大月旋回につき. 飛行経路図は事実無根である(前編) 隠された真実
飛行経路略図(報告書. 付図-1)の大月旋回区間はレーダー航跡を基にDFDRで補正した推定飛行経路として描かれている。ところが経路図上の旋回航跡はDFDRの各データと殆ど整合しないので出来るだけ明確にする。
🔲 先ず飛行経路略図から.
⚫︎40′52″の磁方位79°から旋回開始として航跡が重なる43′32″の磁方位358°で旋回終了とすると. 約2分40秒間の旋回所要時間となる。「磁北偏差6°30′W」図①.②
⚫︎飛行経路図を国土地理院の地図と照合して計測し. その航跡はおむすびを逆さにした様な形だが. この場合ほぼ定常円旋回と見なすと旋回半径は約6.08kmになる。
★しかし. 旋回距離(6.08×2)π≒38.2kmを2分40秒間で回ったとすると. 対地速度は38.2km×(3600/160) ≒860km/hとなる。
これを計算の規則上. TAS: 真対気速度とみなし.IAS: 指示対気速度に下式で変換する.「TAS:真対気速度▷海面上の空気密度の条件で飛行した場合の速度. 主に航法に用いる」
V.TAS Vs.IAS σ.密度比(ρ/ρs)
Vs.(IAS)をCAS:(校正)対気速度とみなすと. ▷619km/hと. 何れにしても異常に高い速度となる。
「対気速度計にはIASが表示されるが. 機体固有のピトー管の位置誤差と計器誤差はC/Pにより補正されるのでIAS≒CASとする]
▷よって飛行経路図の大月旋回のループは実際より大きく描いてあるか. もしくは所要時間を短縮しているか. どちらかであることはほぼ間違いない。
図① 付図-1. 飛行経路略図から
図②
HDG: 機首方位
🔲 そこで. 大月旋回区間についてDFDRを基に旋回半径と旋回距離. 及び所要時間を概算する。必要なDFDRを図③.④に示す。
「運動モードの分析は省き概算とする」
図③ TAS: 真対気速度 平均320.3 knot
図④
LATG: 横方向加速度 横滑りはほぼ左右均等
RLL: 横揺れ角[バンク角] 右に平均29.94°[29.94(π/180)]rad
️ ◼️ 計算(概算)
図⑤ 参考図 [定常釣り合い旋回]
図⑤から揚力Lの水平方向の成分は向心力Lsinφとなり下式(1). 鉛直方向の成分は重量を支える力Lcosφとなり下式(2)となる。
「Rt.旋回半径(nm-海里) U.真対気速度(knot.ノット) g. 重力加速度(nm/h²) φ. バンク角(rad)又[deg(π/180)] Ω. 角速度 m. 重量」
●上式(1)を式(2)で除すると旋回半径. Rtを求める下式が得られる。
★ 旋回半径: Rt ≒2.59nm
●また.下式で 荷重倍数 n.(垂直加速度に相当)を求める.
n=1/cos[29.94×(π/180)]
* 荷重倍数: n≒1.154G (垂直加速度に相当)
◼️ 計算(概算)結果
⚫︎旋回半径★は2.59nm(海里)▶︎約4.80km
となった。飛行経路図上の計測値6.08kmより小さな半径で旋回したことになる。
⚫︎旋回距離は.この間にALT(気圧高度)上約945m降下したので螺旋形になり. 円に対する比を1.014(円筒モデルで実測)として(4.80×2)π×1.014▶︎約30.6kmとなった。
⚫︎旋回所要時間
既に飛行経路図とDFDRの機首方位から40′52″~43′32″迄の2分40秒間と設定したが. 念の為DFDRのデータのみから所要時間を求めると…意外な結果となった。
🔵 [後編]で結果を検討する.
🔲 垂直加速度 +1.154G*について
DFDR読取り上. VRTG: 垂直加速度は平均1.122Gとなり. 迎え角8.1°で補正して.
1.122×[1/cos(8.1°×π/180)]≒1.133G *が機に垂直な加速度となる. 平均バンク角φからの算出値1.154Gと比べて過大な−0.021Gの差になった。図⑥.⑦
図⑥ VRTG: 垂直加速度
22000ft (6705m)→ 18900ft (5760m)
高度差 945m✴︎
●その差 −0.021Gは降下による負の加速度に他ならない。図⑧ ALT(気圧高度)から読み取る数値✴︎945mとは別個に. 降下による高度差を概算する。
1G▷9.80665m/s²から. 0.021G▷0.206m/s²
図⑤から鉛直方向への平均加速度は.0.206×cos[29.94°×(π/180°)]≒0.179m/s²
旋回開始の40′52″時には上昇も降下もしていないので. 降下の初速v=0として.
等加速度運動の式: x=vt+1/2at² から.
1/2×(0.179)(160)²≒2290m ↓
概算とはいえ. 大月旋回区間の2分40秒間に2000m以上もの降下をしたことになった。
🔘あくまで概算値としても. この大月旋回区間.18:40′以降の数分間のうちに大幅に高度を下げたことはほぼ間違いない。
✴︎ 後編に続く…