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ダバオ通信 ヤン爺のラストライフ・ダバオ
Last Life Shift In Davao Philippines
フィリピン社会に戸惑う ダバオ隠居物語
「団塊 百年の孤独 老いの抗い」
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子供の頃 台所から スパイシーな 香りが漂い
遠い所からでも 感じとれた時の 気持ちを
その時の情景を 今でも 思い出せる
うれしくて
「あ! 今日 カレー?」と 聞いて
ご馳走だ 飛び跳ねるように 喜んだ
ちょっとだけ 寂しくもある
母は 亡く 今は もう味わえないからだ
一人暮らしの自宅で
自分で 作って食べることも できる
だが やはり 何かが 違う 作る人の数だけ カレー味
自分流は インド人もビックリ
「カレーを 飲んで ご飯を食べる」
カレーとご飯を 一緒に 口に入れるのでは ない
交互に食べるのだ みそ汁とご飯のような関係
素直に従えば 懐かしい味に 出会える
カレーは さらさらで とろみは 全くない
かぐわしいスパイスの香りが 食欲を そそる
ライスを ひと口 かむほどに 甘みが 口に広がり
お米のおいしさは ちょっとした驚きだ
料理が下手でも カレーだけは なんとかなる
市販のルウの半量で 作っても 3、4人前は 出来てしまう
しばらく カレーの日が 続くことになる
2日目までは おいしいのだが
その後は 食べるのが だんだん 憂鬱になってくる
海軍カレーだって 週一度だから 待ち遠しく うまい
自家製 御新香うが あれば 3日目も なんとかなる
福神漬けやらっきょうは 無い物ねだりだからね
漬けだれを 全て鍋に入れて 沸騰させる
<漬けだれ>
・水 370㏄
・梅干し カリカリ梅などでも良し 適当に
・ショウガ 好みで
・酢 130㏄ 白糖 50グラム見当
・唐辛子 1本 ニンニク 塩 少々
乱切りキャベツと細切りニンジンを塩揉みし 30分置く
キャベツ ニンジンの水気を しっかりと 切り
冷えた漬けだれに入れ 一晩置く 完璧な シャキ シャキ
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主人公の「女」は
父親ほど 年の離れた 自分に
笑顔で付き合ってくれる 面倒見が いい
不器用に老いを 生きる 生活の 一部始終に 働いてくれた
2人の出会いは モール内のスーパーマーケットだった
最初は レジで 見かける だけ だったが
悪魔の手引き 自分が 万引きしかけた時
主人公が 見つけて声をかけ 悪魔払いをした
悪行を 未然に 防いでくれた
それを きっかけに 会話するようになった
ぽっちゃりした小柄 大きな目 褐色の肌
そんな 主人公が 或る日
自分のカゴに入った 食材とルーを 見て
「今夜は カレー?」と 聞く
重ねて いつも 1人では 食べ切れない量の
食材を 買っていくことについて
「奥さん 病気か なんか?」と 質問する
ジェスチャーで 1人だと 答える
「でも いつも 2人分買ってく じゃない」
「2人分 作るから」
「へえ そんなに大食」
「いや 2人分作って 残す」
「残して どうすんの」
「次の日 食べる」
「忘れて 腐らせ 捨てるときもある」
だったら 最初から 半分だけ買えば いいのに
お肉だって この半量を 買えば いい
「2人分 作って おくと
誰か 今夜 来そうだなって 感じが するんだよ」
「でも 結局は 腐らせ 捨ててるんでしょ」
「誰も 来ないからね でも 寂しいんだ」
こうしたやり取りの後
「鉛筆の芯」とまで いかないが やせた自分の姿
もの寂しい返答をする 自分に
主人公は 思わず
「私も 今夜 カレーが 食べたいって 今 思った」と 告げ
アルバイトが 終わった後に 拙宅に 来た
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大鍋に 何人前も仕込むと 高揚感が あるし 旨い
「どうせなら」と つい 多めに作ってしまう
けれども 一人暮らしだから 全部を 食べきれない
冷蔵庫に保存も限界が 手料理を ゴミに捨てる瞬間は
その量が 少なくても 本当に むなしい
だからと言って 1人分 きっちり作るのも 難しい
レトルトなど ここでは 売って いない
外で カレーが 食べられる店を 探しても
ダバオに カレー専門店など ない
無機質でない 主人公の 手料理を食べて
リラックスしたい時に 主人公が いない
だから 自分で 手間暇かけ 熱々 スパイシーな
カレーを 作り 食べ 心 温めるしか ない
そう言えば カレーが嫌いだって 言う人に
会ったことが ない カレーには 外れが ないもんな
若い女 主人公が 気になるなんて 気持ち悪いよと
思わず 言ってくれる人が いてくれる
ありがたい
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カレーうどん・そば その手も 有る が
残ったカレーを 使って 4日目
「焼きカレー」は どうだ
土鍋の内壁に バターを こすりつける
火をつけ ご飯を 鍋に馴染ませたら
骨付きのチキンスープカレーを 上から注ぐ
たっぷりかけたら 生たまご チーズを乗せ 蓋をして
グツグツ煮立てる おこげの 香ばしい匂いが したら
火から降ろし 食べる直前に スプーン 2本を 使って
しっかり かき混ぜる
ホロホロ食感の 柔らかな チキン
とろりチーズ スパイシーな香り 熱い 辛い
スプーンで ハフハフ ひと口たべれば 舌先でマグマ爆発!
