人間(動物)には良質な「睡眠」が必要だ! | にゃんころりんのらくがき

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がんにならないための良質な「ノンレム睡眠」で、「成長ホルモン」を出そう

南雲 吉則

2018/11/27

©iStock.com

 

がんにならないためには、睡眠を取ることが大事。だが長時間眠ればいいわけでもない。大事なことは量よりも質。では良質の睡眠とは一体どんなものだろう。

 

◆◆◆

傷ついた細胞の修復につながる行為とは

 生活習慣の悪化などによって、私たちの体の粘膜には傷ができていきます。その傷は周囲の細胞が分裂することで修復されるものの、細胞の分裂機能が限界に達すると、その代わりに登場して傷を塞ごうとするのががん細胞です。

 

 傷ついた細胞を放置するとがん細胞ができやすくなる。言い換えれば、放置せず、常に修復しておけば、がんになりにくい体を作ることが可能になるのです。

 

 実は私たちは、無意識のうちに、傷ついた細胞の修復につながる行為を、毎日行っています。それは「睡眠」です。

 

 健康的な睡眠について話をすると、「十分に睡眠時間を取っているから大丈夫」という人がいます。しかし、睡眠で大事なのは、量ではなく質。夜更かしをした代わりに翌日昼頃まで眠ったとしても、それは良質な睡眠とはいえません。

 

成長ホルモンは大人にも出る

 皆さんも言葉は聞いたことがあると思いますが、睡眠には「レム睡眠」「ノンレム睡眠」の2つのパターンがあります。寝入りばなは一気に深い眠りに入ります。この間、脳はスイッチもオフになり、夢も見ずに完全な休息状態に入ります。この状態がノンレム睡眠です。

 

 この時、脳からは「成長ホルモン」が出ます。昔から「寝る子は育つ」と言いますが、これはノンレム睡眠の最中に出る成長ホルモンによって身長が伸びることを指しているのです。

 

 ならばこれ以上成長する必要のない大人には、成長ホルモンは出ないのでしょうか。いえ、ちゃんと出ています。大人の成長ホルモンは、身長を伸ばすのではなく、脂肪を燃焼し、筋肉を作る働きをしているのです。

 

 成長ホルモンの役割を考えるとき、野生動物におけるその仕組みを見ていくと理解しやすいでしょう。

 

 動物も眠っている間に成長ホルモンが出ます。中でも最もたくさん出るのは普段の眠りではなく、冬眠中です。地球上の生物の歴史は、「飢えと寒さとの戦い」でした。エサが少なく寒い冬の間は、洞穴でエネルギー消費を最小限にして、体温を維持して体内の重要な臓器を保温しています。このとき働いているのが成長ホルモンです。

 

 成長ホルモンは深い睡眠のノンレム睡眠のとき、発熱物質である内臓脂肪を燃焼して体温を高めます。この仕組みは、寒さに打ち勝つために動物が獲得した「進化」のひとつでもあるのです。

 

寝入りばなに寝汗をかく理由

 人間も寝入りばなに寝汗をかきます。これこそが成長ホルモンによって体温が上がっている証拠なのです。

 

 もうひとつ、冬眠中の動物は筋肉を使うことはありません。しかし、そのままでは春に目覚めた時には全身の筋肉が弱ってしまい、そこを敵に襲われたら非常に危険です。つまり、眠っている間に筋肉を鍛えておく必要があるのですが、この「睡眠中の筋肉強化」を担っているのが、成長ホルモンなのです。

 

 成長ホルモンのタンパク同化作用により、ただ眠っているだけで動物の筋肉は強化され、たくましくなっていきます。

 

 同じことは、ノンレム睡眠をとる人間の体内でも起きています。私たち人間の体の中でも、睡眠によって筋肉は強化され続けているのです。

 

 それだけではありません。ノンレム睡眠中の成長ホルモンには、様々な機能があります。そのひとつが「美肌作用」です。

 

良質の睡眠が美肌を作る

 私たちは昼間の活動中、知らず知らずのうちに皮膚を傷めています。特に大きなダメージを及ぼすのが紫外線ですが、肌には紫外線の攻撃から自分の身を守るための防御機構があります。「メラニン色素」です。

 

 多くの人はこのメラニン色素のことを「シミの元凶」といった悪いイメージで捉えているようですが、実際はそうではありません。紫外線の攻撃を防ぎ、肌の健康を守るために現れる、正義の味方なのです。

 

 ただ、昼間は活躍するメラニン色素も、夜になると必要性が薄れます。そのまま皮膚に残っていると、本当にシミの元凶になってしまいかねません。

 

 そこで、昼間活躍したメラニン色素を、夜、眠っている間に回収する必要が出てくるのですが、それを担当しているのが成長ホルモンなのです。夜、良質の睡眠を取ることは、実は美肌にとっても大切なのです。

 

 もちろん、日中に傷ができるのは肌ばかりではありません。体の内側、特に食べ物が通過する消化管だって様々な刺激を受けて、傷ができていきます。

 

 しかし、ここでもやはり成長ホルモンが作用して、粘膜の傷を修復する働きを見せてくれます。冒頭でも触れた通り、細胞の修復機能に限界が生じるとがん細胞が現れて、代わりにこの作業に就きます。しかし、成長ホルモンが細胞修復作業をしてくれれば、がん細胞の出現を未然に防ぐことにつながります。早い話が、成長ホルモンには抗がん作用があるということになるのです。良質な睡眠はがん予防の上で非常に重要だということが、これでおわかりいただけたでしょうか。

 

 では、ノンレム睡眠の後に訪れるレム睡眠にはどんな役割があるのでしょうか。

 

レム睡眠の間に記憶を整理

 レム睡眠の間は、脳は休んでいません。夢を見て、寝返りを打ち、瞼の下では眼球がグルグル回っている。人によってはニヤニヤ笑っていることもあります。

 

 この時、脳は体より一足先に起きて活動を始めています。どんな活動かというと「記憶の整理」です。

 

 誰にでも「忘れてしまいたいこと」のひとつやふたつはあるものです。そんな嫌な記憶がいつまでも頭の中を支配していると、やがて心と体のバランスが崩れてうつになってしまいます。そこで脳では、レム睡眠の間に記憶を整理するのです。

 

 記憶の整理は、パソコンの画面に並ぶアイコンをイメージするといいでしょう。不必要な記憶は「ゴミ箱」に入れられます。反対に当面必要な記憶は、すぐに思い出しやすいフォルダーに入れられます。

 

 この作業中、脳は過去の記憶を無作為にレビューします。これが「夢」です。夢にストーリー性がないのは、過去の記憶を脈絡なくつないでいるからなのです。

 

 必要のない記憶はゴミ箱に入れると書きましたが、完全に消去することはありません。すべての記憶は大脳の新皮質の奥深い部分にまとめられ、その人が死ぬまで保管され続けます。

 

 よく、昔好きだった音楽を聴いた途端、何十年も忘れていた過去の出来事を鮮明に思い出す、ということがあります。あるいは、ふと漂ってきた匂いをかいだ瞬間、子供の頃に経験した出来事がフラッシュバックとしてよみがえる、ということもあります。これらはその音楽や匂いがきっかけとなって、普段使わない新皮質の奥深くのフォルダーから、古い記憶が引っ張り出されてきたことによる現象なのです。

 

 このように、日々の睡眠は単に疲労を取るだけではなく、私たち人間が長く健康で、快適に生きていくために不可欠な作業が行われる重要な行為なのです。