2018年9月16日 / 10:06
コラム:トランプ大統領の危険な「アジアゲーム」
David A. Andelman
[10日 ロイター] - 米国のポンペオ国務長官とマティス国防長官は、9月初旬にインド亜大陸を東西に移動する中で、入り組んだ二段構えの外交戦術を駆使しなければならなかった。
「トランプ政権の高官は政権内部から(トランプ氏の)一部政策と最悪の意向を阻止するため、熱心に動いている」と暴露したニューヨーク・タイムズの仰天すべき匿名論説の執筆者ではないと、両長官とも言明せざるを得なかった両長官だったが、実際それどころではなかった。
トランプ大統領がインドのモディ首相のアクセントを揶揄したことによる不和も伝えられているが、それ以上に、米国の最も重要な友邦として、国境を挟んで長年対立するインドとパキスタンのどちらを選ぶべきかという非常に複雑な難題に直面していたからだ。
中国の影響力拡大とタリバン勢力に対する防壁として有効なのはどちらか、通商分野において最も信頼できるパートナーとなり得るのはどちらなのかの選択に迫られていた。
今回の訪問では、必ずしも幸先の良いスタートが切れなかった。トランプ大統領は1月、米国の軍事支援に対して「紛れもない嘘とごまかし」で応えていると、パキスタンを激しく非難した。アフガニスタンで米軍相手に執拗な戦いを続けているタリバン反政府勢力に、パキスタンが隠れ家と支援を提供し続けていると大統領は主張した。
これを受け、米議会はただちに5億ドル(約557億円)の対パキスタン援助を撤回。今月1日には国防総省がさらに3億ドルの軍事支援をキャンセルして、計8億ドル相当の支援が解消された。国防総省の広報担当者は、この動きは、米国の「南アジア戦略を支援するという点で、パキスタンから明確な行動が見られないため」と説明した。
だが、パキスタンでは8月にイムラン・カーン新首相が就任したことで、ポンペオ国務長官は関係修復を試みる意味があると考えた。
そこで最初の訪問地はイスラマバードとなった。クリケットのパキスタン代表としてワールドカップに出場した経験もある、トランプ大統領並みに自己顕示欲の強いパキスタンの新首相に会うためだ。
カーン新首相は、「フィールドに足を踏み入れたからには、自分が勝つつもりでいる。スポーツマンは、いつでも楽天的だ」と、ポンペオ長官とジョゼフ・ダンフォード統合参謀本部議長に語った。
だが冷厳な現実が待っていた。ポンペオ長官は、カーン新首相との会談が楽しかったと語る一方で、軍事支援再開までには「長い道のりがある」と述べたのである。
問題は、この短時間の表敬訪問のすぐ後で、ポンペオ長官がニューデリーに飛んだことだ。
ここでマティス国防長官と合流したポンペオ長官が、明らかにインドを優遇する姿勢を見せたことで、インドとパキスタンの対立激化の舞台が整ってしまった。もちろんこれによって、カーン新首相にとって国内調整の展望が明るくなったとは考えられない。
71年前に別々の国として誕生して以来、インドとパキスタンは約3200キロに及ぶ国境を挟み、非難の応酬を続けてきた。それぞれが相当数の核兵器を保有する現在、両国の対立はアジアにおける戦略的なバランスという面で重要な要素となっている。
ポンペオ、マティス両長官がインド滞在中に行った重要な動きは、交渉に20年を要した本格的な軍事通信協定だ。これにより、米軍が採用する軍用級の通信機器を使ってリアルタイムに暗号化データを交換するもので、米国が同協定を結んでいる国は30カ国未満だ。
この協定締結に時間がかかったのは、主にインドのさまざまな戦略的通信に米軍がアクセス可能になるのではないかというインド側の疑念が原因だった。
初の米国とインドの合同軍事演習が2019年にインド東岸で行われることも含め、こうした画期的な協定がこの時期に結ばれるのは決して偶然ではない。トランプ大統領は、パキスタンによるタリバン支援に対する痛烈な罵倒とともに、インドとしては大歓迎せざるを得ない一石を投じたのである。
