健康な社会への処方箋

 では、健康に良い社会に転換するには何が必要でしょうか? まず、社会保障を厚くすることです。医療費の窓口負担を抑えるなど保健医療政策を改善すること。何より社会・経済的な格差を縮めることです。不安定雇用を減らし労働条件を改善することが必要です。ほか、教育や保育、住宅の保障など、多岐にわたる社会政策が必要です。
 「平等な社会は経済効率が悪い」「国際競争力が落ちる」「社会保障を厚くしたら働かなくなる」などという人がいます。
 しかし、もっとも所得格差の小さい北欧諸国の国際競争力は日本よりも強く、経済成長率も高いのが事実です。日本のように、多数の青年労働者が非正規だったり失業したりでは、能力を開発するチャンスもなく、マクロで見れば社会的な損失です。
 子どもや若者が教育・訓練の機会を保障されることは、将来の貧困を減らし、質の高い労働力を確保し、経済の発展にも望ましく、少子高齢化社会への対策にもなると思います。

格差も病気も自己責任じゃない 生活習慣病という言葉が定着しています。タバコを吸ったり、運動しない、食べすぎなど、習慣が悪いから病気になるのだから「本人が好きでやってる。社会がおせっかいをする必要はない。自己責任だ」という声が幅をきかせています。しかし実は、生活習慣の違いの背景にも、社会経済的な要因やそこからくるストレスなどの要因が関与しています。 生活習慣より職場のストレスの方が健康に悪影響があるという報告もあります。 また、生まれてから成人するまでのライフコースを検討すると、いま貧困な人は、幼いころ親が離婚し、母子家庭だったり、塾にも行けず、学校の勉強についていけず良い就職先も得られず不安定雇用で、生活習慣が荒れてしまったようなケースが多いのです。 野菜たっぷりのヘルシーな食事が良いに決まっていますが、お金がなかったら安い揚げ物の総菜で間に合わすことも増える。不健康になりやすくなる。社会や環境要因と健康の関係が解明されてきています。 食べたいものをガマンできるのは、将来に希望があるからです。将来に希望がもてず、いま生きることで精いっぱいの人に、「一〇年後のために気をつけましょう」と言っても無理でしょうね。

所得の再分配が弱いから

 なぜこんな社会になったか。社会保障を抑制したからです。社会保障は高所得者から低所得者へ所得を再分配する役割を果たしますが、それが弱くなっています。
 例えば保育も社会保障の一つです。お母さんが子どもを預けて働きたいのに保育所がない。母子家庭が貧困になりやすい理由の一つです。「子ども手当で保育を買え」というだけでは、不十分です。
 社会保障が弱い社会では、病気、障害、老齢、失業などのライフイベントに対応できない。多少のお金を持っていても乗り切れない。格差社会は、ホームレスなど一部の人の問題でなく、みんなの問題です。