◉異常事態発生時の警報音


報告書には異常事態発生時の衝撃音分析に於いて、CVR再生波形に添えてサウンドスペクトログラムが提示されている。図①

また1/3オクターブ周波数分布図10パターンの周波数について音圧レベルを入力電圧に変換したグラフとして掲載された。図② 

そして事故調は最初の衝撃音の途中から鳴った寸時の警報音を客室高度警報音と推定した


🔳 警報音について. 事故調は不可解な分析方法と結果を提示した

サウンドスペクトログラム中には37″18から警報音が記録されていたにも拘らず、途中の37″97で打ち切って続きを提示しなかったことは大いに問題である。

事故調は警報音の分析を最も確実なスペクトログラムを使わず(提示せず)2.5KHz帯の分析結果として客室高度警報音とみられる警報音が0.7秒間に3回鳴ったとあからさまに誤認した


付録9.P168

付録8.P160

流出CVR音声を聴くと警報音は1秒を超えて4回少々鳴ったことは明白なだけに、何故綿密な分析をせずに事実より些少に見せかけたのか。

⚫︎衝撃音と警報音


図①-1

付録9.付図-6 サウンドスペクトログラム

..③は衝撃音


警報音は2.5KHz帯の波形から分析したとあるが、周波数の中心は2KHzである。むしろ2.5KHz帯に警報音の周波数は殆ど含まれていない。

図①-2

付録9.付図-6の拡大図


そして1/3オクターブ周波数分布図を見ると警報音を分析するのに不可欠な2KHz帯はデータが欠落している。警報音が含まれていない2.5KHz帯を分析しても意味が無い。図②


図②

付録9.付図-7 1/3オクターブ周波数分布図


事故調は客室高度警報音が僅か0.7秒間で停止し、26秒後(25′04″)から再度鳴り始めたとしながらその理由を明らかにすることはできなかったという。

分析に不備があり中断の理由も明示出来ないならば事実の認定とはいえない


図③ ESI DENVER [USA] の分析から

警報音は確実に4回記録されている。5回目の先頭部分は微かに見える。

間隔が0.323秒なので少なくとも約1.3秒間鳴ったことになる。



🔳 自動操縦解除音離陸警報音の可能性

この警報音が自動操縦解除音、又は離陸警報音である可能性を検討する。


自動操縦解除音の可能性


DFDR上、自動操縦は18:24′37″9238″92の間に解除された記録である。CVRとの時刻の補正値として概算した0.28秒を加算して自動操縦解除を38″2039″20に補正すると、警報音開始は37″18なので自動操縦解除音の可能性は完全に消滅する結果となった。


● 離陸警報音の可能性


離陸警報音が鳴る条件 付録8.P159

()着陸装置が「TILT」以外の状態とは

✴︎ギアが正常な格納位置にない状態

主脚は機体が地上にあるか空中にあるかを検知するセンサー[安全スイッチ]を備える。主にはショックストラットのエア.グラウンド.センサー、補助的にトラックポジショニングアクチュエーターのトラック.ティルト.センサー等があり、そのロジック回路からは複雑なデジタル信号が送られてモニターされる。


■ ここでCVRDFDRを重ね合わせて比較する為、DFDRに時刻の補正値0.28秒を加えると警報音は37″4638″75の間鳴ったことになり、この区間をLNGG:前後方向加速度及びVRTG:垂直加速度と照合する。図④

すると鳴り始めの37″46付近では主脚のショックストラットを縮める方向に強い力が加わる条件が揃う

[前後方向加速度0.125G. 垂直加速度1.868G]

図④


✴︎が完全に格納されると各アクチュエーターのオイルラインは遮断されてオイルはリターン経路に繋がる。結果ショックストラットのみが可動性を残すことになり、その伸縮はアクチュエーターの破損に繋がる為、脚の格納後は各センサーからのデジタル信号はより精密に管理される。


■ ショックストラットを縮めた荷重を概算


⚫︎先ずボディーギア格納時のストラット角度を水平から前上方に約35°としてストラットを縮める加速度を求める。図⑤-1

0.125G×cos(35×π/180)+1.868G×cos(55×π/180)1.17G✴︎

通常は1G×cos(55×π/180)0.57G

よって通常の約2倍の加速度[赤矢印]が加わったことになる。図⑤-2


⚫︎次にストラットに加わった荷重の増加分を概算する。

主脚片側のタイヤ4本とシステムを合わせたバネ下重量を約600kgとしてショックストラットを余分に縮める力はFmaから

(0.6t×9.8)×[(1.17-0.57)G×9.8]3.46kN


図⑤-1 主脚の構造

図⑤-2 主脚格納時模式図


⚫︎ギアアップ作動

離陸後ボディーギアへの荷重が自重の吊り下げ分のみになると、前輪に比べて後輪側はステアリングシステム等を装備する分より重量があるので、前後輪を結ぶトラックビームには水平に対して前上げのティルトが付く。

そしてストラットの125°前折れ格納時はトラックポジショニングアクチュエーターが最後に油圧を掛けてトラックビームのティルトをに保つ。同時にラッチローラーがラッチフックを押し上げて嵌まり込み[機械式に]アップロックされる図⑥

図⑥


動画① B747-400D [着陸時脚荷重615kN]

⚫︎ギアダウン作動 [動画①]

着陸時は、ギアがダウンロック後に後輪が接地してタイヤに十分な面圧が掛かかってからピボットフォーク回りの強いモーメントでのティルトが水平に戻り前輪が接地する。その反発力はデータ上586kNである。図⑦

よってトラックビームとピボットフォークのベアリング負荷は、離陸のティルトアップ時は小さいが、着陸のティルトダウン時は脚荷重の分かなり大きくなる。


図⑦ 国土交通省航空局 空港舗装設計要綱


🔘考察

振動と重なって主脚装置には通常の2倍の加速度による荷重でストラットの油圧ガス圧式ショックアブソーバーが短縮しエアグラウンドセンサーが反応したか、もしくはラッチローラーがラッチフックを押し下げて主脚の異常を検知したことで離陸警報音が鳴った可能性が高い。そして続く急激な加速度の減少で元の位置に収まり警報音は約1.3秒間で鳴り止んだと考えられる。これが衝撃音直後の寸時の警報音の正体と推測する。