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       ダバオ通信  ヤン爺のラストライフ・ダバオ 
          Last Life Shift In Davao Philippines
 
   
        フィリピン社会に戸惑う ダバオ隠居物語
              「団塊 百年の孤独 老いの抗い」 
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朝 目が覚めたら
パッと起きないで
ちょっと静かにして
今日の自分の様子を伺う

体調とか?

そうですね 内観って言う
つま先から頭のてっぺんまで
そっちはどうだい?
みたいな感じで
体に訊いてみる

膝の裏が張っているな
と思ったら
昨日の食べ過ぎで
胃にたくさん物が
残ったまま
寝ちゃったからかな

それじゃあ
今日の朝ごはんは
こういう感じに
しようって
考えていくと・・

今日の
自分というものが
だんだん見えてくる

今日は 
ああしなきゃ
こうしなきゃって
自分を
合わせるんじゃなくて
今日の自分に
自分の時間を
合わせられるように
最初に体に訊く

自分の体と話しながら
今日はこういうふうに
してみたいと
自分を縛らずに委ねる
無理をしなくなった

今日の自分は
こうだと
知っておけば
そういう日も
あるよね
そんなときは
冷たいビール吞んで
リフレッシュしようか
甘やかしですね

良いですね

自分にとって
それが 一番

そう 大事
だって 自分しか自分を
甘やかすことはできない

この体で この自分で
これからも生きていく
みんなそうなんだ…と
人生への諦めが
滲み出た



 

砂に腰を下ろし
静かな海を見ながら
風の音を聴く

人は何のために生まれ
どこへ行くのだろう……? 
な~んて 考えたりして

あくせくせず
流される まま 異国に
南国の 愉快な気分で 
フィリピン人の ように
堂々と 暮らしたい

フィリピンで
こんな時間があるから
明日から
また 日常に戻れる



 

幸せを断言することに
日本人は慣れてない

フィリピンの小学生
一番の希望は
なんだと思います? 

働かなくても生活できる
金持ちなんですって

それって 
上流階級のこと

そうなんです
そういう階級が
ちゃんとあるから
働かなくて
生活できるのが
一番いいって
思っちゃうん

夢だけで
金持ちになんか
なれないけどもネ

日本じゃあ
考えられませんよね
一生働かなくても
食えるぐらい
金持ちって

日本人は
どこか 頭の片隅で
そんな生活 
飽きるだろうなとか
バカになるんじゃ
ないかな とか
思うんじゃない

これが 
フィリピン人だと
家族と暮らすことが
私の幸せですと
簡単に断言する

日本人に
あなたの幸せは
なんですか?
そう質問すると

「うーん」と
考え込んで
内心 まともなことを
言わないと
恥ずかしいぞ と 
ためらって
こんがらかるだけの
ような気がする



 

日本の生活は
やっぱりおかしいと
海外で暮らすと思う

日本人で「幸せ自慢」
している人って 少ない
それどころか 
ほとんどの人は
「自分はどんなに
   大変なのか」を
語っている

家庭でも
職場でも 学校でも
「自分はいかに
   大変なのか」を
みんな競って語っている

「自分は他の人より
   苦労しているんだ」
ということが
その人の存在証明

「自分はいかに幸福か」
なんてことを必死になって
しゃべっている人は
めったにいません

あなたには
「これが自分の幸せだ」と
自信を持って言えるものが
ありますか?
 
まあ
「仕事にやりがいを
   感じている限り
   幸せだ」とは 思っている
でも 幸せってなんだろうと
ずっと 考えてもいる

 


ダバオの家
ひっそり静かな貸家の
のびやかな空間に
棚が並んでいる
ここで好きになった
中国茶の茶器の棚
もう 一つは
大量の本の棚

ちょっと崩れた
かっこ悪い
かっこよさ
人間臭くて
なりふり構わなくて
でも その姿が
かっこよくも
見えるというような
自分としては 面白い



 

自分は
ダバオが 好き
空が高いし 青いし
空気が綺麗だし
水も豊かだし
人間も優しい

ダバオに
住んでいなかったら
また 違った
老後だった

こればかりは
わからない
自分がとった選択を
是として
生きていくしかない



 

30歳離れた
彼女との出会いは
幸福で少し寂しい
ものだった

彼女の顔は昨日より
一そう魅力がまして見えた
目鼻だちが
何から何まで
実に細そりと磨かれて
じつに聡明で
可愛らしかった

彼女は
白い巻揚げカーテンを
おろした窓に
背を向けて坐っていた

日ざしは
そのカーテンをとおして
射し入って
柔らかな光を
彼女のふさふさした髪や
その清らかな首すじや
流れくだる肩の曲線や
やさしい安らかな
胸のあたりに
ふりそそいでいた

自分は
じっと彼女を
眺めているうちに
彼女がなんとも言えず
大切で 親愛なものに
思えてきた

自分は
もうずっと前から
彼女を知っていて
彼女と
知合いになるまでは
何ひとつ知りもせず
生きた甲斐も
なかったような気がした

「きれいなもの」に
出会ったときに経験した
あの本質性格 新奇さ
未知性 非日常性
エロス的可能性
背後的世界性への憧憬

もっといえば
自分が生きているのは
この「美しいもの」を知り
それに触れるためで
あったと 気づく

恋愛の欲望は
その対象を
一目見たいから始まり
話したい 
深く知りあいたい
触れたい そして
共に生きたいという
欲望にまで進む

恋愛の情熱において
欲望の対象となるのは
彼女のもつ
美と美質であって
その「徳」
正しさでは ない

人間のロマン性は
自分の一回的な
生への実存的な憧れ

恋愛の結晶化は
この憧れを
現実にわがものとして
生きうるという
稀有な可能性

性愛の場合などに
最も深い本能が・・
より高いもの
より望ましいもの
より価値あるものとして

すなわち それは
この本能の類型の
上昇運動ということが
おのずと見えてくる

容姿の美から
人間の営みの美へ
人間の精神の本質
それ自体の美へと
進み行く本性をもつ

美がなければ
実存的生の
享受の糧が失われ
生そのものに対する
自分の根本的な
意欲が枯死する

とじ込もっていた
部屋から 一歩 踏み出し
光を浴びたり 
風を感じ 
酒を 女と楽しむ時
生きる心地が 
よみがえる のは
誰にも 共通する 感覚

好きなときに
タバコを吸い酒を飲む
それが 今 全部叶っている
なんの不満もない
物欲もなくなった

しかし 何よりも
フィリピンを
輝かせているのは
子どもたちのパワー
好きを突き詰める集中力
触ってみたい
見てみたいという探求心
高い壁を乗り越える
柔らかい心
そのすべてが 眩しい

昔も今も
それが世界の宝物だと
わかる

繰り広げられる
ユーモアあふれる
やりとりも楽しく
笑うことが
人生を前に
進める原動力に
なると改めて知る

美しく
生きるために必要な
受容 抵抗 ユーモア
人生で忘れては
いけないものを
思い出させてくれる

 



月の明るい夜は
普段身近にあって
気にしないものが
意外なほど
特別な存在に感じる

家の中の本や鏡は静かに
呼吸しているかのようだ
雑多な色は消え
青い光だけの世界

畳んでいるものは
何だろう
明朝に着る服 
仕舞えぬままだった
洗濯物
それとも今日一日の
来し方かも知れない

「きちんと」は
子どもの頃に親から
寝る前に枕元に服を
畳んで置くよう
言われていたことを
思い出す

月夜の清澄さと相まって
懐かしさを感じる