帰り道。
俺はただ歩いている。
まっすぐに。
でも。
感じる。
何かいる。
匂いだ。
人間の匂い。
香水ではない。
これは男の体臭だ。
前には誰もいない。
後ろを振り向く。
誰もいない。
何もない。
上を向く。
今日は星が見えない。
もちろん誰もいない。
下には雪が敷き詰められている。
誰もいない。
でも。
匂う。
自分の匂いではない。
他の人間の匂い。
まとわりついてくる。
俺の歩く早さに合わせて。
追ってくる。
匂いはそれだけではない。
あの、おでんの匂い。
あの時の。
今なお俺の周囲を漂っている。
そして。
雪の匂い。
これはいつもと同じだ。
冬は例外なくこの匂いがする。
冷たい空気の匂い。
いつもと同じ。
これは変わらない。
どれも日常の匂い。
俺の好きな匂いなのに。
この雪の匂い。
この空気の匂い
あの時のおでんの匂い。
そして、あの人間の匂い。
もういないのに。
もうないのに。
雪の匂いに混ざって。
空気の匂いに混ざって。
どこまでも追ってくる。
電柱がある。
誰もいない。
でも煙草の匂い。
そして血の匂い。
どちらも部屋に充満していた。
どちらも服に染み付いた。
俺の体にも。
もう消えないだろう。
一生。
彼の体臭。
雪。
空気。
おでん。
煙草。
血。
どんなに歩いても。
走っても。
振り切ることはできない。
一生つきまとう。
後ろを振り向く。
いつもと同じだ。
雪も。
空気も。
何も変わらない。
変わらないはずなのに。
どこか違う。
何か違う。
そう。
追ってくる。
逃げられない。
あの時の匂いからは。
あの親友の匂いからは。
俺が死ぬまで。
待っているのだ。
俺が死ぬのを。
俺は・・・。
