あれは
19歳の夏でした。
1人で地元の大きな雑貨屋に行き、店内に入る直前
入り口にたむろしていた中学生たちがザワつき始めたのです。
その視線の先には
キンニクマンの覆面に競輪選手のような服装の男性が。(以下マスクおやじ)
え
これはヤヴァイ感じしかしない。
迷わずあとをつけて入店。
すると入るやいなや広い店内に響き渡るような大声で
ねぇ!ブルガリアの香水ある?
と叫んだのです。
ブ、ブルガリア!!
それはヨーグルト
あの瞬間、店内にいた誰もが心の中でツッコミを入れたことでしょう。
すぐさま店員が駆け寄り香水の場所を案内。
香水を物色するマスクおやじ。
しかし購入する様子もなく、次に向かったのはパーティーグッズのマスクコーナー。
すると赤レンジャーのマスクを手に取り再びバカデカい声で
ねぇ!このマスク在庫いくつある?
まとめ買い!自分のため…?それとも仲間がいるのか…?
もう興味深過ぎてハゲそうなペルナンド。
しかし時間がなく最後までは見届けられずにあえなく退店。
気になる…気になり過ぎる!!
その1週間後。
電車を待っていると、なぜか急に大きなセミが私めがけて何度も突撃してきて
ギヤぁああああ!!
と1人でパニックになり、その場で小暴れしついでに乗車方向とは反対側を向いたその時
ええええ!!
タクシー乗り場で休憩中と思しき運転手と会話するマスクおやじを発見!
ギヤぁああああ!!
セミの襲撃時とはまた違った「ギヤぁああああ」が。
あんな奇人に再びお目にかかるとは。
まさか…あのセミはヤツを発見させるために仕組まれたものだったのか…?←違う
ていうかタクシーの運転手さん、友達なのか…?
これで明らかになったのは
あのマスクはやはり彼にとっては普段着の一部であるということ。
先日の雑貨屋からは車でおよそ20分の場所での出没。
一体どこに住んでいるのか…。
興味はどんどん深まっていく一方でした。
それから1ヶ月ほど経ったある日
私はバイト先である百貨店の和菓屋で働いておりました。
書き物をしていたかレジをいじっていたかで後ろを向いていた私に
この試食食べてもいい?
という何やら聞き覚えのある大きな声が。
ん?
と振り返るとなんとそこには
マスクおやじが!!!!
心の中で叫び散らしたことは言わずもがな。
おそらく目は明らかに見開いていたことでしょう。
上ずった声で
ど、どどどうぞ!!
と返答した瞬間
角切りにしてあった金つばを、爪楊枝にしこたま刺し始めたマスクおやじ。
おいおいおいおいおい
そしてなんのためらいもなくマスクをまくりあげてパクリ。
ええええ!!マスク着用へのプライドォオオオオ!!
そしてマスクをまくりあげたまま
おいしいねコレ!
ハハ、ハハハハハ…あ、ありがとうございます。
もうツッコミどころが多すぎて動揺しまくるペルナンド。
もちろん購入することはなく
ありがとね!!
と勢いよくお礼を言うと満足した彼は風のように去って行きました。
しばらく呆然としていましたが、その後居合わせたバイト仲間に、ことのいきさつをテンション高めに説明すると
ジワジワ面白さが押し寄せてきて、やっと2人して大笑いすることができました。
この何週間か後、私は違う店舗で開催されるイベントのヘルプに1日だけ入ることに。
いつも働いている場所から車でおよそ30分の距離。
自動ドアが開いたので
いらっしゃいませー!
と顔を上げた瞬間
そこには赤レンジャーのマスクに法被を着たマスクおやじが。
ぎょぇえええええ!!
入ってくるなり
今日金つばの試食ある?!
とまっすぐにレジの方へ。
その日はスペースの関係でたまたま試食を出していなかったため
えええ!なんで?!なんでないの?!
と騒ぎ散らすおやじ。
するとすぐに社員さんが
お外で無料のおしるこを配っておりますのでそちらにどうぞ!
とはた迷惑なマスクおやじを連れ出し
おしるこを食らうとおやじはなんとも満足気に帰って行きました。
この頃からマスクおやじの目撃談がそこかしこで聞かれ
私の通っていた大学でも有名人になりつつありました。
一体彼は何者なのか…。
つづく。