墨東綺譚 | バベルの図書館

墨東綺譚

永井 荷風
墨東綺譚

「変りゆく物への哀哭。荷風流の哀哭」


今までダラダラと節操無く惰読してきた私ですが、このブログを始めてから本に対して少し真剣に向き合うようになってきた気がします。


いろいろな作品に思いを巡らすうちに、ふと「美しい文章」とはどういものだろう、という事を思い立ちました。そこで今回は永井荷風の墨東綺譚です。日本文学の中で美しい文章と言えば私はまずこの人を思いつきます。


変り行く東京。情を通わせた娼婦。少しずつだが確実に変っていく町や人の心。自分の力では留める事も変えることもできないこうした物事の理を、淡々とした日常生活の中にひっそりと忍ばせながら作品は進んでいきます。


芸術家と言う者は常に新しい事にチャレンジしているようですが、その目的は決して変る事の無い何かを探しているかのようです。ですが結局それは見つからず哀しみが募っていく。そうした思いを荷風は実にしっとりと、まるで極上の蒸留酒のような文体で語っていきます。


かつで日本文学研究の大家ドナルドキーン氏が荷風について語っていました。「金と女にだらしなく、いつもチャックが開いた 疲れた老人。それなのに、描く言葉は何故こんなにも美しいのだろう」と。


最も醜い者が最も美しい物を生み出す事がある。そしてその裏にある哀哭という感情。芸術と人の営みの奥深さを考えさせられる一冊でした。


難易度 ★★☆☆☆
インパクト ★★★☆☆
泣ける度 ★★★☆☆
笑える度 ★★☆☆☆
怖い度 ★☆☆☆☆
考えさせられる度 ★★★★☆
推定読了時間 5時間