文明の衝突 | バベルの図書館

文明の衝突

サミュエル・P. ハンチントン, Samuel P. Huntington, 鈴木 主税
文明の衝突

「欧米とイスラムの関係に限って言えば、まさに予言の書」


フランスでの移民の暴動や、最近のムハンマド風刺画問題を見ていると、著者が歴史を操作しているのではとすら思いたくなるほどの大局観と、近未来感を見せ付けられる大作です。


欧米にとってイスラム社会というのは、十字軍の時代から相容れない文明社会であり、それを強引に粘り強く欧化しようとしながらもうまくいかず、そうした歴史的背景や増加する移民(特に人口増加率が最も大きいイスラム教徒)に対する不信感を抱く欧米。


一方でイスラム的な物を認めようとしない欧米に根底に常に敵意を抱いているイスラム。


この二つの文明が心から和解する事は不可能に近く、やがてその衝突が健在化していくであろうと論じる本策の展開力は、圧倒的な説得力を放ち、しかもイラク戦争から現在に至る道程が、この本の正当性をまさに証明してしまっているという点に驚異的な物を感じてしまいます。


ただ日本やアジアに関する記述については若干疑問を感じる部分があるのも事実です。本作では八大文明というものを定義し、その中に日本文明がユニークな(孤立した?)文明として描かれています。そして日本は歴史的にもバランスをとりながら長いものに巻かれる傾向があり、そうした日本の文明的メンタリティーが、今後米国離れを加速させ台頭する中国に対して緩やかに追従するだろうというのが著者の見解です。


ですが実際には、日本は益々米国寄りになっていますし、日本人が全体的に右傾向化している点や、親中的なものと一方で漠然とした不信感といった感情を持っている点については著者の洞察は及んでいないようです。


また日本はインドと距離を縮めていくという考えがこの本でも述べられています。昔「カミングウォーウィズジャパン」という本でも同様の事が書かれていましたが、どうもアメリカの歴史経済学者はこの説が好きなようです。


確かにインドと日本は歴史的にも現在においても対立する要素が少ないのは事実ですが、一方で接近する動機もそれほどありません。アメリカや中国のように覇権主義を抱いている国からすれば自然な動きなのかもしれませんが、このあたりも日本人のまったり感が理解されていないように感じます。


とはいえ、その他の点については今におけるアメリカ的世界観を把握するのに十分な内容です。文章が簡潔な点も見事だと思います。


それにしても日本でこうした本が書かれないのは何故なのでしょう? 平和ボケとよく言われますが、世界に意思を発信するという姿勢が(私も含め)もっと必要なのでは、と考えさせられました。


難易度 ★★★☆☆
インパクト ★★★☆☆
泣ける度 ★☆☆☆☆
笑える度 ★☆☆☆☆
怖い度 ★☆☆☆☆
考えさせられる度 ★★★★☆
推定読了時間 7時間