母がケータイを使うようになったのは、認知症と診断されてから。
必死に練習して、着信だけとれるようになったが、耳が遠いので、バッグに入れると、着信音が聞こえない。
ネットで、色々なポーチを買ってみたが、どれも使えない。
キーッ!となったが、なげだすわけにはいかない。
ケータイは、母の命綱だから。
私は、毛糸でポーチを編むことを思いついた。
昔、母が着ていて、ほどいて、毛糸玉になっていたものがあったから。
何とか、ケータイにジャストサイズの、ポーチを編みあげた。
母のお古の毛糸は、とてもかわいいピンク。
首から下げる、ストラップの所に、白とブルーのグラデーションの毛糸を
100円ショップで買って、一緒に編みこんだ。
翌日、母に渡すと、たいそう気に入り、寝る時も離さない。
お散歩に行っても、連絡がつくようになって、一安心。
本当に、手編みのポーチは最後の手段だったから、泣きそうになった。
でも考えてみれば、私は不器用で、くさり編みと細編み、長編みしかできない。
我ながら、編めたのが不思議だ。
あの時私は、ゾーンに入ったのではないだろうか。
ゾーンって、よくスポーツをやってる時に、入った、とか聞く。
私は、昔、バレーボールの試合の時に、ボールがスローモーションで見えた。
いつもの自分じゃない、力が出た、と、思った事がある。
ポーチを編んだ時も、入ったんだと思う。
今、ポーチが汚れてきたので、別のポーチを編もうかと思ったが
どうやって編んだのか、思い出せない。
しかたがない、丁寧に洗濯しよう。
でも、人間って不思議。
切羽詰まっても、どこかに突破口があるのだ。と、思える。