑える度 ★★☆☆☆
怖い度 ★★★☆☆
考えさせられる度 ★★★★☆
推定読了時間 6時間