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すべての新型コロナ変異株に対応?「口内に噴霧」の非mRNA型予防薬、商品化へ

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Forbes JAPAN
JUAN GAERTNER/SCIENCE PHOTO LIBRARY/GettyImages

世界でもっとも早くワクチン接種を実施したイスラエルからの、「感染を防ぐ効果が6カ月で約60%、7カ月後には40%にまで低下した」という報告が世界を不安に陥れている。また同国では、入院患者の60%がワクチン接種済みであるというレポートもある。

その結果、同国ではすでに3回目の接種をスタートした。

しかし、
「同一の抗原で繰り返し免疫化を行った場合、動物実験では5回目から死亡する例が増加。7~8回繰り返すと半分近くが死亡するという動物での研究結果もある」とも東京理科大学名誉教授、村上康文氏は話す。

生活習慣以外には「ワクチン」しか予防手段がない現在、複数の変異株に対して有効と考えられる「murak抗体(ムラック抗体)」が開発され、近く製品化される可能性があることがわかった。

この「ムラック抗体」は、前出の東京理科大学名誉教授、村上康文氏(東京大学薬学系研究科 薬学専攻修了・薬学博士、オーダーメードメディカルリサーチ代表取締役)が率いる研究チームとDDサプライ株式会社が共同で開発した抗体だ。

村上教授のチームは昨年、アルフレッサ ファーマと共同で新型コロナ診断キットの開発に着手、PCR検査に代わる新型コロナウイルス抗原迅速検査キットの作成に成功している。このキットは今年3月に厚労省の承認を得て同社から販売開始された。この検査キットによって、従来15分間かかっていた判定が5分間に短縮されたことは大きく報道された。

現在、全世界的に感染拡大しているデルタ株では、感染者が生産するウイルスの量は従来型より格段に多いため(従来型の1000倍、これまでのPCR法から抗原迅速診断法へと移行していく可能性が高い。実際、米国は2022年からPCRによる診断を取りやめることも報道されている。

以下、9月9日に行われたメディア説明会での、村上教授による説明を紹介する。なお、「3回目以降の追加接種」について、村上教授に寄稿をいただいた。記事は関連記事1記事目を参照。

■デルタ「前」と「後」で世界は変わった

デルタ株出現までは確かに、ワクチンがパンデミック収束の切り札であるとされてきました。しかし、『デルタ株』の出現で、状況は変わってしまいました。

デルタ株の感染力は1人から8人にうつる、と強力で、しかも接種者でも非接種者でも、ウイルス感染を広げる能力は同等、という研究結果があります。

突然変異はランダムに生じますが、ワクチン接種が進めば、ワクチンに抵抗性のある変異ウイルスが「選択」されるようになります。

ウイルスはDNA型とRNA型に大別されますが、コロナウイルスはRNA型ウイルスです。DNA型ウイルスには、増殖の過程で生じたDNA複製のミスを修正する機構が備わっているので、RNAウイルスと比較すると遺伝子の変異が少ないといえます。

変異株を追いかけるようにワクチンを投与しても堂々めぐり
時間の経過とともに感染力が高い変異型が選択されますが、ワクチン接種が進むと、ワクチン回避効果の高い変異型が増えていきます。感染規模が小さければ変異型ウイルスに対応したワクチンの開発が追いつきますが、既に1億人以上に拡大、実際には数億人規模まで拡大している可能性も高く、多数の変異株が世界中で出現する可能性が大です。


収束させるには、実際の(生の)ウイルスでの感染が拡大し集団免疫に到達するか、特効薬の普及が必須です。

変異確率の高いRNA型ウイルスで起きたパンデミックをワクチンで収束させることは、困難であって、変異株を追いかけるようにワクチンを投与しても堂々めぐりとなり、収束は望めないという前提で、新しい抗体の開発に取り組みました。すでに細胞レベルの実験で高い中和活性を確認しており、今後、国際的臨床試験を開始する予定です。

われわれのチームで今回開発したのは、約7割の配列をヒト抗体に置き換えたマウス由来の治療注射薬、抗ACE2モノクローナル抗体と、口腔内などに噴霧して使用する予防薬、抗スパイクタンパク質ニワトリ抗体です。

ウイルスの感染は、スパイクタンパク質(ウイルス側の因子)とACE2タンパク質が結合したときに起きます。感染を防ぐには、ACE2タンパク質とスパイクタンパク質の二つがターゲットになります。

