お師匠様の教え

抜粋


【放てば手に満てり】
自分が一番好きな、心の支柱としている言葉です。

進むべき道は大きな河に阻まれ、こちらの岸は崩れかかって危険で恐ろしく、対岸に行くのに橋も船もない。
泳いで渡ろうとした者は、溺れ流されて命を失った。
そこで人々は苦労していかだを作り、安全に河を渡った。 渡り終わって人々は云った。
「このいかだは、実に役にたった。このいかだが無ければ死んでいたかも知れない。せっかく苦労して作ったのだから、肩に担いで持っていこう」
一行は重いいかだを担いで旅を続けた。
いかに役立つ知識も経験も、捨てなければならない時がある。
大切だと思い込んで手放さずにいると、逆に悩みや苦しみの原因に変わることがある。
「いかだを担いで行く事は、そのいかだに対して有り難かったと思っているのだろうけれども、本当にそうすべき事なのだろうか。
真に有り難いと思うのならば、いかだは捨てるべきである。
実は、執着しないことが大切。
多くの人は無意識に「こだわり」の中に生きてしまっている。
勿論、「違いが判る」とむしろ「こだわる」ことにシッカリとした価値観を見出し、その「こだわり」に幸せを感じる人は良いかもしれない。
しかし、その「こだわり」に振り回され、苦しみの原因となるのであれば、それを捨て去ることが苦しみからの開放なのかもしれない。

後生大事とこだわり握りしめている掌を開けば、全てのものに触れる事ができる。
「放てば手に満てり」
道元禅師のこの一句も、真実を求めるうえでこだわりを捨てる事の大事さを説いたもの。

今、目の前に金の砂が天から地に流れ落ちているとしたら、
人は手を出し、握りしめる。
しかし、その中にはごく僅かな汗にまみれた金が残っているだけ。
もしも、その時勇気を出して手のひらを広げて、流れ落ちる金の砂の下にかざすとどうだろうか。
手の指の先まで山のように盛り上がって積み上がる金がある。
掴むためには、一度放さなければならない時がある。