鶏肉は 醤油ベースのタレで 別に煮込んだ 残りもの
残りのカレーと合わせれば うま味が 二乗
出来たての温度と手間暇かけた ぬくもりが
お腹も心も温める たまごと チーズで まろやかに
じんわり辛く だんだんと汗が 流れてきて 爽快満腹
二人で 食べていても 孤独な時間なのだだけれど
そばにいて 目配りしてくれれば 安らぎを 感じてる
焼きカレーには ワインが 合う 浅い酔い加減
ご機嫌な気持ちを 分かち合えることが 心地よい
時折 気にならない 範囲で
ニコニコと声がけしてくれる 主人公 白い歯の笑顔は 宝
「一人は 気楽でいい」なんて 強がっていても
誰とも 話さない日が 続くと 生きる気力も失せる
血縁関係を超えた 新しい関係で支え合う 優しい繋がり
この世に生まれ落ちた瞬間から 人は 個の存在になり
他人と物理的に融合することは 不可能
たとえ パートナーであって どんなに 愛し合っていても
肌を寄せ 触れ合っていても
誰かと ひとつになることは 出来ない
そのディレンマを抱え 人は 生きている
孤独だから 他人を求める
しかし 他人は どこまで行っても 他人
その事実に 直面し 人は更に 孤独に苛まれている
フィリピン人とは 文化が異なる
どこであっても 一筋縄では いかない
人前が 苦手だった自分は 人生の 比較的早い時点で
人は 一人で生きて行くものだと 気づかされていた
そのことは 追って 自分が 異国で暮らすようになった
原動力とも なっている 気が する
空虚を 噛み締めながら
生きて行くのが つらい 孤独な朝もある
熱い濃い目のコーヒーで 正気を取り戻し
また 新しい一日を 生き始めるのです
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主人公 最初は 飲めなかった
ビールに 口を つけて
「苦い これが 何でおいしい?」と 言った
でも 何度も 乾杯ビールを 飲んでいるうち
「おいしい」と 思うようになったらしく
だんだん 飲むように なったから
体が 変わったんでしょう
日本酒を 日本のワインだと 紹介したら
みんなで 飲むから「おいしいのかな?」と
試しに なめてるうち だんだん好きになったようで
日本料理店に行くと 知らない銘柄を 飲むのが
楽しみになった 浴びるほどは 飲めませんけど
チビチビと 冷や酒が 気に入り
「おいしいなぁ!」と 叫んでいる
「ビールを 飲まないと 今日は 話す気になれないわ」
そんな こと言う 主人公 こんな女 いいよ
ひと夜を ともに過ごした後
人目につかないよう 朝の ダバオ川を 渡って帰る
自分も もっと 自由に生きてみたい
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心を満たす料理には 誰かとの 温かい繋がりがある
1日のすべての食事を ひとりで 食べる
「孤食」が 増えている 長生きしてるんだから
当たり前だ 遅かれ 早かれ 誰もが そうなる
孤食は 一緒に食事をする相手がいる人に 比べ
うつ病リスクが 高いという ふん! 余計な お世話だ
主人公の女は それを知ってか 知らずか
万引きを してしまうほど 精神が イカレきった
狂人な自分と 一緒に ご飯を食べて
元気づけようとしたに 違いない
主人公が いれば
誰のために 作ったわけでもない 手料理を
1人食べる わびしさも
残りモノを捨てる 空しさも 埋められる
お店の料理にしろ 1人で 食べ切れずに
捨てる体験が 続くと 心は 傷ついていく
ご飯を 食べることで 目や舌 胃袋を 満たす
それ以上に 生命を維持する糧が 食事である
そして 人は 食べることを 通じて
誰かとの 温かいつながりを 感じたがっている
高杉晋作の辞世の句「面白きことのなき世を面白く」
楽しむというのは 客観的だけど
「面白がる」のは もっとポジティブ
俯瞰で物事を見るニヒリズムさと
ポジティブさの両立が 主人公の魅力でした











