先月、セルゲイ・ポルーニンのドキュメンタリーを上映するというので、子供をつれて見てきました。もうかなり日がたってしまったので記憶も薄れてきているんですけれど、思い出せるところだけでも感想を。
セルゲイはウクライナの小さな町に生まれて、小さい頃に体操を始め、その後バレエを習い始めたようです。お母さんがセルゲイの才能に気がついてキエフの芸術学校(?)にやるのが一番いいと思ったようですが、一家の収入では足りず、セルゲイを学校に行かせるためにお父さんがポルトガルに出稼ぎに、おばあちゃんがギリシャに出稼ぎに出かけ、お母さんだけと一緒に暮らすようになります。
その後、13歳の時に、ロイヤルバレエ学校のオーディションに行くのですが、その時セルゲイは英語を一言も話せなかったそうです。お母さんもビザの関係でイギリスに長くとどまることができずにセルゲイは寮生活をはじめます。学校での様子がビデオでふんだんに紹介されていましたが、セルゲイはロイヤルのクラスメイトと較べても桁違いの才能があったことを示すものばかりです。他の生徒が2,3回ぐらいピルエットしているところでセルゲイは8回ぐらいまわっていたりする映像も出てきます(と思います・・・。ちょっと記憶が・・・)確かに人の2倍は練習していたようですが、段違いです。
その後順調にロイヤルバレエ団に入団、あっという間にソリスト、プリンシパルと昇進して、19歳にしてロイヤルでもっとも若いプリンシパルになりますが、その後22歳の時に電撃的にロイヤルを退団します。(その時BBCでニュースになっていたのをよく覚えています。)バレエ団では自分の芸術性がうまく表現できないというようなことを言っていたような記憶があります。 その後ロシアにわたり、テレビ番組に出たりしながら徐々にロシアでの自分の評判を確立していきますが、やはり場所を変えてもやっていることはロイヤル時代とさほど変わらず、ということでバレエから離れる決心をし、これが最後と思って作ったビデオ[Take me to church]が世界的な評判となり、ロイヤルのプリンシパル、ナタリア・オシポヴァと付き合い始めたのも手伝って、ふたたびイギリスのダンス界に戻ってきた、という経歴です。(今回のドキュメンタリーでは大評判になったビデオのところぐらいまでです。)
セルゲイがロイヤルにいる間に、両親の離婚がありました。セルゲイのためにとヨーロッパのあちこちに散らばっていた家族のメンバーだったので、距離が離れると気持ちがすれ違うことも多かったのではないでしょうか。両親の離婚でセルゲイは心の拠り所を失ってしまったのかもしれません。ただ、それが直接にロイヤル退団へとつながったと言う風には見えませんでした。セルゲイがバレエは自分でやりたいと思ったと言うより、母親にやらされたと言うとおり、彼にとってはバレエで成功することがすなわち、貧しい暮らしからの脱却、名声、富につながるとの思いで一生懸命頑張ったのではないでしょうか。でもプリンシパルになってみても、思っていたような富もそこまでもの名声も得られなかった(これはどこかのインタビューでロイヤルのプリンシパルになってもひとりで住むアパートさえ買えないようなことを言っていたように思います)。もともとバレエがすごく好きだったわけではないんだし、こんなにつらい思いをして得られる対価がそれだけなんだったら他の道を探してもいいのではないかと思ったように見えます。
全編を通して差し込まれているセルゲイのダンスシーンはどれも圧巻で、それだけでもバレエが好きな人には楽しめると思います。ただ本人のバレエに対する気持ちが愛憎半ばのようで見ていてすこしせつなくなりました。冒頭に出てくる一人で踊っているシーンなどはニジンスキーの舞台で見たシーンを思い出させました。狂気の迫る中で踊っているシーンで周りの人は眉をひそめて見ているというようなシーンだったと思います。セルゲイが子供のときにダンスを習い始めたスタジオの発表会を訪れ、そこで昔初めてダンスを教えてくれた先生を前に、ダンスを披露する場面がありましたが、その時の先生に対する彼の表情には純粋にダンスを楽しんでいた子供の時の面影が見えるようで涙が出てきそうでした。
本人が自覚しているのかいないのか、圧倒的な才能を持ちつつ、それを自分でうまくコントロールする術を学んでいない若いダンサーがこれから自分の満足のいく・そして周りを納得させられるキャリアを積んでいってほしいなあとしみじみ感じました。