インドのスワラージ外相は、協議後に行われた記者会見で、「インドはトランプ大統領の南アジア政策を支持する」と熱を込めて語った。 「トランプ大統領がパキスタンに対し越境的テロ行為を支援する政策を停止するよう求めたことに、わが国も共感する」
そして、わずかな誤解も避けるかのように、同外相は「パキスタンを拠点とするテロリズムの脅威は、インド、米国双方を同じように脅かしている」と言葉を加えた。
しかし、重要な問題が1つ未解決のまま残っている。インドはロシアとイランに対する米国の制裁を故意に無視しようとしているのだ。
インド当局者はロシアから先進的なS400防空システムを58億ドルで購入する予定であり、イランからの石油輸入も続けたいと考えている。地理的に近く価格も安いイラン産石油は、成長するインド経済におけるエネルギー需要の10%を担っている。
実際、仮にインドがロシアとの絶縁を求める米国の圧力に屈すれば、ロシアによる気前のいい支援先として、パキスタンが最も魅力的な候補として浮上し、かつてないほど両国関係が深まる可能性も否定できない。すでにロシアは素早く手をさしのべており、ロシア軍施設でパキスタン将校の訓練を行うことに同意している。また、ロシアはパキスタン内で総工費20億ドル規模の天然ガスパイプラインを建設しており、より魅力的な価格で天然ガスを供給している。
同時に、以前からパキスタンで強い存在感を示していた中国も、この隣国をいっそう引き寄せるよう最善を尽くしている。
中国の「一帯一路」インフラ構想の主要部分を占める「中国パキスタン経済回廊(CPEC)」は、2013年の開設以来、中国によるパキスタン向けの巨額融資が含まれている。それは、ポンペオ長官が「国際通貨基金(IMF)によるパキスタン支援が対中債務の返済に充てられてはならない」と釘を刺すレベルにまで至っている。
問題は、もちろん、トランプ大統領が露骨にインドを重視するせいで、パキスタンが隣国の中国とロシアに接近し続けることは避けられないと言う点だ。
トランプ大統領がパキスタンに期待しているのは、タリバンへの支援を抑制し、その戦闘力を十分低下させることで交渉のテーブルにつかざるを得ない状況に追い込み、それにより米軍のアフガニスタン撤退への道を開くことだ。
だが現実には、米国からの軍事支援8億ドルが国庫に再び流入することをカーン新首相がどれほど望んでいるとしても、国内に根付いたタリバンのネットワークを取り締まるよう、同国の強大な情報機関、軍統合情報部(ISI)を説得することは容易ではなかろう。タリバンは、過激は組織「イスラム国」と同様にインドに敵意を抱いている。
トランプ大統領は、インド亜大陸で独自路線を貫くことにより、トルーマン政権以来、歴代大統領が微妙なバランスを取ることで維持してきた、危なっかしい構造を自ら崩してしまいかねないことを認識しなければならない。
*筆者はニューヨーク・タイムズやCBSニュースの元特派員で、現在は米フォーダム大学ロースクールのナショナル・セキュリティセンターの客員教授。自著に「A Shattered Peace: Versailles 1919 and the Price We Pay Today(原題)」がある。
*本コラムは筆者の個人的見解に基づいて書かれています。(翻訳:エァクレーレン)
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インドとパキスタンだけでもややこしいのに中国も絡んで、タリバンだのイスラム国だの、その上、イラン・アフガニスタン、ロシアまで絡んだら、もう知らんわ好きにして状態?
アメリカも大変そう。。。
でも、イランとアフガニスタンは結びつきが強そうだし、パキスタンから西はシリアと一纏めにすればいいんじゃないですか?
もうすぐシリア、始まるんでしょ?気の毒に。。。
インドもチョロチョロしてないでこっち側に来ると腹を括ればいいのに?