ぶおおおん!ぶおおおん!
原付エンジンの激しい音が鳴り響く。
「速いじゃないかコラァァ。その調子で走れやコラァァ!!」
「は?まだスキル使ってないんですが。というかまだ歩いてるんですが。だいたいお前遅くない?原付使ってるのに、歩いてる俺と同じスピードって」
「うるせえ!!チュートリアルではプレイヤー抜けない設定なんだよコラァァ。
早くスキル使えやコラァァ」
このまま長い時間このフランスパン頭に付き合ってるわけにはいかない。
このスピードアップスキルを使って早く緑の国まで行こう。
もともとカイトは足が速いほうだ。このスキルを使うとどれだけ足が速くなるんだろう。
命令に従うのはしゃくだなと思いながらも、カイトは「暴走運転」と書いてあるスキルを人差し指でひょいっと上にフリックする。
ぼうぅぅん!
目の前に突如煙があふれ出した。
煙が完全に消えると、目の前に小さなものが置いてあるのにカイトは気づいた。
原付だった。
「まさか・・・これに乗るってこと?」
「そうだコラァァ。超絶スピードアップできるぞコラァァ」
もうなんでもいいや。従おう。何から何まで自分の思考の斜め上からやってくる事象に対して、カイトは考えることをやめた。
少し錆付いた原付にまたがる。
ぶおおおん!
エンジンが自動でかかった。
「いくぜー!フランスパン職人!!俺はこう見えてなあ、無免許なんだよ四露死苦!!」
右手のアクセルを引き、一気に加速する。
「いいじゃねえか!!それでこそ勝負のし甲斐があるぜコラァァ!!」
「お前、俺に勝てないんだろ!?おとなしくチュートリアル報酬用意しとけコラァァ!」
平野を抜け、山に入りかかる。
ものすごいスピードで駆け抜けているにもかかわらず、フランスパンくそ野郎もものすごいスピードで走りしっかりとついてくる。
というか、スピードを多少落としても同じスピードで並走してくる。
そうこうしているうちに、もうすぐ山頂だ。
「山頂は俺の生きている証!! 絶対に獲るぜコラァァ!」
フランスパンは叫ぶ。
カイトも負けじと声を荒げる。
「僕にできることは一つしかない!ジャージを・・・みんなに託されたこのジャージを・・・精一杯ゴールに届けることしかできないんです!!」
青春スポ根漫画で聞きそうなフレーズを叫びながら、馬鹿2人はゴールまで一直線に駆け上がる。
ごーーーーーーる!!
優勝は新人プレイヤー!!山頂を制したのは、新人プレイヤー・カイト!!
2人は汗だくで息をするのも困難なくらい呼吸が乱れている。
アクセルを握るだけなのに・・・
それくらいの熱戦を繰り広げていたのだろう。
ゴール後も助走しながら、フランスパン絶滅危惧種はうつむき加減でつぶやく。
「やるじゃねえか。俺の完敗だコノヤロウ」
「うるせえ。お前もいい走りだったぜ。お前のこと、見直したぜ。」
「いまさら何言ってんだ。行け、チュートリアルはこれで終わりだ。
チュートリアル突破報酬として、そのスキルはもうお前のものだ」
「ありがとうフランスパンマン。このスキルは一生大事にするぜ」
謎の友情が生まれた馬鹿2人だったが、いつまでもチュートリアルをやっているわけにはいかない。
カイトはフランスパンマンに別れを告げ、原付を加速させ一気に山を駆け降りた。
山を降りたとき、原付が「ぼううううん」という音をたてて消えた。
スキルには制限時間があるようだ。昔やっていたゲームと同じ設定だ。
同じ設定であるならば、一度使用したスキルは一定時間使用できないはずだ。
ブレスレットをそっと触り、目の前に現れたスキル発動画面を見ると、やはり「暴走運転」のカードはグレーアウトしていてフリックできない状態となっていた。
「ありがとう、フランスパンナちゃん」
もう一度ブレスレットに触れ画面を消して、ふと前方の風景に目をやる。
カイトは唖然とした。
目の前は開けた平野となっており、激しい砂煙が竜巻のように巻き上がっている。
その中で何十人もの人たちが激しい戦闘を繰り広げていた。
ゲームだとはわかっていても、それはまるで昔の戦争の映像を見ているかのようだ。
激しい爆発音や叫び声が辺り一面に響き続けている。
あまりの光景にカイトはその場を動けなくなった。
カイトはチュートリアルを突破してすぐに、緑の国と赤の国の交戦に巻き込まれることになったのである。