2018.2.28(水) 古森 義久
中国人民解放軍の駐香港部隊を閲兵する習近平国家主席(2017年6月30日撮影、資料写真)。(c)AFP PHOTO / DALE DE LA REY〔AFPBB News〕
中国の対外戦略や軍事力増強に対する米国の反発や警戒はこれほどまでに激しくなったのか。トランプ政権の対中姿勢の硬化が、その原因になっているわけではなく、政権の対中姿勢の変化はその結果にすぎないのではないか──。
ワシントンの米国議会での大規模な公聴会を終日傍聴して、こんな実感を抱いた。
トランプ政権は安全保障面で中国との対決を明確に打ち出すようになった。だが、なぜここにきて対中姿勢を硬化するのか。その原因は何か。
米国には多様な対中観があるがトランプ政権のそれは特に強硬である、という見方は少なくない。ところが実際には、米国一般の対中観がこのところきわめて厳しくなってきたのだ。トランプ政権は、むしろその潮流に動かされたともいえそうである。
トランプ政権は中国の軍事動向に特に険しい視線を向ける。だがその態度も、米側の専門家たちの間で中国の軍拡への懸念や警戒がにわかに広まっていることが背景にある。私にとってこんな実態をまざまざと感じさせる公聴会だった。
中国の軍拡はこれまでになく深刻な事態
2月中旬、「中国の軍事の刷新と近代化=米国への意味」と題する公聴会が開かれた。連邦議会上下両院の政策諮問機関「米中経済安保調査委員会」が、中国の大規模な軍拡の実態とその米国にとっての意味を徹底的に討論するという公聴会である。
中国の軍事力の大幅な増強はもう二十余年も続いている。米国の歴代政権はこれまでも懸念を表明してきたが、習近平政権下で2016年末ごろから推進された「人民解放軍の改革・近代化」計画に対しては、今まで以上に深刻な事態として反応するようになった。
同公聴会は、中国政府が「改革・近代化」と呼ぶ中国軍の戦力増強を多様な角度から分析し、対策を検討する試みだった。中国や安保に詳しい米中経済安保調査委員会の委員9人と中国軍事の専門家たち10人が、午前午後の3部会で討論を展開した。
専門家たちの大多数は、米国の政府機関や軍機関に勤務した経歴がある。公聴会の参加メンバーには共和党側と民主党側の陣営が混在しており、政治スタンスは多様だが、中国の軍拡がきわめて野心的で画期的であり、米国に重大な課題を突きつけているという認識に関してはほぼ全員が一致していた。
2035年にすべての戦力が米軍以上に
冒頭で証言したのはランド研究所の上級研究員コーテズ・クーパー氏である。クーパー氏は米太平洋軍司令部に長年勤務し、中国軍の分析にあたった。同氏は全体図として以下のように述べた。
「習主席による軍近代化は、中国の防衛を再編し増強する過去最大の事業である。中国軍の戦力、戦略、ドクトリン、部隊編成の強化は、中国の世界規模の利害追求と一体となった野心的な内容となる」
「中国軍はこの計画を実行すれば、2035年には、インド太平洋地域で陸海空、宇宙、サイバー、電磁波など、すべての戦力で米軍とその同盟国軍以上となる。米側の有事への対応は難しくなるだろう」
公聴会ではこの後、中国軍の戦力増強の具体的な内容を別の米側4人の専門家が戦力ごとに報告した。
米空軍の中国担当顧問のベン・ローソン氏は、パワー・プロジェクション(遠隔地への兵力投入)能力を含めて戦闘機、爆撃機を増強する中国空軍の現状や将来を報告した。
米国海軍大学のジェームズ・ホルムス教授は、原子力潜水艦や空母などを増強して台湾海峡、東シナ海、南シナ海から遠洋までの戦力を高める中国海軍の野心的な拡張計画を語った。
中央情報局(CIA)などの政府機関で長年、中国の軍事動向を追ってきたケビン・マカウリー氏は、中国人民解放軍の陸軍の動きについて証言した。中国陸軍は組織の再編成やデジタル化などによって戦闘能力を強化しているという。
海軍大学校の准教授として中国の核戦力を研究し、現在は民間のランド研究所で同じテーマを調査するマイケル・チェイス氏は、中国軍ロケット軍の近況を報告した。ロケット軍は長年「第二砲兵部隊」と呼ばれ、各種ミサイルと核兵器の管理を任務としてきた。だが、最近、名称を変え、任務を拡大しているという。
こうした専門家たちの証言は、中国人民解放軍が急速かつ大規模に戦闘能力を高めているという点で一致していた。共和党側、民主党側の区別なく、米国では中国の軍拡に対する真剣な警戒が高まっているのだ。
中国の軍拡は米国への挑戦
公聴会の最後に、総括として警告を発したのはジャクリーン・ディール氏である。ディール氏はオバマ政権時代に国防総省で長官顧問や戦略評価局中国担当官を務め、現在は民間の安全保障研究機関を主宰している。
ディール氏は中国の戦略意図について以下のように証言した。
「習近平政権は、米国の国際リーダーシップを奪おうと意図し、この野望を軍事力の大増強により実現しようとしている。まず企図しているのは、インド太平洋での米軍の能力の弱体化や同盟国の離反だ」
中国は、現在の米国主導の国際秩序を突き崩す手段として軍事力を増強し続けている。つまり中国の軍拡は米国への挑戦に他ならないというわけである。
こうした認識は今や米国の中国軍事研究の専門家たちの間でコンセンサスとなり、議会の共和、民主両党の議員たちへと広がっている。トランプ政権が先頭になって対中強硬策を取り始めた、という構図ではない。まず中国の野望が先にあり、その結果として、米中関係が不吉で危険な暗雲を漂わせているのである。その展望が日本にとっても重大な課題となってきたことはいうまでもない。
[もっと知りたい!続きをお読みください]
======================================================================================
かつてのアメリカの予測では、2030年代の中国は今の形では既になく、アメリカの懸念対象にさえなるような国ではないはず、だった・・・
それが油断し、騙され、見誤って、育ててしまった結果がこれ。
もし大統領選でヒラリーが勝っていたら、インド・太平洋戦略はあったでしょうか?
そう考えると、アメリカ国民はすんでのところで踏み止まってくれたのかなと思ったりする。
とはいうもののアメリカの動きには解せないものも少なくない。
例えば中東で、プーチン(というよりロシア軍)を怒らせるような行動や
東欧での対露軍備増強など、トランプ大統領の考えとは根本的に違うような気はしますけど、トランプ大統領もまだ全て自分の思い通りにはならないようです。
中国の野望を恐れるなら、ロシアはどうしても、アチラ側に追いやるべきではないと思いますが、そうではない勢力がいるということなのでしょう。
中国経済の出鱈目ぶりをみたら、これからの10年の間に、確かに中国は経済危機やバブル崩壊に見舞われるものと思われますが、だからと言ってそれだけに賭け、侮り、準備を怠ってよいものではないでしょう。
習近平が暗愚だとか、凡庸だとか言ってみても、ライバルを抑え込み、
長老を黙らせ、皇帝の座を掴んだ手腕は決して侮れるものではない。
たかが憲法改正にすら手こずるような日本が、このまま・・・準備も覚悟もできないまま・・・アメリカが弱体化し長期的衰退に入るのだとしたら?
2030年代。。。残された時間は少ない。少な過ぎる。。。