ACE2タンパク質は、新型コロナウイルスが感染する際の受容体、スパイクタンパク質は、ウイルス表面のトゲトゲした突起の部分です。

ACE2は宿主細胞(ウイルスに感染するヒトの細胞)側の因子なので、その抗体は、すべての変異ウイルスの侵入を阻害できます。しかし、ACE2タンパク質に結合してウイルスの侵入を防ぐ抗体の作成は非常に難しく、今回が初めてとなります。

われわれは細胞膜上にある、「ACE2と、コロナウイルスのスパイクタンパク質との結合を阻害」する抗体を選択取得しました。ACE2側の結合部位は、ACE2の活性中心から独立して存在していますが、今回、その酵素活性を阻害しない抗体を選択取得することに成功したのです。

なぜ、新型コロナウイルスワクチンは副反応が強いか
ちなみに、従来のワクチンは毒性を排除した抗原を使用してきましたが、新型コロナワクチンで
抗原として用いているスパイクタンパク質そのものが「毒素」であるという論文が既に発表されています。そのためにワクチン接種後に強い副反応がひきおこされている可能性があります。

このような「スパイクタンパク質の全体」を抗原とすることにより、ワクチン接種者の中には
抗体依存的感染増強(ADE)により重症化するという人が出てくる可能性が考えられます。実際、RNA型ウイルスの「デング熱」では、フィリピンで、200人以上の子供がワクチン接種後、ADEで死亡するという悲劇が起きています。

逆に受容体結合部位(RBD)のみ、いわば「はじっこだけ」を抗原としたワクチン、すなわち「組み換えタンパク質型」のワクチンは副反応が弱く、ADEがおきる可能性が低いものと考えられます。
このようなワクチンは安全性が高いため、今後の主流になる可能性が高いと考えます。

■他の取り組みもあるが──

他企業でも抗体医薬の研究開発を進めていますが、ヒトから採取した遺伝子を実用化しようとしていることが多く、おそらく薬効が低い上、大量に接種する必要があります。そうなれば、1人あたりのコストが莫大にかかる可能性があるでしょう。また、有機合成で得られる薬は1万分の1くらいの成功確率であり、リポジショニング(他疾患で使われていたものを流用)のアプローチでもあるので、成功確率は低いとも予想されます。

[訂正 9/11 10:50]冒頭3パラグラフ目、同一の抗原で繰り返し免疫化を行う件に関して、東京理科大学名誉教授・村上康文氏の発言とわかるように表現を変更いたしました。

村上康文◎東京理科大学名誉教授。東京大学薬学系研究科薬学専攻。東京大学大学院修了後、米国・ニューヨークスローンケタリング記念癌研究センターにて、3種のウイルス(SV40, アデノウイルス、ポリオーマウイルス)の研究に従事。癌ウイルス2種類の宿主域がDNA複製プロセスにあることを世界で初めて証明する。アルバータアインシュタイン医科大学(ニューヨーク)にてモノクローナル抗体作製法を習得。

Forbes JAPAN 編集部

 

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FORBES JAPAN

 

新型コロナウイルスのワクチンに関して、ブースター接種(2回接種を済ませた人へのさらなる追加接種)に関する議論がされているが、日本では現実的な話としてはあがっていない。その現状下、われわれにとっての一般的な選択肢は、まず、国が推奨しているように2回の接種を行うことだろう。

非mRNA型予防薬「murak抗体(ムラック抗体)」の開発者、東京理科大学名誉教授 村上康文氏は、「同一の抗原で繰り返し免疫化を行った場合、5回目から死亡する例が激増。7~8回繰り返すと半分近くが死亡するという動物での研究結果もある」とも話すがForbes JAPANでは上記(「まず、国が推奨しているように2回の接種を行うことが一般的な選択肢である」)を前提に、村上康文氏に、今後についての提言を寄稿していただいた
 
9月9日に行った研究成果報告会に関する記事は多くの注目を集め、たくさんのコメントが寄せられています。それらのコメントを受け、今後のワクチン戦略についての提言をまとめました。現在COVID19の患者さんたちの命を救うために尽力されている医療関係者に感謝と敬意の念を表すとともに、以下によって、パンデミックの収束をみなさんとともに考え、パンデミックに対する不安を除ければ幸いです。
 

パンデミック収束に、ワクチンは重要な役割を担う


まず、新型コロナウイルスのパンデミックの収束のためにワクチンは大変重要な役割を担っています。

ただ、ウイルスがDNA型であれば、ワクチン接種によってすでにパンデミックは収束しているでしょうが、DNA型ウイルスと比べて突然変異の確率が高いSARS-CoV-2においては、状況が異なることは科学的な事実です。さまざまな変異株の出現により事態は複雑なものになり、パンデミックの収束が見通せなくなりつつあります。このような時こそ、科学的な視点で全体を俯瞰し正しい方向に進んでいくことが重要であると考えます。

 

ヒトでのワクチン接種は間隔をあけることが多いため、複数回接種でのリスクは動物よりも低い


今回の新型コロナウイルスのmRNA型ワクチンは非常に高いレベルの抗体誘導能を持っており、その効果は時間の経過ともに低下していくものの、高齢者や基礎疾患を持つ方々の重症化リスクや死亡リスクを下げる意味では大きな貢献をしたものと思います。また「2回接種」では、以下で述べているような多数回接種で考えられるリスクを心配する必要はない、と考えるべきでしょう。

そして、追加免疫に関する実験についてですが、高い活性を持つ抗体作製を目的とした動物での実験では、その間隔を詰めて行います。一方で、ヒトでのワクチン接種においては間隔をあけることが多いため、動物でのケースよりリスクは低くなります
 

「ブースター接種」には慎重なアプローチを


一方で3回目以降の「ブースター接種」についてですが、とくに慎重に進めていくべきであると考える研究者は、私を含め、少なくありません。

すべての新型コロナ変異株に対応?『口内に噴霧』の非mRNA型予防薬、商品化へ」でも述べたように、現状認可され、世界で使われているワクチンはすべてウイルスの(毒性のある)スパイクタンパクの全長を使ったワクチンです。

これを、5回とか6回とか7回、人体に接種することにはリスクが伴う可能性があることを、ワクチン開発者は認識すべきでしょう。またこのことが、われわれが今回、「口内噴霧型」、非mRNA予防薬開発に着手したそもそもの端緒でもあります。
 

COVID-19の致死率はSARSやMERSと比べて格段に低いため、慎重になってよい


新型コロナウイルスの致死率が高いのであれば、さまざまなステップを「省略」することも許されるのかもしれませんが、COVID-19の致死率は、SARSやMERSと比べると格段に低く、治療プロトコールが進歩したことにより致死率はさらに低下してきています。我が国では高齢者の接種や基礎疾患を持つ人への接種はほぼ完了しています。

50代以下の基礎疾患を持つ方への接種が完了すれば、COVID-19のハイリスクグループへの接種は完了したことになります。ハイリスクグループへの接種が完了しつつある現在、5、6回といった、日本ではまだまだ現実的でない追加接種については、以上のように慎重に進めていくことが必要であると考えます。

ちなみに今後のわれわれ研究者たちの戦略としては、ステップを省略することなく、以下の姿勢を取ることが重要なのではないかとも思います。

1)スパイクタンパク質そのものが様々な症状を引き起こしていることは米国のソーク研究所が既に著名な学術誌に論文発表しています(*1)。
そのため、追加接種に用いる抗原はスパイクタンパク質の全長を用いずRBDの部分のみとする。このことは抗体依存的感染増強のリスクを下げるためにも重要です。

2)接種するスパイクタンパク質の量の調整が可能である組み換えタンパク質型のワクチンを使用すること。組み換えタンパク質による抗体作製は広く行われており、非常に多くの知見が集積されているからです。

3)多くの査読済みの論文において、スパイクタンパク質の受容体結合部位(RBD)を用いて免疫することにより十分な中和活性をもつ抗体が誘導されることが、既に明らかになっています(*2)。よって、できれば従来型のコロナウイルスのスパイクタンパク質のRBD部分ではなく、現在世界で感染拡大しているデルタ型などのRBD部分を抗原として用いること。


【参考文献】
*1 SARS-CoV-2 Spike Protein Impairs Endothelial Function via Downregulation of ACE 2、Yuyang Leiらによる査読済み論文
Circulation Research Volume 128, Issue 9, 30 April 2021; Pages 1323-1326